学びと育ちを支える仕事
先週、今週と、訪問や視察をたくさんしている。
私はこどもに関わる分野での相談を受ける事が多いのだけど、杉並区の事業の全部を網羅的に把握できているわけではないし、次から次へと新しいことが国や都からもオーダーされてくるので、毎度学びながら向き合うことになっている。
児童相談所のつくり方
杉並区は2026年度の区立児童相談所開設を目指し準備中だ。今もう設計、建築の段階で、職員を他の自治体に派遣して業務を習得してもらっている。
今回は人口規模が杉並に近い板橋区の児童相談所を視察させていただいた。板橋には子ども家庭支援センターが一つしかないが、小学校跡地を活用して、児童相談所と併設の複合施設としている。
併設なので連携がとりやすく、行政というのはどちらが対応するかなどを押し付け合う形になりがちなのだけど、すぐ隣で働いているので話し合って分担することがしやすい、と説明を受けた。
センターと児相が一緒にあることでやりにくいことも多いのではないか、危険な場面もあるのではないか、など想像していたが、思ったよりものんびりとした空気が流れていて、子どもがふらっと立ち寄ってソファに並んでゲームをしたりしていた。
ロビーにハイハイやごろ寝ができるスペースがあるとは思わなかったので驚いた。みんなのトイレではおむつ替えもできるし、オストメイトも使える。『赤ちゃんの駅』という、授乳やおむつ替えのできる部屋は区立施設に順次配置されてきているそうだ。安心して暮らしたい、と誰もが思う中で、誰かからのやさしさをまちや施設の中で感じられることは、ここで生きる人々を少しずつやさしい人にするんじゃないか、と思ったりもした。
児童相談所なので、焦って大声で受付に声をかける人や、暴れてしまう人がいる時もあるという。でも、心配なことや不安なこと、どうしてこうなんだろうということを、誰でも相談に来ていいという雰囲気があるのはとても大切だと感じた。
専門職だけでなく警備員さんたちにも、相手の尊厳を傷つけない関わりで対応する方法を周知しているそうだ。
性被害を受けた人が何度も同じ話をしなくて済むように、別室でモニター・記録しながら話を聞く部屋もあった。何度も同じ話を繰り返していると、何度も傷つくし、記憶の塗り替えが起こったりして本人の心理的な回復を妨げることになってしまうから、と、明確に説明してくれた。
家と同じ環境で、専門職にアドバイスをもらいながら、子どもとの関わり方を実践的に練習することができる部屋もあった。PCITという言葉を初めて聞いた。
研修を重ねる中で、どうすればいいかわからずネグレクトになってしまったり、思うようにいかず子どもを攻撃してしまっていた育児を見つめ直すことをしてきた保護者たちが、「今の声かけ、よかったね」と別室でモニターしている専門職からの声を聞きながら、実践の中で自信をつけることができるそうだ。
板橋区は絵本のまち、ということで、里親制度について広めるための絵本もつくっているという。これは都から区に事業が移管されたからこそできたことだとお聞きした。
一時保護所についても書面で説明を受けた。
子どもたちの尊厳を回復することが重視されていて、洋服なども画一的にならないよう、かなり苦労して発注していると聞いて嬉しくなった。
自分で選ぶ、自分で決める、みんなで話し合って選んだり決めたりする。そういうことが毎日の生活で保障されていることは、とても大切だ。
職員の方々の子どもたちへの思いの温かさを感じる視察だった。その思いが建築にも織り込まれているのを感じた。区立児相になってから、子どもからの直接の相談も増えたという。所長が朝出勤したら、荷物を持って子どもが待っていた、ということもあったらしい。開かれた雰囲気があることは、とても重要だと思う。
仕事の特性上、神経がすり減る場面や、突然呼ばれて駆けつけたりすることも多いため、事前に送らせていただいた質問で、職員のストレスケアや休暇の取得状況も確認した。
子どもたちが危機に追い込まれないよう、未然に防ぐために地域を走り回って、連携している人たちと密に情報交換をする子ども家庭支援センターの職員。困難な状況から見つけ出された子どもと保護者がどう生きていくのかを支える児童相談所の職員。やはり残業も多く、開設当初からなるべく時間をオーバーしない働き方を意識してきたとはいえ、体制づくりの難しさがあるようだ。
