#キナリ杯

「薬局」

文章を書くことは嫌いではない。理系人間な上に、薬学という道を選んだ為、良くも悪くも先ず考察を立てることが身に付いてしまっている。なので何処かで人に対しても細かく観察して予測して対応してしまうことが常だ。しかもそれはほぼ無意識のうちに行われているようだ。そしてその予想が外れるとまたそこで分析してしまい、これは新しいパターンのメカニズムを持つ人かも!とまた論理を立てるのだ。

しかし、このように自分の文章を人目に晒すなど考えたこともなかったし、どちらかというとそういう勇気というかチャレンジに臆病なタイプなのだ。今回は意外にも投稿へのハードルが低く一歩踏み出せたのだ。自分のことながら予想外の行動だったので、こんな自分に驚いている。どんな気分から起きたことなのか、こういう勇気はどんなパターンで起きるのか、もしや新しい自分発見なのか、と少し時間を置いたら分析してみたくなるのだろうと思う。

薬局を訪れる人は何処かを病んでいる人だ。

なので普段とは違う一面、恐らくその人の弱点が露骨にそれもかなり激しい形で現れて仕舞いやすいと言える。

何処かが痛かったり、辛かったり、不安だったりなど、また病院に殆どお世話になったことがない人なら尚更だ。

人はちっちゃな子供でない限り体裁を繕うことを知っていて初対面であればその能力が発揮される。

しかし体調が悪くて辛い状況ではそんな事どうでもよくなる。というか体裁なんて考える余裕がなくなるのだろう。

そんな薬局に来られる方々のパターンを幾つかご紹介してみようと思う。

本来なら不謹慎極まりないのだが冷静に考えたらクスッと笑えることも多いので書いてみた。ちょっとした人生模様も垣間見れたりする。

1.甘えん坊タイプ

人目を憚らず付き添い者に甘える。直ぐ目の前にウォーターサーバーが手を伸ばせば届く距離にあるのに、「お水飲む~注いで~」と立とうとしない。そして自分の薬なのに名前を呼ばれても当然のように付き添いに取りに行かせる。

病状が其ほど悪いものでなくて内心はほっとして少し気分は受診前より上がっている患者さんに多いパターンである。ただ付き添いの人には恐らくまだ家を出る前同様に悪い病状を演じておいた方が都合が良いのでそれは悟られないようにしている。そして最大限に甘えるのだ。だだ体調は其ほど悪く無いため帰りとなると病人の振りをすることをすっかり忘れて、支払いをしている付き添い者を置きざりにして足取りも軽やかにさっさと退室してしまうのだ。

状況の分からない事務さんは後に残された付き添い人こそが患者さんだと思い「お大事に~」と声を掛けてしまうのだ。

2.人目を気にするタイプ

病気によって、人に言えない聞かれたくないものがある。私達医療従事者にとってはよくある病気だし、珍しくないし、恥ずかしいことではないのだが、患者さんにとってはかなりの衝撃で、誰にも見られないうちにこの場を立ち去りたい一心のようなのだ。キョロキョロ後ろを振り向いたり、薬の説明をPCの前で打ち込みをしている事務の女の子に聞かれていないかその子の顔を盗み見たり。

結果全く説明が耳に入らず、2度3度同じ事を繰り返し聞き直すこととなり、余計に時間がかかってしまう。

そして慌てて帰ろうと急ぐあまり、小物をバタバタ落とした挙げ句、大事なスマホを忘れて事務の女の子に声を掛けられ手渡される。自分の存在すら消したい位の気持ちなのだろうにしつかりインパクトを残してしまう結果に。帰った後の事務の女の子のコメントは「随分忙しそうな人ですね!」だった。

3.虚勢をはるタイプ

動物的本能なのか人は弱みを見せたくない生き物で、体調が悪いのでなければそもそもここにはいないのだが、大したことはない風を醸しだそうとする。こちらは出された薬の内容でかなり酷い状態だと分かっていても、その人のプライドを傷つけないように言葉を選んで説明しなければならないのだ。

そしてよほど辛い状況があってオペに踏み切った後、再び来局した患者さんに「大分楽になられて良かったですね🎵」と言ってしまった。普通なら、「本当に良かったです!」となるところなのだが、この患者さんに言ってはいけない一言なのだ、「元々大したことないからねぇ~オペするまでもなかったんだけど」と涼しい表情で返された。「そうだったんですね💦」と苦笑するしかなかった。他に何か声を掛けてもこのタイプの人は嘘(本人は嘘をついているつもりはないと思うが)しか言わないし、病気であることすら認めたくないタイプなので、これ以上の会話は必要ないのだ。オペした意味、何故こうして今薬を受けとっているのかなど矛盾だらけだが、ひたすらに病人ではないと自分も思いたいし、人にもそう思わせたいようだ。

4.ご立腹タイプ

このタイプの患者さんは先に擁護させて貰うと体調の悪さ故だと言える場合が多く、無理からぬことなのかもしれない。

なので怒っている時はクスッと笑うなんて状況ではないのだが、そのご立腹ぶりを目の当たりにしているだけに、その次来局されたときに別人のようになっていると、何度も名前と顔を確認してしまうのだ。

人間は痛みなどで耐えられない状況にあるとそれが怒りとなって誰かにぶつけたくなるようだ。そうでもしないとそのイライラのやり場がないのだろう。いっそ誰かのせいにできたらいいけれど、痛みは確実に自分の身体の中で起きているのだ。その状況下ではとても平常心ではいられず目の前の人に無意識に当たってしまうようだ。その位、その痛みが腹立たしいのだろう。

そして、その怒りの来局から2日後、あれだけ当たり散らして帰ったこと、痛みが治まってみて、自分でもかなり申し訳ない気持ちになってしまうようだ。まるで人格まで変わったかのように低姿勢なのだ。その態度をみれば、あの悪態はその人の人生できっと5:本の指に入る位の最悪な日だったのだろうと想像が着く。この時はクスッではなく心から治って良かった❗と笑顔になれる。そして、誰でも不本意ながら相手に不快な思いをさせてしまうことがある。そんな時は、心からあの時は申し訳なかったという気持ちさえあれば言葉にして謝罪しなくても相手に伝わるものなのだ思う。

まだまだ色々なパターンが有りそうだが、そんな濃いキャラの方と日々接する薬局というところは毎日が新鮮だ。具合の悪い時はその人素が出安いからなのか、体調が良くなって何回か通うようになった患者さんは良く喋るし、ずっと前から知り合いだったみたいにいつの間にか距離が縮まっている。

この人間味溢れる仕事の中で私はまた新たな考察を立てながらパターンを見つけて達成感を味わうのだろうと思う。


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