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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
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神殿管理機構の世界観について②

②九頭竜伝承

説明

今回のノートは、すでにワールド「ADUMBERTH」に配置している本で確認可能な内容です。
Noteのほうが読みやすいと思い、こちらに転記します。

それでは、お楽しみください。

<今後の投稿予定内容>
①Bar MUD△(公開済み)
②九頭竜伝承(今回)
③神殿管理機構の役割
④VALHALLA SESSION
⑤今後について

1.『新しいおもちゃ』

 大海原に浮かぶ島に住むものたちの残した話。彼らは毎日舟に乗って魚をとる。とれるのはおいしい魚そして、海桃。海桃は桃のように赤く熟れた生き物であった。それはこの島付近で山のようにとれた。食べると幸福になると言われるほどおいしい。とれたての海桃を都の近くへ運ぶ島民たちは幸せを運ぶ者とされ、港では丁重に扱われていたそうな。そんなある日、幸せ運びの船に不運が起きる。沖合で船が壊れてひっくり返ってしまったらしい。乗っていた船員たちは口をそろえて、大きな泡がぶつかったと言う。舟は大きく傾き海水が流れ込んだ。そして幾人かの者と一緒に海の底へ消えた。島の生業は幸せ運びだ。船が沈もうが都へ届けねばならん。いつもは漁に使う船も、海桃を載せ島を出ることとなった。

 不運が起きてから数日がたち、島は元の生活に戻りつつあった。毎朝、漁師は船を出す。漁を終えると都へ運ぶ準備をする。漁師が取れた魚と海桃を仕分けていると、ひときわ大きな海桃が出てきた。見たことのない大きさに、漁師たちは驚く。これほど大きいのは取れたためしがない。おいしいかどうかわからないから、みんなでためしに食ってみようと誰が言うまでもなく決まった。また誰が言うまでもなく、刺身で食べることになった。大きいとはいえど、数十人に分けると海桃はいつもより小さい刺身になった。親分が、祝いの言葉を述べ、みなはひょいと刺身を口に運んだ。結論から述べるとそれは、非常にまずかった。口に入れたものを吐きだし、水を飲む。親分が言う。これはだめだ。都にはとどけれん。漁師たちもその意見に賛同した。親分が問う、これはどこで取れたんだ。小さな声で一人の漁師が言った。このあいだ船が沈んだところです。さざ波の音だけがその場に残った。

2.『また来たおもちゃ』

 波打ち際に漂う、異様なまでに太った海桃。波に合わせて、弱った体がころころとまわる。今日もまた、大きな海桃が取れる。漁師たちは大きなものを海に返し、帰路に就く。おいしかったはずの小さな海桃は次第に数を減らし、幸せ運びの仕事は厳しくなる一方だ。ついには、小さなものが一つも捕れぬまま、家に戻る船も出た。仕方なく、新鮮な魚を求めて南の海での漁に切り替えることにした。収益は大幅に減るが、生きるためには仕方がない。魚を取り、都に届けることとなった。

 ある朝、海は異様な程の凪であった。漁師はみな坊主を覚悟した。
漁師の予感は当たり、この日魚はほとんど取れなかった。陽はのぼり、島へ帰ろうとしたとき、一隻の舟がバキンッと鳴いた。船は海から三尺くらい飛びあがり、船員たちは海へ落ちた。舟は丁度二つに割れて海に浮いている。落ちた船員は舟につかまろうと泳ぐ。またも船員と船は空へ放り投げられた。その後も数度、船員は海にたたきつけられ、力なく沈んでいった。他の船からは、大きな泡が海中から登ってくるのが見えた。助けに行こうとした船も、あまりの異様な光景に櫂を止めてしまった。凪だった海は、大しけに一転し、壊れた船だけがそこに残った。

 次の日も凪だった。数隻の勇敢な舟だけが漁に出た。かえってきた舟には魚はなく、望みの絶えた虚ろな表情の四人の船員たちが呆然と立っていた。二隻しか返ってこなかった。海は大しけだ。島民たちは海の怒りだとか、神の呪いだとか、そんなことを口走っていた。合わせて五隻もの船があの海に消えた。そんな海に漁に行くことはできず、ただ島から海に糸を足らし魚を待つ。それくらいしか漁師にはできることがなかった。

