No.5(創作小説)
いい加減離れなきゃって思ってる。もう彼からの愛はない。そんなの分かりきってる。でも…でも縋ってしまうの。
彼と出会ったのはいつだっけ?もうそんなことも覚えてないけど、別に覚えてるからなにか特典があるわけじゃないし、彼から愛がもらえるかっていうと、そういうこともない。
彼は私の1歳年下。でも歳なんか忘れるくらい話が合って、もともとお互い知り合いだったかのようにすぐに仲良くなった。彼は顔も性格も全てが子犬みたいだった。人懐っこくて、柔らかく笑う感じが特に。そんな彼と過ごしていくうちに私が惹かれていくのは必然だったのかもね。
どうして彼とあんなに距離が近づいたんだろう。私はそんなに良い性格してないし、顔だってとびきり良いわけじゃない。普通って感じ。対して彼は人気者でかっこよくて、ザ・主人公。でもギラギラしてる感じでもなくて、彼といるとすごく心地よい…2度寝の時に見る夢みたいなふわふわ感。
そんな彼が私に告白してくれた。こんな可愛げのない女のことを好いてくれる人なんてもう2度と現れないんじゃないかと思ったし、単純に、私は彼のことが好きだった。疑う気持ちがゼロだったわけじゃないけど、私はすぐに付き合うことにした。
あれから月日が経って、幸せふわふわな季節はなくなってしまった。死んだの。残ったのは上っ面だけの愛を囁くあなたと、相手に嫌われないように捨てられないようにずっと機嫌を伺う私だけ。
彼はずっと優しい。でも私は知っている。私の他にもたくさん女がいて、彼と付き合ってるってこと。私は裏で「No.5」って呼ばれてるってこと。彼はもう私を愛してないってこと。いや、端から愛されてなかったってこと。ただのお金とベットの上だけの女。
あなたは知らないでしょ?SNSであなたの写真を見るたびに、あなたと親しげにしてる女どもを見て涙を流してること。いったいどれほど泣いてきたと思う?あなたには想像できないでしょうね。まあ、想像しようともしないのだろうけど。地位があって人にも好かれて人生イージーモードなあなたみたいな人に、何もないちっぽけな私みたいな人のことが分かるわけないものね!
私だって馬鹿よ。愛がないと分かっておきながら、あなたに縋ることしかできないなんて。そう考えると、私たちって阿呆同士お似合いのカップルじゃない?
そんな私のもやもやした気持ちとは裏腹に、彼はどんどん出世して「イケメン部長」ってもてはやされた。会社ではいい格好して、ほんと器用な人ね。前よりももっと女が寄ってきて、私は前よりももっと空っぽな気持ちになったの。
でも天罰は下るもんだわ。
ある日、彼が多数の女性と付き合っていることやお金を貢がせていることが会社にバレた。彼は全ての女性社員から敵意を向けられ、男性社員も彼に近づこうとしない。呆気ないものね。あんなに好かれてたのに、みんな上辺だけだったみたい。所詮、彼も周りの人も変わらないのよ。
ふふふ 愉快だ。ほんっとに愉快!そうよ、彼は多くの人の心を弄んだの!もっと叩かれるべきだわ。なんて無様なのかしら!
そして絶望の中にいる彼に私が声をかけるの。
大丈夫。私“だけ”はあなたの味方よ
ってね!限界まで弱った彼の心にこうやって囁くの。そしたら彼、絶対に私から離れられなくなるわ。いい気味だこと。こうやって私だけのものになればいい。私は「No.5」じゃなくって彼にとっての唯一の存在になるのよ、こんなに幸せなことってないじゃない!
私、決めたの。絶対に彼を離しやしないってね。世界中の全てがあなたの敵になっても私だけは味方でいてあげるわ。だから、ね、
私だけを見て。私だけを愛して。
fin.
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