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ゴルフ用飛距離測定器市場動向

 今回は久し振りに?、私の仕事の「王道」とも言えるゴルフ用品の市場動向について話をしてみたいと思う。

 ゴルフクラブやゴルフボールなどの市場動向については過去にも分析してきたけれど、実は弊社では2019年から日本全国約800店舗のゴルフ用品小売店における「ゴルフ用飛距離測定器」を中心とした「デジタルガジェットデータ」の実売動向を月次でトラフィックして、契約しているクライアント企業様に提供させて頂いている。集計対象としているのは、

①ゴルフ用飛距離測定器(GPSタイプ)

②ゴルフ用飛距離測定器(レーザータイプ)

③デジタル機能を使ったゴルフ用練習機器や各種測定器(ここの定義がなかなか難しいのだけれど、例えばフライトスコープさんが発売している「ミーボ」や、ソニーさんが発売している「スマートゴルフセンサー」などがここに入ってくる)

 以上の3タイプに分類して販売を集計、更にGPSタイプの飛距離測定器は「タブレット型」「ウオッチ型」「ボイス型」「ハイブリッド型」に分けて販売実績を集計、夫々のブランドシェアやモデル別販売動向をトラフィックしている(ちなみに集計対象としているのは「本体」のみで、付属するアクセサリーやオプション品は基本的に除外している)。

 2019年からのルール改正(競技においても飛距離測定器の使用が可能となったこと)により、飛距離測定器市場はバブルと言って差し支えのない需要を形成したのだけれど、果たしてその2020年販売動向はどうだったのか?

全体の販売数量は前年比約10%のマイナス

 2020年デジタルガジェット全体の月別販売数量(前年同期比)は以下の通りだった。

1月:105.2%
2月:99.3%
3月:78.2%
4月:51.3%
5月:54.6%
6月:77.0%
7月:112.7%
8月:102.1%
9月:86.2%
10月:102.3%
11月:122.5%
12月:110.0%
年間累計:90.1%

 数字を見て頂ければ一目瞭然だけれど、新型コロナウイルス感染拡大によって緊急事態宣言が発令された3月から5月にかけては売上が激減、宣言が明けた6月以降は急激に回復していることが分かる。特に7月の対前年比112.7%というのはかなり突出した数字で、これまで自粛してきたゴルファーの「反動」や給付金による需要増が顕在化したであろうことが窺える。

 その後多少の凸凹はあるものの(9月の大幅なマイナスは、恐らく供給不足による需要減退が主要因であると考えられる)、基本的には好調な需要が持続していると言って差し支えのないレベルにある。

 年間トータルでは「緊急事態宣言中の需要減退をリカバリーすることができなかった」ことにより対前年比約10%のマイナスとなったが、これは比較対象となっている前年(2019年)の需要が非常に旺盛だったことが一因で(要因は上述したようにルール改正による需要増)、2019年の年間累計の販売実績は対前年比136.5%と大幅な成長を果たしている。その実績との比較においての「10%マイナス」は、2020年という年の特殊性を考慮すると大健闘レベルにある、と言って良いのではないだろうか(ちなみに、2020年の販売数量を前々年の2018年と比較すると123.0%と大幅なプラスである)。

レーザー型飛距離測定器の販売構成比が上昇

 では、飛距離測定器の中ではどのようなタイプがゴルファーの支持を集めたのだろうか。「GPS型」「レーザー型」に分けて販売実績(数量)を集計すると以下のようになる。

・GPS型:販売数量 前年同期比86.5%、販売数量構成比71.2%
・レーザー型:販売数量 前年同期比96.2%、販売数量構成比28.6%

 市場におけるマジョリティは「GPS型」であるけれど、2020年に関しては「レーザー型」が健闘した、という数値になっている。販売数量ではなく販売金額(店頭実売価格ベース)で集計すると以下のようになる。

・GPS型:販売金額 前年同期比103.6%、販売数量構成比61.0%
・レーザー型:販売金額 前年同期比90.8%、販売数量構成比38.4%

 「前年同期比」という尺度では、GPS型とレーザー型の立ち位置が逆転するのである。「レーザー型の方がGPS型に比べて価格が高い」という構図に変化はないものの、2020年は

・GPS型は単価上昇により(付加価値型商品の発売により)単価上昇を果たし数量マイナスをリカバリーした

・レーザー型はリーズナブルな価格の商品が数多く発売されたこと、参入企業が増加したことにより単価は下落したものの数量を稼いだことにより飛距離測定器市場全体でのシェア上昇を果たした

ということができる。

 で、これから先の話になるのだけれど、多くの小売店が「まだ需要は創造できる」と考えているようである。平たく言えば「まだ売れるっしょ!」と考えている、ということである。その根拠であるが、2019年から2020年にかけて需要を形成した「ゴルファー層」からそのようなロジックを構築しているところが多いように感じる。

 これまでの需要は「既存ゴルファーの買い替え」を中心に成り立ってきた、とするところが多く、まだまだ「未所有層に対するアプローチ」が行えているとは言えない、というのがその根拠となっている。つまり「まだ飛距離測定器を使ったことのない人に対して、その有用性をアピールし切れていない」というのが「まだ売れる」という発想の根本にあるようなのだ。

 しかしなかなか「未所有者に対して有用性をアピール」して、「じゃあ買ってみようか」と想起させるのは一筋縄ではいかないのでは?というのが個人的な考え。

 私も過去に何度か一般ゴルファーに向けた「ゴルフ用飛距離測定器に関する意識調査」を実施したことがあるのだけれど、飛距離測定器を使ったことがない、使う意思がない人の多くに共通しているのは「自分の腕前に対する遠慮」みたいな思考があるということ。

 つまり「飛距離が分かったとしても、どうせ自分はその通りに打てないし」であるとか、「レーザー飛距離形で時間をかけて距離を測って、ミスショットしたら恥ずかしい」という心理がどうしても強く作用してしまうようなのである。

 個人的にはこういうゴルファー心理はとてもよく理解できて、万年100オーバーゴルファーである私も上述したような理由から飛距離測定器の使用を避けてきた面がある。「使ったところでスコア変わらないでしょ」と斜に構えていたというか。

 でも年末にあるきっかけでレーザー飛距離測定器を使うようになって、自分のゴルフの「幅」が広がったように感じたというか、「ゴルフの面白さが増えた」ように感じている。スコアはともかくとして、「きちんと自分で飛距離を計測して、それに従って表示なりの飛距離を目指して打つ」という行為を繰り返すことにより、今まで二次元的にゴルフをしていたのが三次元で考えられるようになった、というか。うーん、ここのところ上手く表現できないのだけれど・・・・・・・。

 だいぶ認識が変わってきてはいるけれど、ゴルフ用の飛距離測定器は今でも「上手い人が使うもの」というイメージが強く、それ故に購入の「ハードル」が高い面があるのも事実。未所有者に所有して頂くにはその「ハードル」を如何にして超えてもらうのか、換言すれば「上手い下手」以外のゴルフの楽しみ方の価値、多様性を業界側が如何にして用意して彼等彼女等に差し出すか?が重要である、と言えるのかもしれない。

 在宅勤務開始前のウオーミングアップ的に記事を書こうと思っていたのだけど、気が付いてみたらすっかり就業開始時間を過ぎておりましたw。


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