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ギャル講師VS枯れたおっさん、感情ぶっこみ文章バトル!

「おっさん、その文章、マジで地味すぎ!読むのに耐えられないんだけど!」

ヒカルは長い金髪をかき上げ、田中のノートパソコンを覗き込むと、眉をひそめた。彼女の派手なピンクネイルがキーボードの上をトントンと叩く。田中は肩をすくめ、しょんぼりと画面に目を落とした。

「いや、これでも頑張って書いたんだよ…」
田中の声が小さくなる。

「頑張った?それが全然伝わってないから!読者はもっと感情にグワッと訴えられる文章が読みたいのよ!」

ヒカルはあっけらかんと笑う。彼女のフラペチーノがカチャカチャと音を立て、田中の肩はますます落ち込む。

50代半ば、かつては名編集者だった彼も、今はどこか時代遅れの存在。

「何かを変えなきゃ」

と思い、オンラインライティング講座に飛び込んだ。そして、講師として登場したのが、この派手なギャル、ヒカルだった。

最初は軽んじていた田中だったが、彼女のセンスに驚かされた。SNSでバズりまくる文章力、感情に直接響くライティング。

今の時代を完全に掴んでいるそのスタイルに、田中はすっかり魅了されてしまった。

「俺もあんな文章書きたい!」

そう思った田中は、ちっぽけなプライドを捨て、彼女に直接アドバイスを求め、今日カフェで対面しているというわけだ。

「でさ、どうすりゃいいんだよ?」

田中は苦笑しながら言った。

「まずは時間を使う!」
ヒカルは田中の肩を軽く叩き、ニッと笑った。

「時間を描くだけで、その場が一気にリアルになるの。『朝の5時』とか、『あと10秒で何かが起こる』とか、具体的な時間を描けば読者もその瞬間にいる気分になるんだから!」

田中は少し考え込んだ。
若い頃は時間の使い方にこだわっていたことを思い出すが、最近はどこか無難にまとめる自分がいる。


「たとえば、こうだな…『午後2時、オフィスで一人きり』とか?」

「いいじゃん。でも次は場所よ!」
ヒカルはすかさず返す。

「『オフィス』って言うんじゃなくて、『埃っぽいオフィスの片隅』とか、匂いや温度を感じさせる描写にするの。そうすれば、読者もその場にいる気分になるんだから!」

「埃っぽい…片隅か…」
田中はメモを取りながら呟く。久しく忘れていた、リアルな描写の重要性がじわじわと蘇ってきた。


「そして次はね!」
ヒカルは勢いよく続ける。

「ただ『疲れた男』じゃダメ。もっとリアルに、『残業続きで目の下にクマができた男』とか、そうやって具体的に描写しなきゃ。読者が『これ、俺のことだ』って思うくらいのリアルさが大事なの!」

田中は苦笑した。「それ、今の俺そのものじゃないか…」

「でしょ?だから自分の経験をちゃんと活かすの!あんたが持ってるもの、ちゃんと使わないともったいないよ!」

ヒカルは楽しそうに笑いながら、コーヒーカップをクルクルと回す。


「最後に、できごとを描写するの!」
ヒカルは指をパチンと鳴らし、手振りを交えながら話す。

「『男が椅子に座った』じゃなくて、『深いため息をついて、椅子に沈み込むように座った』とか、動きと感情を一緒に描写するのよ。そうすれば、読者もその場にいる気分になるから!」

田中は静かに頷きながらメモを取った。

ヒカルの言葉が、長い間心の奥底に埋もれていた情熱に火をつけ始めていた。あの頃の自分が追い求めた「リアル」が、今、再び呼び覚まされようとしていた。


数日後、田中は同じカフェの席に座っていた。
ノートパソコンの画面には、ヒカルのアドバイスをしっかりと反映した新しい文章が映し出されている。無難な表現を捨て、感情をそのままぶつけた。読者に訴えかける力を持った、生き生きとした描写が紡がれていた。

田中は深呼吸し、SNSの投稿ボタンを押した。

数分も経たないうちに、スマホが鳴り始める。「いいね」が増え、コメントが続々と届く。

「この感情、まさに自分と同じ!」
「リアルな描写、最高です!」

田中はその反応を見ながら、忘れかけていた高揚感を胸に感じていた。
自分の言葉が、再び読者の心に届いている。そんな確信が、彼の胸を熱くした。

田中は再び画面へ向かい、次の文章に取り掛かった。

かつて失いかけた情熱が、今、再び彼の中で燃え上がり始めていた。


「ふふっ、おっさん、やるじゃん」

カフェの奥から様子を見守っていたヒカルは、スマホを閉じて満足げに立ち上がった。田中の文章がSNSで広がっていくのを確認し、ニヤリと笑う。

彼女は店を出る前に、ちらりと田中の背中を見やった。

「ま、こんなもんでしょ」

彼女は軽く肩をすくめ、金髪を風になびかせ、次の目的地へと向かって歩き出した。

どうよおっさん?負けんじゃねえぞ!


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