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テクニックの種類 #8

パントマイムとは特定の技のことを指すのではなく、一つのジャンルのことだとは以前書かせて頂いたことだが

今回はあえて技術として学ぶパントマイムのテクニックを整理してみたいと思う。

ここで言うテクニックとは、パントマイムならではの”型”のことを言う。見えない壁が見えたり、その場にいるのに移動しているように感じる足運びなど、体の使い方を学び動作として習得を目指すものだ。それぞれの流派によって表現の仕方は違ったりもするが、自身が学ばせて頂いた”型”として存在しているものを紹介しよう

パントマイムのテクニック一覧

《壁》 
言わずとしれたテクニック。パントマイムと言えばこの見えない壁をイメージする方がほとんどだろう。しかし、いつからこのテクニックがパントマイムの象徴のような扱いになったのか。歴史を紐解けばきっとどこかでキッカケはあったのだろう。正面で触る以外にも、前後左右上下と面を作り出す為の型がある。また押したり押されたり、ドアとして開閉するなども含めると覚える所作は非常に多い。

《ロープ》
綱引きのテクニック。一本のロープの引いたり引かれたりを、両手の間隔を変えることなく力感を表現する技術が必要。綱を引くという動作一つとってもバリエーションは非常に多いのだが、それらを上手下手とどちら側でも習得しないと行けない為、引っ張る側と引っ張られる側の全部で4種類の体の使い方を覚えなくてはならない。二人組となり、引く側と引かれる側で完全に呼吸を合わせられれば、このテクニックの凄みは際立つ。ちなみに、日常でこのようにロープを引っ張ることはあまりない。

《エスカレーター》
パネルを使ったテクニック。フラットな床の筈なのにまるでパネルの裏にエスカレーターがあるかのように出たり入ったり。パネルの裏では猛烈に地味な身体操作が行われている。エスカレーターというテクノロジーが生まれたからこそ理解出来る動きだろうが、パントマイムが生まれた黎明期にはまだその文明は無かったはずだ。いつ頃この動きが生まれたのだろうか。

《ロボット》
ロボットといっても幅広い。関節の数とスピード感で自分がどのレベルのロボットなのかをコントロールしなくてはならない。茶運び人形、ブリキのおもちゃ、ASIMO、ロボコップ、ターミネーター、サイボーグなどなど。それぞれが一括にロボットだとしても各々の質感は全く違う。しかし、現在のロボットは人と変わらぬくらいスムーズに動くものが多くなっている。のろまなロボットのイメージは徐々に無くなっていくのかもしれない。

《操り人形》
ロボットと似た質感ではあるが、より弛緩した人形である。肘や膝などに糸が付いているピノキオのような人形をイメージしていただけるとよいだろう。令和3年において操り人形の認知度がいかほどなのか。少し疑問となってきてはいるが、このテクニックの高みにいらっしゃる方の表現は圧巻である。肘や体につけられた糸からの影響がハッキリと感じられ、真似できない至高のテクニックが存在する。この操り人形こそ、ロストテクノロジーになりつつある最たる芸ではないだろうか。

《ハンガーパペット》
自分の片手をコートの袖に通し、もうひとりの人物を演じるテクニック。様々なやり方があるが、パッと見でとても不思議に見えるので、やってみたくなる技の一つではないだろうか。体の部位を別々に動かすアイソレーションの技術がとても重要だが、それと共にこのテクニックを用いてどのような作品を演じているのかという、演技力と物語性が要となってくる。

《スローモーション》
劇的な事が起こった瞬間などからスローモーションの演技が始まったりする。本来は刹那にすぎる瞬間もスローだとドラマチックに面白くなる。肉体的に同一スピードをコントロールすることが重要なのだが、気をつけなければならないのは目線だったりする。眼球の動作はスピードをコントロールすることが難しい為そこでブレる事が多い。スローが乱れないように目線の動きにも注意しよう

《傘》
強風が吹いていることを体一つで魅せるテクニック。リアルな傘を用いてその風向きや強さを表現する。強風と言えば、名優”バスター・キートン”の作品の中で「キートンの蒸気船」という映画があるのだが、その作品の中で強風に立ち向かうシーンがある。実際に風を起こしてはいるのだが、そこでの強風の演技と転びっぷりはまさに名人芸である。

《マイムウォーク》
限られた劇場空間でも様々な場所へ移動することの出来るテクニックがこのマイムウォーク。その場を動かずに歩いたり走ったり方向を変えたりすることが出来る。パントマイムのテクニックは無意識で扱えるまで昇華させないと演目の中で使う事が出来ないことが多く、このマイムウォークもやろうとしてやるのでは演技に集中できなくなってしまう。歩こうと思って歩く人がいないように、自然に扱えるようになるまで稽古が必要だ。

