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僕はなんで生まれたか
北海道とかち帯広で、児童養護施設や少年院出身の青年自立支援をしています。NPO法人スマイルリングの青年達との日常をnoteしています。
昨日、アイツに会ったさ。
彼の言う“アイツ”とは、
実母か、もう亡くなった父親の
再婚相手の、どちらかの事だ。
どっち?と聞くと『東の方』。
彼を産んだ母親が、彼のバイト先へと
金の無心に来たらしい。
俺は無視したから話してないよ。
アイツ何してたと思う?
街でシケモク拾って吸ってた。
俺は、あんな奴から生まれたんだよ。
彼は18年間、施設で育った。
施設が作ってくれた、
手の込んだ何冊かのアルバムには、
とても可愛いらしい赤ちゃんからの彼が
ニコニコと写っているが、
親に抱かれた写真は1枚も無い。
高等養護学校を卒業して施設を出た後、
全く見知らぬ土地のグループホームへ入り
就労に就いたが、どうしても馴染めず、
飛び出してからはほとんど住所が定まらず、
街中でウロウロしているのを、
子供の頃から彼を知っている堀ちゃんが
偶然見かけた事から保護をした。
うちではとても多いケースなのだが、
彼もまた悪い大人に騙されたり
利用されたりしていて、
勝手に彼の口座引き落としで
携帯の契約をし、20万ぐらいの
d払いを使われていることが分かったり、
ほとんど監禁状態で
誰とも連絡を取る事が許されず、
朝から晩まで働かされ、
満足な食事も摂らせて貰えず、
給料をピンハネされていたりした。
初めてスマイルリングホームへやって来た時、
ほとんど着替えも無く、風呂も入っておらず、
身体からは悪臭が漂っていた。
18歳までは児童養護施設の中で、
優しい先生達に見守られながら
兄弟同然に育った仲間たちと賑やかに
暮らしていた。
栄養バランスの良い食事を
3食お腹いっぱい食べられるし、
オヤツも沢山ある。
新品の洋服、靴、お小遣いも貰える。
オモチャもある。
部活も頑張った。
清潔な布団で安心して眠れる。
キャンプや旅行、学園祭やクリスマス会、
楽しい思い出も沢山作ってもらえた。
何より、いつでも相談に乗ってくれる人、
見守ってくれる人達が
誰かしらそこに居てくれるのだ。
それが一転して、施設を出た後には、
知的障害のある彼が安心して生きて
居られる居場所が無くなってしまったのだ。
社会的養護の子供達は、こうした大きな
生活環境の落差に直面しながら、
社会の中で一人、
自己責任で生きていかなければならない。
アフターフォローが万全で、公的援助も
あれば少しは彼等の孤独な社会生活も
改善されるのであろうが、
残念ながら、まだまだ制度の狭間で
孤独に彷徨う青年達の事を
救い切れて居ないのが現状だ。
ただでさえ、
実家に頼る事の出来ない青年達なのだ。
スマイルリングの関わる青年には、
発達、知的、精神障害の特性、
またはグレーゾーンの青年が多く、
虐待のトラウマや自己肯定感の低さなどの
生きづらさを抱えている場合がほとんど。
そう簡単に自立への道は開けず、
独り立ちにはとても時間が掛かる。
ただ社会全体から見ても、
18歳や20代前半で
完全に独り立ちしている青年は
そうそう居ないのではないだろうか。
私はこの一年、彼と過ごす事で、
平仮名の読み書きしか出来ない彼に、
この社会がいかに親切で無いかを
つくづくと知る事になる。
だって、いくら説明しても、
相変わらず行政などから送られてくるのは
漢字だらけの葉書と封筒なのだし、
彼にとって窓口で聞く説明は
ほとんどよく分からない事だらけなのだ。
誰かがこんな彼にこちらから気付いて、
相当なお節介をしない限り、
彼は自分がどんな声を上げたら良いのかも
分からなかったのだから、ゾッとする。
