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作品に使う曲、どうやって決めたらいいの? #13
演目内で使われる音楽
演劇だろうがミュージカルだろうが、歌舞伎だろうが作中に音楽は使われている。今日はパントマイム作品における選曲の重要性についてお話したい。
選曲の基準
パントマイム作品は言葉を用いずに身体表現のみで物語を紡いていくことが主である。その際にこれがどのようなシーンで、どんな感情を呼び起こしたいのか。盛り上げたいのか、笑ってほしいのか、泣かせたいのか、などなど。その場面をより強調する為に必要なもの、それが音楽だ
選曲の基準は大きく分けて3つある
①そのシーンのイメージを代弁するものとして
②リズムをとる音源として
③曲の歌詞や背景を活用するものとして
これらは複合的なものであることも当然あるが、作品によってどの基準において選曲するのかは、演目の完成度に大きく影響を及ぼす。
格項目においてさらに詳しく掘り下げてみよう。
①そのシーンのイメージを代弁するものとして
ドラマや映画でもサントラが作られるように、物語の全てのシーンにおいて、その場面を強調したり、象徴させる為に音楽を用いる。これが一つ、スタンダードな音楽使用の目的だろう
曲はインストでも、歌詞有りでも構わない。今演じている場面がどのような気配を持っているシーンなのか。明るい、暗い、不思議、怖い等、台詞がない中でも、極論、明かりが入って、舞台上に一人の男が立っているだけでも、曲の雰囲気がそのまま今の状況を物語ってくれる。
各シーンや場面によって曲を切り替え場面を物語る。もしくは、曲はもともと一つの物語性を持っているものなので、一曲の中で一つのストーリーが完結することもある。いずれにせよ、曲がそのシーンのイメージを代弁してくれることにより、演者が置かれている状況や心境を、より想像出来るようになるのだ。
②リズムをとる音源として
次に、パフォーマンス的な側面からの音楽の使用だ。
これは完全に音楽に乗ってテクニカルに演じるという場合の選曲だ。ダンスをイメージしていただけると理解しやすいと思うが、カウントに合わせて、振り付けとして演じていく。ダンスと違うところとしては、カウントに合わせて動いていたとしても、そこに物語性や感情がきちんと乗るように紡いでいるという点だろう。ドラマや映画では演者が曲に合わせるというようなことはない。しかし、パントマイム作品においては完全に音ハメで演じる事がある。
また、人の感情の機微を楽しんで頂くような作品の場合でも、同様に曲に合わせて演じることは多々ある。しかし、こちらはカウントに完璧にはめる訳ではない。人はリズムで動いている訳ではないので、完璧にカウント通りだと不自然になるからだ。
そういう作品の場合は全体の音楽の尺で演技を構成する。つまり4分の曲なら4分以内にその場面が完結するように演技を調整するのだ。そして曲のサビや、終盤の盛り上がりにおいて、どの表現、場面まで進んでいれば、曲の高揚とマッチするのかを考えて合わせる。
曲を聴きながら、そのシーンを演じ、何度やっても”この曲のこの音でこの場面になる”というように稽古していくのだ。
③曲の歌詞や背景を活用するものとして
最後に、曲自体の歌詞や背景をそのまま作品に用いる場合だ
例えば「あなたを忘れない」だとか「君を想う」なんて歌詞がある曲を、恋模様を描いた作品の中で用いたのだとしたら、歌詞の言葉はそのまま演者の気持ちを代弁することとなる。
また背景に関して。例えば『ロッキーのテーマ』を流したなら、誰しもタフなトレーニングや戦う男をイメージするだろうし、『蛍の光』が流れたなら、不思議なことに閉店をイメージしてしまわないだろうか。
世代や認知度によって左右される項目ではあるが、その曲がもともと広く知られ、世の中的にイメージのある曲なのであれば、その曲自体の持っている背景がそのまま一番正面に現れるというわけだ。
だからこそ、気をつけないといけないのは、このようにもともと持っているエネルギーの高い曲を選んでしまうと、その曲の背景にシーンが引きずられてしまうということだろう。
『タイタニックのテーマ』や『アナと雪の女王のテーマ』など有名過ぎる曲が、演目の中で急に流れてきたならば、演じられている物語の文脈より、映画のワンシーンが脳裏によぎってしまうのだ。曲のイメージが強すぎると、場面がパロディになってしまう。映画、ドラマ、CM、何かしら有名な効果音など、イメージの強すぎるものは、同時にその曲にまつわる背景が浮かんでしまうので選曲には注意が必要だ。
悲しい場面=悲しい曲、でもない
選曲の基準についてお話してきた。前述したように、これらは複合的なものであるので、その作品や場面の意図によって様々に使いわけ、選曲していく必要がある。
悲しいシーンに悲しい曲、楽しいシーンなら愉快な曲、というわけにもいかない。あえて悲しいシーンにミスマッチな曲を入れる事が、演者の存在が浮き、より複雑な心境を表すことだってある。また、ギャグのシーンに悲壮感のある曲を入れることで、滑稽さをより浮き彫りにすることだってあるだろう。
無音が効果的であることもあるし、効果音だけで作る作品もある。どのようにお客さんの心を動かしたいのか。選曲は非常にセンスが必要で繊細な作業となる。
著作権と選曲
最後に、昨今は演劇や音楽ライブなどと同様に、パフォーマンス作品においてもオンライン配信の機会が増えてきた。その際に直面するのが著作権の問題だろう。
最も大きなプラットフォームであるYou Tubeで配信やアップロードをした場合。You TubeはJASRAC(著作権管理団体)との包括契約をしているので収益化をしなければ、登録してある曲を使用すること自体は可能である。
しかし音源に権利があることは変わらないので、そのまま円盤化は出来ないし、そもそも、JASRACに登録されていない海外アーティストの曲などはオンライン上で使用することが出来ない。費用の面、リスクの面から言っても、権利のある曲を使うことは非常にデリケートで難しいことなのだ。
オリジナル楽曲を作曲、演奏して頂く、これが本来は最良なのだろう。
しかし、予算の面から、また演目数や楽曲数の問題からみても現実的ではないし、曲の背景をそのまま用いるようなアプローチも出来ない。今後も頭を悩ませる問題だろう。
選曲にも注目してみよう
どんな作品をやるにせよ、選曲するという場面は必ず出てくる。その作品をより魅力的なものとして届ける為に、どんな曲を、どのような効果を狙って選んでいるのか。パントマイム作品において、ここも一つ面白いところであり、難しいところだ。
演目を観る際には一度、選曲にも注目してみてはいかがだろうか。