3.『死に損ない』

 ひもじい生活をはじめてから季節が一つ進もうとしていたある日のこと。朝から浜が騒々しい。どうやら何かが流れ着いたようだ。それは、見たことのない舟だった。小さな船には四つの鳥居が四方に建てられている。その舟には小さな屋形が建っていて、釘を打たれた扉があった。誰かが入っている。そんな気がした。試しに船に問いかけてみたが、返事はない。気になって仕方のない若者が釘を抜き、中を見た。暗い空間にかすかながら、人の手が見えた。人だ!男たちは中の人を屋形から引き出した。出てきたのは、豪華な袈裟を身に着けたお坊さんだった。お坊さんは今にも死んでしまいそうなくらいやせ細っていた。慌てて島民はなけなしの食料で和尚に食べさるための料理を作った。和尚は次第に目を開き、島を眺めた。やがてやってきた料理をお坊さんはゆっくりと食べた。ありがたや。
 彼はお礼がしたいと島民に言った。すると、島民たちは一斉に親分を見た。親分は少し間を開けた後、ゆっくりしゃべりだした。お坊さんや、今わしらの島は飢饉なんや。以前はおいしい魚がたんまりと取れておった。だが、海が、海がわしらを拒んでおる。漁に出れば、大きな泡に船は壊され、民は海に食われる。もう漁にでるものはおらん。何の仕業かもわからん。もう少しで食いもんもなくなる。どうか、わしらを助けてはくだらんか。お坊さんは静かに親分の言葉を聞いた。そしてこくりと頷き、立ち上がった。年老いたお坊さんではあったが、朝日と海、そして鳥居の付いた舟を背にし、島民たちにはさぞ神々しくみえたそうな。

4.『うるさい、落ちろ』

 島一番の岩上でお坊さんは海を眺める。この海には何が住むのか。お坊さんは屋形船を使い、災いの源を見ようと考えた。舟乗せた鳥居も元は頑丈なご神木である。これを船に這わせ、頑丈にしたのだ。また船の両脇には小舟を付けた。彼は、島民に言った。私は明日の朝、海に出る。そして災いの根源を目に映す。明日の昼に皆さんに説明する。これにあたり、二人ばかり海のわかるものに先導願いたい。この言葉の後、二人の漁師が彼と共に海に出ることとなった。翌朝、三人が海に出る。頼んでもいないが、見送りがあった。和尚は海に出ると、災いの場所へ行くように二人に言った。そして、二人に舟に結び付けた紐を渡した。これを腹にくくりなさい、さすれば船から落ちるまい。彼は二人に見せるように、腹に紐を巻き結んだ。二人も同じように結んだ。海は凪、風もない。異様なまでに静かな海だ。
 お坊さんは、船首に立ち、お経を唱えはじめた。南無阿弥陀仏…。ずんと、空気が重くなる。舟に向かう泡。二人の漁師はそれが真下から来ていることをすぐに気付いた。どーんと船が宙へ押される。和尚は唱えを止めない。あのよぼよぼの体からは想像のできぬはっきりとしたお経が海に響く。紐と船のおかげで、漁師たちも何とか船にしがみついている。二つ目の泡が近づく、あたり一帯は波のない静かな海だが、舟だけが大きく上下する。いくつもの泡が舟にあたったが、三人は海に落ちず、お経は続いた。急に泡が来なくなった。漁師は泡が出ていた海の中をのぞく。そこには大きな目玉がいくつも並んでいた。お坊さんは二人に全力で島に戻るように伝えた。二人は一生懸命に櫂を回す。その間もお経は続く。いくつもの目が舟を追って進む。船から島が見えてきた。もう少し行けば、浅瀬になる。そこまで行けば逃げ切れる。二人の漁師は残った力を使い全力で船を漕いだ。船は浅瀬にまで戻ってきた。もうあの目玉たちはおってこなかった。安堵の息が出ようとした瞬間、大きな水しぶきが上がった。沖には大きな首が立ち上がり、舟をにらみつけていた。一つ、二つ、三つ、、、、水しぶきが上がる。いくつもの首が立ち上がり、こちらを見ている。見たことのない存在は朝日に照らされながら海に戻っていった。

5.『逃げられた』

 九頭竜。お坊さんは島民を前に言った。この島に起きている災いはそいつが元凶だという。島からも九の柱が海から立ち上がっているが見えたらしい。お坊さんは、奴の退治を提案した。九頭竜はもともと川や湖に住み、水を守る。しかし奴は海にすんでいる。海は広大で奴の縄張りは大きくなり、いずれこの島も襲われるという。九頭竜を打つ、それが生き残る唯一の方法だと。言葉を聞きながら、あんな大きなのを退治なんてできるのかと、だれもが思った。和尚は続ける。確かに龍は強大で、人ごときでは苦戦は必至。しかしやらねばならぬ。私がお経を唱え、奴を封じる。そのためには奴の顔をすべて海上に出さねばならん。皆は船に乗り、奴を呼ぶ。そして浅瀬へにげる。さすれば今日のように首が上がるであろう。そこで私がお経を唱える。和尚はゆっくりと話すが、その言葉には重みがあった。和尚は命を懸けてなそうとしていると、島民は感じた。龍をうつぞ、親分が声を上げた。島民は九頭竜封印に向け準備を始めた。

