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フワちゃんとネタをやった話

今から1ヶ月ほど前、いつもお世話になっているライブ制作会社のK-PROさんから「今度のライブでフワちゃんとネタをやってくれませんか?」という連絡が来た。どうやら『マジマゼドリームマッチ』という、普段別のコンビで活動している人たちが一夜限りのスペシャルユニットを結成してネタを披露するというライブをやるらしい。フワちゃんとはライブのMCやロケで一緒になることはあるがネタをやったことはなく、こんな機会も今後なさそうなので出演させていただくことにした。

オファーを快諾したはいいものの、フワちゃんとネタってなにをすればいいんだろうと頭を抱えた。以前フワちゃんが組んでいた『SF世紀宇宙の子』という男女コンビ時代に唯一見たことのあるネタもフワちゃんがただひたすら「乳首痛ぇ!!」と4分間連呼するというものだったので参考にならなかった。どこになんの勝算があってあんなネタやったんだよ。

絶望していても仕方がないのでひとまず僕なりにフワちゃんとネタをやるにあたっての分析をした結果

・フワちゃんはフワちゃんとして出るのが一番魅力が伝わる

・セリフはたくさん覚えられない

・そんなことよりもタピオカ飲みたい

以上のことから『出演の辞退』も考えたがそうもいかない。いろいろと考えを巡らせた末に出来上がった台本がこちらである。


コント「女子高生探偵のぞみ」

ペンション。フワちゃん(女子高生)、森本(私服)板付き。

フ「みなさんをここに集めたのは他でもありません。今回このペンションで起こった連続殺人事件。その犯人がわかったのです」

森「おい、あんたそれ本当か?」

フ「はい。この事件の犯人は実に頭の切れる人物でした。犯行現場には一切の証拠を残さなかった。しかし、そんな犯人が犯した唯一のミス…それは、わたし、女子高生探偵のぞみがいたということ!」

森「あんた、探偵だったのか!」

フ「えぇ。今回の事件、犯人は巧妙なトリックで我々を欺いたのです。そう、とある道具を使ってね…」

森「道具?」

フ「はい。それを今からお見せします。少々お待ちください」

フワちゃん、上手ハケ

森「…ふん、ほんとにあんな小娘に事件が解決できんのかぁ?でも…これで犯人が見つかれば、この地獄から解放される。頼んだぞ…女子高生探偵のぞみ!」

爆音でBGM流れる。照明を色とりどりにする。

フワちゃん(いつもの格好)、上手飛び出し
フ「おはぴよーーー!!!これがフワちゃんがフワちゃん以外を演じられる限界でーす!!」

森「説明しよう!このコント、何度練習しても、フワちゃんが覚えることができたのはここまで!なので、ここからは、フワちゃんがやりたいことを自由にやる時間とさせていただきます!!」


フワちゃんが覚えられる限界のセリフ量を言い切ったあとはフワちゃんがやりたいことをひたすらやり続けるという『コントとフワちゃんのハーフアンドハーフ』のようなネタになった。この台本をフワちゃんに送ったところ、想定よりもセリフ量が少ないという事実にとても喜んでいた。

お互いあまり予定が合わず、本番前日にようやく集まってネタ合わせをすることができた。ファミレスで数回読み合わせをすると

早くも飽きていた。まさかこんな序盤から『邪悪ペコちゃん』みたいになるとは思わなかった。しばらくの休憩を挟んだあと、フワちゃんが熱心にスマホを見ていたので台本を読み込んでいるのかと思ったら『一人暮らしの物件』を探してた。絶対今じゃなくていいだろ。

それからおもむろにノートを開きペンを走らせ始めたので台本を書き写して覚えようとしているのかと思ったら

『最高旅行計画』を考えていた。年末の旅行より明日のライブのこと気にしろよ。結局朝までいたのだが、総練習回数は『4回』だった。

そしてライブ当日、集合場所である新宿駅でフワちゃんを待っていると

「おまでーす!!あたしセリフ全部覚えたよ!!」

と、『まあまあ距離のある位置』から喋りながら現れた。どうやらあれから家に帰ってセリフを完璧に叩き込んだらしい。フワちゃんのとても真面目な部分が垣間見えた。その成果を見せたいとのことで、会場に向かって歩きながら軽くネタ合わせすることに。

