君の手は尊い。
君と初めて出会ったのは二十歳の誕生日。
はにかんだ顔がとても可愛いらしく、
私は一瞬で大好きになった。
それからずっと遠く
離れた場所に居たけれど、
毎日電話が掛かってくるようになって
少年院のこと、鑑別所のこと、
家庭学校のこと、児童相談所のこと、
親のこと、生い立ちのこと……。
自分の人生を
ゆっくりゆっくり話してくれた。
君に嬉しいことがあれば
私も嬉しいし、
君が悲しんでいれば
私も悲しくて、
可愛くて可愛いくて、
その分、沢山心配もしてきた。
上手くいかない事ばかり。
それでもいつでも
もがいてもがいて、
懸命に生きてきた。
私の側にいる今も、
君は悩みだらけだ。
じっとしているのが苦手な君は、
こんな雨の日に一日中一人でいると
不安で苦しくなってしまう。
おにぎりと肉じゃがを持って
君の顔を見に行く。
いつものように、
そんな時は途方に暮れた顔で
寂しそうに笑う君。
今日は大好きな
“良い曲”を教えてくれた。
『お父さん』の事を歌っている曲と、
『お母さん』の事を歌っている曲。
お父さんの事は
知らないんですけどね。
この曲を聴いて、
母親を許そうと思ったんです。
寂しくって、
切なくって、
この曲を抱きしめている君。
背中を丸めて、
スマホで曲を聴かせてくれる。
その姿は本当に愛しくて
思わず抱き締めたくなる。
幼少期から、
親に抱かれて、
しっかり愛された感覚の無い私達は、
生きていく事そのものに、
とても不安になる時がある。
自分には
何かが欠けていると知っている。
だけどね、
それでも生きててごらん。
それさえ意味があると
分かる時が来る。
心の底から、
自分の事も、
人間の事も信じられるようになる。
そんな日が必ずくる。
人生はどれだけ長い事苦しんでも、
トンネルの先には
素敵な人が待っていてくれたり、
こんな私達の事を
ありのままに受け止めて、
好きにさえなってくれる人もいる。
この時のために生きてて良かったと
思う時が沢山あるよ。
子供を産んだ事が無くても
君のお母さんになれた私は、
心から、そう思っているよ。
君の両手の平は、
いつもゴツゴツ、豆だらけだ。
スコップを持って、
一生懸命に生きているその手は尊い。
私はこれからも
その手をギュッと握っているよ。
NPO法人スマイルリング💫
理事 ののむら ちあき
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