世の中の全ての弱者に支援者がセットされて
いる訳では決して無い。
私だって今、認知症になったら
きっと今当然できている事が
全く出来なくなるだろう。
ただ、今の社会の中の繋がりから(家族とか)
なんとか助けて貰えるかもしれないだけで、
本当に、一体どれ程の罪も無い人達が、
社会の様々な決まり事、制度が分からず
放っておかれて困っている事だろうと
ため息が出る思いなのだ。
スマイルリングホームに馴染んで、
ここ最近、やっと穏やかに暮らしつつあった彼に、
今度は12月1日に開所する事が出来た
「グループホームスマイルリング」
の方へと移って貰った。
引越しの日が近づくにつれて
また顔がこわばってきた彼の心は不安で
いっぱいだった。
引越しの当日の朝。
彼は一人で部屋をキレイに片付けて、
きちっと布団を畳んで
掃除機を掛けていた。
一緒に車に乗り込んで、
グループホームへ着くまでの間、
いつものようにスマホの音楽を掛けながら
歌を歌うのも忘れて話続けた。
僕ね、知的障害って判定されてから
施設でいじめられてたんだよ。
ケンカしても“障害者だからだ”って言われたり。
兄弟の中で障害持ってるのは、
兄貴と俺だけ。どうしてなのかな。
もしも、そこが(グループホーム)嫌だったら
自由に出ていってもいいの?
俺の家族は皆んなクソだよ。
働かないで生活保護もらってるのに
お金出た日は焼肉行って何万も贅沢する。
金無くなったら金寄越せって言う。
シケモク拾って吸う。
俺はそんなのから生まれてきたんだよ。
なんで僕は生まれたのかな。
…俺は障害者だもん、一生、誰かの
世話にならないと生きていけないからね。
次々と彼から出てきた言葉の最後に
『それは違うよ!』と、自分でも意外なぐらい
大きな声が出てしまった。
それは違うよ!
君は君だ。どんな家族から産まれようと
君は本当に良い青年だよ。
人間は全部、一人一人別物なの。
君は誰にも迷惑掛けて無い。
だからクソじゃない。
それに、障害者だから人の世話に
なるんじゃない。
君は今、これからの人生の準備中で、
君ならいつか一人暮らしも夢じゃないし、
グループホームだって
住んでみて『これも有りだな』って
思うかもしれないよ。
それだって、家だもん。
私も他の人も、人間は皆んな
誰かのお世話になって生きてるの。
今の君は、頑張って一年過ごして
物凄く成長したから、グループホームでも
きっと誰にも迷惑掛けないよ。
あのね、
今の君の母さんは、私なんだ。
本当の母さんじゃないけどさ、
君が本当に大人になるまでは母さん代わり。
これからも何にも変わらないよ。
スタッフの人達、めちゃくちゃ優しいし。
そうだなぁ、
家族が増えるみたいな、そんな感じかな…。
彼の顔がパッと明るくなって
『そだね!!』と言ったところで
グループホームに着いた。
『さあ、行くか〜!』と玄関のある2階まで
一段飛ばしに駆け上がっていき、
ビニール袋3つ分の、
今の彼の持っているもの全てを持って、
勢いよくホームの中へと入って行った。
その後ろ姿を見た時なんだか涙が出てきて、
本当に、可愛い息子の新出発のような
気持ちを味わせて貰った。
どうなる事かと思った彼の新生活は、
とっても居心地が良いようで、
前より生き生きと暮らしている。
そして新しい青年が一人増え、
また年明け早々の受け入れも決まってきた。
ここのところ、様々な青年からの相談や
手紙が増えているのだが、
歳に勝てず、張り切り過ぎたのか、
風邪をひいて寝込んでいる。
今日は困った事に全く眠れず、
久しぶりに夜通しnoteを書いている。
早く元気になって、
一人一人とまた、ゆっくり話をしたい。
NPO法人スマイルリング
理事 ののむら ちあき💫
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