「マジで覚えたからね!いくよ?えー、んー…ダメだわかんない」

一文字も言えなくなってた。あの自信どっから湧いてきたんだよ。

そのまま一度もセリフを言えることなく会場に到着し、リハーサルの時間に。そこで主催のK-PRO児島さんから出演者にあいさつと、さらに

「優勝した組には3万円差し上げます」

という衝撃の発表があった。突然のビッグマネーにざわつく芸人たち。その中でも一番大きなリアクションをしていたのがフワちゃんだった。

「えぇ!!!!賞金あるの!!??クソっ!!!!昨日もっと練習しとけばよかった!!!!ちくしょう!!!!」

賞金なかったとしてももっと練習するべきなんだよ。

リハーサルも終わり、刻々と近づく開演時間。焦った我々は出番のギリギリまで練習することに。僕は普段からトンツカタンとしてコントをしているが、フワちゃんにとってはかなり久しぶりのネタ披露ということでとても緊張していて、さらに優勝賞金のドキドキも相まってセリフがなかなかうまく出てこなくなり、その度に

「う゛あ゛ぁぁぁぁんん!!!!」

とフルの声量で叫ぶようになった。そのまま体を突き破って『フワちゃんの本体』が出てくるのかと思った。あまり追い詰められてほしくないので「別に間違えても大丈夫だよ」と言うと

「ダメだよ!ここはちゃんとやんなきゃそのあとの自由時間が活きなくなっちゃう!」

そしてその数分後に

「う゛あ゛ぁぁぁぁんん!!!!」

というのを何度も繰り返していたらあっという間に僕らの出番まであとわずかとなった。最後の練習を終えて舞台袖へと向かう最中、フワちゃんが

「もしあたしがセリフ出てこなくなったら適当にそれっぽいこと喋って繋ぐからその間に思い出すから安心して!!」

ちゃんとリスクヘッジをしてきた。数時間前に『セリフ全部覚えたよ発言』をした人とは思えない弱気っぷりだった。

そして迎えたネタ出番。フワちゃんのセリフからコントが始まる。

「みなさんをここに集めたのは他でもありません。今回このペンションで起こった連続殺人事件。その犯人がわかったのです」

完璧な出だしだ。一言一句台本通りに言えた。

「おい、あんたそれ本当か?」

「はい。この事件の犯人は実に頭の切れる人物でした。犯行現場には一切の証拠を残さなかった。しかし、そんな犯人が犯した唯一のミス…それは、わたし、女子高生探偵のぞみがいたということ!」

そうか。彼女は本番に強いタイプだったんだ。いつのどの練習よりも最高のパフォーマンスを見せていた。

「あんた、探偵だったのか!」

「………」

不自然な間が流れる。どうやらセリフが飛んでしまったらしい。でも大丈夫。こういう時のためのリスクヘッジも先ほどしたばかりだ。とりあえずそれっぽい発言をしながらセリフを思い出す作戦である。

「………」

ん?どうしたフワちゃん。ここで喋って繋ぐはずじゃ…?

「………(やべぇ)」

いやアイコンタクトで「やべぇ」じゃないのよ。その後もフワちゃんはなにも喋ることなく辺りをキョロキョロしだした。おそらく『リスクヘッジしたこと』自体を忘れたのだろう。

こうなったら助けてあげられるのは僕しかいない。意を決して口を開く。

「女子高生探偵のぞみ!まさか、犯人はとある道具を使ったんじゃないか?」

考えうる最悪のパスを出した。なんでモブキャラが急に『探偵を上回る推理力』見せてんだよ。しかしこれでフワちゃんもセリフを思い出し、ようやくコントパートを抜け出すことができた。

そこからはなんでもありのフリーゾーンに突入した。もちろんセリフもなにもないので飛ばす心配から解放されたフワちゃんは舞台上でインスタライブを配信したり、大好きなタピオカを飲んだり、写真撮影タイムを設けたり、舞台袖にいたパーパー星野さんを引っ張り出したりしてやりたい放題だった。

最後は舞台上にひとり残された星野さんがテンパりまくって

「は、はやくぅぅ!!はやく暗転してぇぇぇ〜〜〜!!!!」

と言いながら暗転した。げっそりして戻ってきた星野さんにふたりで全力の謝罪と感謝をした。 こうしてなんとかフワちゃんと初めてのネタをやりきることができた。

ネタ中、フワちゃんがフワちゃんとして現れた瞬間から会場全体を巻き込むように笑いをかっさらっていてとても頼もしかった。そして今回一緒にネタをやってみて改めて実感した。

やはりフワちゃんはぶっ飛んでいた。

芸風もセリフも。


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