《固定点》
固定点という技術自体は、パントマイムの様々なテクニックの中で使うことになるのだが、実際に風船やボールなどの物を使って演じる際にいくつかの型が存在してくる。その場から動かなくなったり、急に重くなったり軽くなったりと翻弄されることで不思議な空間を演出する。演劇では人対人のやり取りがほとんどだが、ミスタービーンの作品でも見られるような人対物のやりとりも面白さの一つだろう。

《トランク》
パントマイムと言えばこれ!とイメージのあるテクニックの一つ。テレビや動画などでも見る機会は多く、学校などでも真似される技の一つだろう。上手にやろうとすると実はトランクそのものや取っ手の形状や材質もとても重要。また、トランクそのものや中身が重いと腕にかかる負担が凄く、地味に筋力芸でもあったりする。

《重量上げ》
ウエイトリフティングをパントマイムで演じるテクニック。演目の中で使うというよりは、このテクニック自体をどう作品にするかという技の一つだろう。現実を超えられる事がパントマイムの面白さなので、空中に放り投げたり、足の上に落としたりなど、想像力の限りどこまで現実を越えた発想が出来るかを楽しんで欲しい。

《ハシゴ》
上に登ったり降りたりする際に使われるテクニック。はしごが無くても崖や壁をよじ登るような動作にも活用でき、また一本のロープを登っていくときなどにも派生した体の使い方をする。その場にいるのに登っていったり、降りたり出来るのはパントマイムならではの演出だろう。高いところに登って行ってるので、恐怖を感じている緊張の状態を生み出すことも説得力を生むポイントである。

《吊橋・綱渡り》
一本のロープやレールの上を渡っていくという動作をテクニックにしたもの。サーカスで見られる綱渡りをイメージしていただけると良い。鉄製のレールを渡るのと、たわむロープの上を渡るのとでは上下の揺れが出てくるので表現は変わる。”揺れ”という外部からの影響を体で表現するのは非常に難しく、練度が問われるテクニックである。漫画『カイジ』の鉄骨渡りのシーンを演じる際に使って頂きたい。

《階段》
階段の上り下りに用いるテクニック。足の動きだけでは表現は成立せず、手すりの角度を加えることにより階段を生み出す事が出来る。一段づつ踏みしめる時と駆け上がるときでは手の使い方や足の動作も違ってくる。このテクニックも上りと下り、そして右手と左手のそれぞれを練習しないといけない為、全部で4種類の動作を練習しなくてはならない。今後も世の中から階段が無くなることはないと思うので、しっかり習得して頂きたいテクニック。

《仮面》
手を自身の顔にかざし、一瞬で表情を変えることで仮面を表現するテクニック。喜怒哀楽が人の本質であることから、顔で笑って心で泣いてのような社会的なメッセージを帯びて演じられることもある。パントマイムの第一人者”マルセル・マルソー”の仮面の作品が一番有名ではないだろうか。

《蝶々》
ひらひらと舞う蝶々を目線のみで表現する高等テクニック。鳥でもなくハエでもなく、スピード感や抑揚でたしかに蝶々の存在がそこに生み出される。その蝶々がいったい何なのか。希望だったり、命だったり、その存在をもとに扱うテーマがとても重要である。自然界のものを表現する際に必須となる不規則さ、技術として不規則というものを表現するのは非常に難しいものである。

《風船》
個人的に至高のテクニックと思っているのが、この風船である。リアルな風船を使うものではなく、身体操作によって風船の存在を生み出す事ができる。一挙手一投足において型が存在し、とても一朝一夕で習得出来るようなものではない。何もない空間から生み出される風船。その中に入っているものは息ではない。夢や希望が詰まっているのだ。

その他にも
《一人二役》《状態変化》《形態模写》など、表現や演技及び演出における技もいくつか存在する。いずれも台詞のある舞台作品や映像作品の中ではめったに使われることのない、パントマイムならではのテクニックではないだろうか。

テクニックは使うもの

様々なテクニックが存在し、それぞれのテクニックをメインとして創作する作品も沢山存在している。パントマイムならではのテクニックは非常に魅力的で、自分もチャレンジしたいと思う入り口になったり、最初に取り組んでみることも、このようなテクニックであることが多いだろう。

しかし、長く続ける程にテクニックはあくまで活用するものであることに気づくと思う。その技を使ってどのような演目を創作するのか、どのような世界観を表現するのかが最も重要で面白いところなのだ。パントマイムならではの不思議な技はカッコいいものであるが、テクニックは使うものという認識を忘れず研鑽を積んでいこう。

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