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伝えたかったこと

4月から大学院に入学した。
半年前、最愛の父の最期が近づき、卒論の提出にも追われる中、試験勉強をしなければならなかった。

チャンスは1年間に2度。
1度目は父のことで大変に混乱し、勉強が全く手につかなくなった。気管切開された父は、病床で私に「次は受かれよ」と、かすれる声で言った。

自分で言ってはなんだが、父にとって私は自慢の娘だったそう。私が何かを成し遂げることは、父の人生にも大いなる意味があったのだろうと思う。私と父は互いに分身のような存在だった。

2度目のチャンスの日が訪れる前に、父は永眠した。
亡くなる数日前から病院に泊まり、卒論の仕上げにかかっていた。無事卒論を提出することができ、2度目の入試も見事合格。

「お父さん!卒論提出できたよ!大学院受かったよ!」

すぐにそう伝えたかった。
しかし当の本人はリビングの骨壷にすっぽりと収まって妙に大人しくしていた。

「ちょっと、骨になってる場合じゃないって!」

母と私はこんな冗談を言えるほどには、父の死にけして悲観的ではなかった。そんな空気感にお互い支えられていたのかもしれない。

苦しい日々を乗り越えて、半ば諦めていた大学院に入学できたことは、私の人生が、そして父の人生が報われたようなものだった。そう思いたい。

この学生生活は私にとって、父が命を削ってまで稼ぎ、払ってくれた学費の上に成り立つことができたもので、この上なく大切なものであることは間違いない。

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