見出し画像

NHKホールでエミネムを歌わせてくれたOKAMOTO'S

5月のある日、ハマ・オカモトさんから電話がかかってきた。

「7月29日にOKAMOTO'SがNHKホール公演をやるんですけど、森本さんに出てほしくて」

一体なにを言ってるんだこの人は。あまりにも上の句と下の句がマッチしていない文章に理解が追いつかなかった。

話を聞き進めるとどうやら今回の公演が学校という設定で、そこでOKAMOTO'Sや他のゲストのみなさん扮する学生たちをまとめる先生役としてのオファーだった。なるほど、それなら僕の本業と近い役回りなので迷惑をかけることはなさそうだ。

「あとこれはまだ確定じゃないんですけど、エミネムも歌ってもらいたいと思ってます」

誰かこの人を止めてくれ。NHKホールで素人にエミネム歌わそうとしてるぞ。昔はこういう人のことをうつけものって呼んでたのかもしれない。

しかしながらこれはあくまでもハマさんのいち意見なのでさすがにゴーサインは出ないだろうとたかを括っていた。それからしばらくしてハマさんから連絡があり、

「エミネム決定です」

なんでだよ。なんで全ての大人を森本のエミネムがくぐり抜けたんだよ。ディフェンス甘すぎるだろ。

「ただすみません、ワンコーラスだけになりました」

当たり前だよ。本来ゼロコーラスでいいんだから。一瞬でもフルコーラスの可能性があったと思うと震えるわ。

こうしてエミネムを歌うことになった僕は本番までになんとかクオリティを上げるため聴き込むことにしたのだが、自分がこれをNHKホールで歌うのかと思ったらイントロと共に脇汗が数滴流れ落ちる体になっていた。文字通りたくさんの汗をかきながら練習に励んだ。

本番の数日前、スタジオでのリハに参加させていただいた。OKAMOTO'SのNEKOという曲の途中でLose Yourselfに切り替わり、僕が舞台袖から現れて歌い出すという段取りなのだが、間近で体感するOKAMOTO'Sの演奏があまりにも迫力がありすぎて圧倒されてしまった。普段の僕だったら「こんなところに自分が入って大丈夫かな」と不安になりそうなもんだが、この時は全く逆で「この人たちに任せたら絶対大丈夫」という確信が持てた。僕こと最弱エミネムにさえそれくらいの自信を持たせてしまうOKAMOTO'S恐るべし。

そうして迎えた本番当日。楽屋に入ると第一部の学校パートで着る先生ジャージ、そして第二部のコンサートパートで着るエミネムセットがハンガーにかかっていた。このエミネムセットは全てレイジくんの私物とのこと。演奏だけじゃなく衣装まで揃えてくれるなんてもうほぼ本家エミネムばりのVIP待遇だ。

人生で初めてティンバーランドを履いた

リハを終え、なんたかんだ準備してるとあっという間に本番の時間が迫る。オープニングはOKAMOTO'Sによるオカモト高校の校歌斉唱から始まり、会場は早くも笑いに包まれていた。それから豪華ゲスト陣と一緒に繰り広げる学校コントはひたすらに楽しい空間で、先生役の僕もこのあとエミネムが控えていることを忘れるくらい充実した時を過ごした。

大盛り上がりで第一部が終わり、いよいよ第二部が幕を開ける。OKAMOTO'Sとゲストアーティストのみなさんによる聴き応え抜群コラボが連続して会場のボルテージも常時マックスを叩き出している中、NEKOの演奏が始まった。

もはや緊張しているのかどうかもわからないくらいの状態の中、舞台袖でぶつぶつとLose Yourselfを口ずさむ。みなさんはあの曲の歌詞の内容をご存知だろうか。要約するとこんな感じだ。

吐くほどの緊張をおくびにも出さず、クールにこの大舞台を一撃で仕留める。一生の一度しかないチャンスを掴み取るぞ。この音楽にこの瞬間にlose yourself(全てを捧げろ)。

今の状況とリンクしすぎだろ。こうなったら僕もうストレートにエミネムじゃん。

そんなことを思っているとついにNEKOからLose Yourselfに切り替わった。冒頭の語りパートを歌いながら舞台に歩き出す。あまりに突然の出来事に、客席に大きなハテナが浮かび上がっているのがわかる。気にせずそのまま歌い続けていると徐々に事態を理解し始めたお客さんが手を前後に振りはじめてくれた。OKAMOTO'Sの演奏でエミネム歌ってみんなが沸いてくれてる。こんなことが僕の人生で起きるんだ。めまぐるしく色んな想いが脳内を駆け巡った。

なんとかワンコーラスを歌いきり、そのままNEKOを最後まで一緒に歌わせてもらって僕のパートは終了した。夢にまで見た、いや、夢にすら見てなかった貴重な時間だった。人生において一生の思い出ってそう何回もあるもんじゃないけど、間違いなくこの日はそうだろう。

最後は演者全員でDancing Boyを歌い、これ以上ない大団円で幕を閉じた。会場全体が充足感に満ち溢れているのが手に取るようにわかった。ふざける時は徹底的にふざけて、締めるときはこれ以上ないくらいかっこよく締める。こんなんやられちゃったら虜になるに決まってる。当たり前にやってのけてるけど、これができるバンドそうはいないんじゃないかな。

興奮冷めやらぬまま家路に着き、余韻に浸りながらボーッとしていると窓から小さな虫が1匹部屋に入ってきた。退治しようとティッシュ片手に無心で追いかけていると僕の殺気を感じ取ったのか高速で逃げ回り、なかなか捕まえられないままついには見失ってしまった。そんなことをしているうちに気付けば日付が変わっていた。

あんな素敵な一日の締めくくりにまさか虫1匹捕まえるためlose yourselfするハメになるなんて。どうやらまだOKAMOTO'Sみたいにはなれないみたい。

メガ古館の存在感

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?