6.『泡?』

 島民たちは、和尚が作った舟をまねて、舟を作る。舟が揃った。一隻は和尚を載せた鳥居舟。残りの9隻は龍を欺く疑似餌だ。舟には龍釣と書かれた帆が張られた。漁師たちは、舟で龍を釣るのだ。準備は整った。戦はいつもの朝凪から始まった。十隻の舟が島を出る。皆、腹はくくっている。舟とつながれた漁師たちは沖に向かって櫂を回す。和尚を乗せた船が止まった。浅瀬で釣られた龍を待つ。九隻の龍釣舟は沖へと進む。島に残る者たちは、和尚の舟をじっと見ていた。
 沖に出た。海は相変わらず異様な静けさを保っていた。島はもう見えず、周りは海そして朝日色の空。美しいはずの景色は、一帯の空気がなきものにしている。重い。空気がだんだんと重くなる。泡が奴の攻撃だ。海中から浮かんでくる泡を探す。まだ来ない。泡を何度か耐え、しびれを切らして近づいてくる目玉から逃げる。だれもがその勤めを理解していた。まずは泡を探す。来た、沖側の男が叫ぶ。他の舟乗りも彼を見る。海面が盛り上がり、黒い物が飛び出した。龍頭だ。水しぶきと共に巨大なその柱は現れた。瞬く間に舟を突き破り、男の四肢が飛び散る。もう片方の脇舟にいた男は恐れをなして海に飛び込む。瞬間、ずんっと黒いものが男を海へさらっていった。泡を待っていたが、もう出てきてしまった。柱のようにまっすぐとたった龍の横から、ぬるっと他の首共もでてきた。立ち上がった竜頭は口を開いた。咆哮だ。言葉をもたざる生き物だが、確実に意味を成した。怒りだ。静かだった海は咆哮と共に荒波にかわる。

7.『食う』

ここからは、ただ浅瀬に向かうだけだ。本能もそうしろと知っている。残った八隻は一斉に龍釣の帆を張り、漕ぐ。櫂を回し、帆を手繰りながら進む舟団の後ろに白波がたつ。追ってきた。いつもは餌に食いつけと願いながら釣りをする彼らも、今ばかりは食ってほしくない。だんだんと白波は舟団に近づく。やはり龍の方がはやい。”あたり”だ。二隻の船がほぼ同時に宙に舞った。龍が襲い掛かったのだ。舟はちりじりになり、人は白波に飲まれていった。恐ろしい光景なんぞ、他の者は見る時間もない。聞こえた悲鳴で最悪の映像がすでに脳裏に浮かんでいた。逃げるしかない。舟達は浅瀬に迫る。

 気づけば、残りは三隻。もう六隻も十二人も失った。島が見えてきた。浅瀬はもう近い、和尚の乗った舟まで残り僅か。舟団は死に物狂いで浅瀬に入った。お坊さんの乗った舟の横を通る。すぐさま、九頭竜が大きな波を立てながら立ち上がった。和尚は大波を耐え、唱え始めた。南無阿弥陀仏…。お経によって龍はひるむことなく、大きな口を開けて襲い掛かろうとする。しかし不思議なことに見えない壁か何かががあるのか、龍は和尚に触れられない。龍は何度も大きな首で舟を襲い掛かろうとするも、見えない壁にぶつかる。龍もさすがにあきらめたようで海に帰ろうと体を捻ろうとしたとき、龍の体に異変が起きていた。首から下が動かないようだ。首だけをぶんぶん振り回し和尚の舟を頭で殴りつける。首も石になっていく。ついには、龍は、先の咆哮とは違い、小さな声で鳴いた。まるで許しを請うような姿に見えた。それでも和尚はお経を唱える。最後の最後、九頭竜は怒りの咆哮を天に吐きながら岩となった。岩からは多量の血が噴き出し海底へ落ちていった。生き残った漁師たちと和尚は、島に戻った。島からも九頭岩が見える。朝日が龍の口から吐き出されるような光景が見えたという。

8.『…』

 海は元に戻った。今は海桃や新鮮な魚が捕れる。都への幸せ運びもできている。和尚は、何やら訳ありのようで本土には戻れぬという。島には祟り神九頭竜を祀る神社を立て、そこの神職をしてもらっている。九頭竜が岩になった次の日、海にその岩はもうなかった。海が運んで行ってしまったのだろうか。あれほど大きな岩だ。そう簡単に無くなるとは思えないのだが。

六八四年、十月のある夜、大津波により島は眠りについた。
琉球の信仰では、東の海には幸せを運ぶ神の国が海の中にあるという。そこは死者の国ニライカナイ、竜宮とも呼ばれる。

-参考内容-

九頭竜伝説、補陀落渡海、ニライカナイ、白鳳大地震
(※ド素人が何となくで書いています。間違った解釈もいっぱいあると思います。許してヒヤシンス)

九.『静かな海』

竜は岩になり海に散った。赤は流れ、底を這い、深き場所に集まった。
九頭死の地は数多 血は集い 災いを夢見る
いらっしゃいませ ようこそ Bar MUD△へ

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