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『ギブス』と夕暮れ
夕方、1人で散歩した。
3歳児の母をやっているから、1人で散歩できる機会なんて本当に久々だ。
キャビネットの引き出しから引っ張り出してきたイヤホンを耳に、気分の音楽を聴きながら歩くことにした。
今日の気分は、椎名林檎。
彼女の音楽は小学生の頃から聴き始めて、私の青春時代のどこかに必ず在った。
子どもといるときにはチョイスしないけれど、1人だから何となく、久々に気兼ねなく聴きたくなった。
ひたすらランダムに数曲流していくうちに、ふと意識が向いたのが『ギブス』。
椎名林檎で夕暮れの歌といえば『茜さす 帰路照らされど…』が好きだけれど、今日の夕暮れ空には、なぜか『ギブス』がちょうど良いと思った。
don’t U θink? (don't you think?)
i 罠 B wiθ U ( I wanna be with you)
此処に居て
ずっと ずっと ずっと
切なく掠れる声。魂がこもってる、と私には思える。昔も、今も。
歪めているようで実はストレートな歌詞にその声が乗るからこそ、余計に心に刺さる。
かつての切ない恋を思い出すような、…そんな恋なんかがそもそもあったかどうかすら忘れてしまったけれど、どこかで感じた恋しさに、ちょっと目頭が熱くなる。
気づけば1人、小さく口ずさんでいた。
人通りはないけど、車通りの多い道路沿いの道で良かった。
これなら誰にも、私の声なんて聴こえない。
いつの間にかすっかり掠れて音程も拾えなくなった声なんて、聴こえない。
昨日のことは 忘れちゃおう
明日のことは わからない
だから ぎゅっとしていてね
ああそうか。
私は少し、寂しいんだ。
すっかり大人になった今でも、明日が見えなくて怖いんだ。
夕焼け空が綺麗で、沁みた。
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