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鏡に映る自分に100回ツッコんだら狂いかけた

去年からタイマン森本というYouTubeをやっている。毎回ゲストさんをなにもない白い部屋に招き入れ、そこで待ち構える僕が100回ツッコむまで出られないというクレイジーチャンネルだ。

企画の性質上ゲストさんにかなりの負荷をかけてしまうにも関わらず、3人に2人が「もう二度と呼ばないでくれ」と距離を置くくらいで、みなさん快く引き受けてくれるので非常にありがたい限りである。

そんなチャンネルで3ヶ月前に視聴者のみなさんからゲスト案をコメント欄で募集する動画をアップした。

チャンネル登録1万人突破記念でリクエストを募った

これに対し非常に多くのコメントをいただき参考にさせてもらっているのだが、その中でも一際異彩を放っていたのが

アイコン「ニ」じゃないのよ

どうかしている。発想がマッドサイエンティストすぎるだろ。そもそもタイマンじゃないし。

このように、いちおもしろコメントとして処理したはずだった。しかしそれからというものの、朝の洗顔で鏡を見るたび、街で窓に反射する自分の姿を見るたび、あのコメントが脳裏をよぎった。

「こいつにツッコんだらどうなるんだろう」

いてもたってもいられなくなった僕はタイマン森本のスタッフさんに「姿見とタイマンさせてください」と伝えた。たぶん長い日本語の歴史で初めて紡がれた文章だろう。それに対しスタッフさんは真剣な面持ちで「わかりました。次回やりましょう」と僕の思いに応えてくれた。

基本タイマン森本において僕が把握しているのはゲストが誰なのかだけで、その人たちがなにをするかは一切知らない状態で本番が始まる。しかし今回ばかりは姿見に映る自分が相手なので、やろうと思えば事前になにを言うか準備することができるということに気付いた。

そしてタイマン前夜、僕は自宅の浴室へ向かい鏡の前に立った。いざシミュレーションを始めようと顔を上げて自分の姿を見た瞬間、絶望に包まれた。

なにも言葉が出てこない。

姿見とタイマンしたことある人ならわかってくれると思うのだが、自分を目の前にして言うことなんてなにもないのだ。ましてや100回ツッコむなんて無理に決まってる。だってボケてないんだもん。

僕はすぐさまシミュレーションを中断し、現実から逃れるかのようにベッドに潜り込んだ。スタッフさんたちには申し訳ないけど、最悪お蔵入りにしてもらおう。そう自分に言い聞かせながら夜を明かした。

こうして迎えたタイマン当日。スタジオに到着すると見慣れない立派な姿見が置いてあった。「ここのスタジオ、こんなちょうどいい姿見あったんですね」と言うと、ディレクターさんが

「これ家から持ってきました」

とても立派な姿見

あ、これ気軽にお蔵入りできないやつだ。どうやら奥様から結構ひんしゅく買いながら持参してくれたらしい。そりゃそうだ。家の姿見がタイマンに使われたとなったらそれはもう曰く付きインテリアだ。

あっという間に撮影の準備が整い、いよいよ姿見の待つ部屋に入る。普段は僕が待ち構える側なのだが、入ってくる側はこんなにも不安と緊張が入り混じるんだと初めて知り、そりゃみんな出たくなくなるわと思った。逆に複数回出てくれてる人たちがイカれている。

いざ姿見に映る自分と対峙し、ツッコミをなんとか重ねていくにつれ、身体にある異変が起きる。


足が異様に重い。


姿見とタイマンしたことある人ならわかってくれると思うのだが、長時間鏡の中の自分と向き合っていると足が地面にめり込んでいくような感覚になり、ちょっとやそっとの力じゃ動かなくなる。動画を見返すといつもは落ち着きなくふらふら動いてる僕が微動だにしてないのがわかる。

そしてこれもいわゆる姿見タイマンあるあるだと思うのだが、タイマン中ほとんど鏡の中の自分と目を合わさなかった。いや、正確には合わせられなかった。もちろん普段の生活では違和感なく自分と目を合わせることができるのだが、タイマン中は本能的に目を逸らしてしまった。もしかしたらなにかしらの防衛本能が働いた可能性がある。どうやら鏡の中の自分に話しかけ続けたらとてもよくないという実験もあるらしいと、姿見を持ってきたディレクターが収録前に笑いながら言っていた。

そんな状況の中、僕は30分ほどかけてついに100回ツッコんだ。途中で挫けそうになったけど、なんとか自分に打ち勝つことができた。これが少年漫画だったらとんでもなく成長するパターンだが、実際はそれから数日間ツッコミのフォームが崩れてなにもうまくいかなかった。

この動画がアップされたのが約1ヶ月前。先日お会いしたランジャタイ国崎さんに「ついに鏡にツッコんだんだって?」と聞かれた。この人は自分のYouTubeチャンネルで鏡の中の自分を笑わせろという企画を上げている、いわば鏡界の先人だ。今回姿見に向かって100回ツッコんだことを伝えると

「次はさ、鏡の数増やしてやってよ」

僕はとっさに目をそらした。

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