教育分野の人に積極的に視察してもらったり、他の福祉系の研修をセンターの会議室でやったりと、連携を強化して、庁内の異動があってもなるべく負担を抑えられるようにしているといった工夫も聞いた。「児相って何?」ということを正確にわかってもらうために現場に来てもらうことが大事だと。
来年度からは一時保護の司法審査が本格的に始まる。事務処理も増えるのでこれまで以上に人員の確保も必要になるため、現在どこの児童相談所も人の取り合いのようになっている状況を踏まえると、杉並区の児童相談所設置準備には少しでも多くの予算を割いて、人員確保をしてほしい。
再来年度には共同親権が始まることになっている(国会の動きによっては延期したりもできそうだし、本当はやらないでほしいのだけど)。杉並区は児童相談所の開設と同時に共同親権による同意の確認などで混乱が起きる可能性が非常に危惧される。そういったことも含め、今年度の取組と来年度の予算も含めた準備が充実できるようにしたい。
学校の先生たちは
杉並区教職員組合の旗開きに参加した。
最近は組合に入る先生たちが減っているけれど、これまで組合があったから勝ち取れた教員の権利というものはかなりたくさんある。
自分一人でなんとかするとか、自分の能力だけで解決するとか、そういう発想ではできないことが組合ではできるんだということを、私も声を大にして言いたい。
私は特別支援教育やインクルーシブ教育について発言することが多いのだけど、やっぱり、現場の教員の首が回らないのに求められない、ということは大いにある。年度途中で辞めてしまう教員がいて人が足りない、非常勤講師がいないと授業ができない、産休や育休の代替者が見つからない…など、そもそもまず人手不足が続いている。
教員の仕事は、失われた30年と言われる時代の中で大きく変化した。保護者との関係が、協力・協働といった子どもを真ん中に話し合える関係から、店員とお客さんのような関わり方で子どもを盾にお互いに自分を守るような、そんな寂しい関係に変わってしまったところがある。
もちろん現場には様々な状況があって、いい関係を築きながら子どもの育ちを見守りあっているところもたくさんあるんだけど、それでも、学校に求められる役割が多過ぎる。
先生たちの人権が守られていなければ、学校現場で子ども同士がお互いに大事にし合う関係は作れないと思う。いじめに関しては杉並区で条例の策定中なんだけど、教員が教育的に関与できるだけの余裕を持てるようにすることや、重大事態になる前に細かく対応ができるようにすることが、行政が話を引き取る手前に、もっと必要だと考えている。
教育の現場で子どもの権利が保障されるには、「権利とは何か」「権利が保障されるとはどういう状況か」ということを心身でわかっている人間が、教育の現場にいないといけない。
区立子供園と就学前教育支援センター
いつも私が区役所へ向かう道の途中に、就学前教育支援センターがある。併設されている成田西子供園は、教育研究のために様々なレポートしなければならない一方で、現場にアドバイスしてくれる人がすぐそばにいるという心強さのある現場だ。杉並区の子供園は、元区立幼稚園だったところを、長時間保育の子も受け入れられるよう、体制を整備し直して運営しているものである。
済美教育センターから場所と課が独立した形でできた就学前教育支援センターに、今回初めて入らせてもらった。
私立幼稚園の定員割れについて悲痛な声が届く一方で、私立幼稚園に行けなくなり公立の子供園に転園してくる子が増えているという。理由としては、特性に対応しきれないというのが大きいようだ。
ダウン症や自閉スペクトラムなどの子どもたちに対し、3歳児クラスでは担任が2人いるのでなんとかなるが、4・5歳児クラスは担任が1人なのでとても安全を守れない、という。保育園での4・5歳児クラスの保育士の配置基準が30:1から25:1に少し改善された一方で、幼稚園は相変わらず35:1というとんでもない基準のままだということが、こうした課題を生んでいる。
区立園の役割として受け皿になっていく方向で杉並区は区立の子供園や保育園の位置付けを再定義してきているところもあるけれど、一方で、支援センターが巡回相談をしたり現場でできることを増やしていく取り組みをする中で、それぞれの現場でちゃんと担えるようにしていく必要があるのではないかと思う。
また、アドバイザーになれるのは園長経験者や校長経験者などOB・OGで、幼稚園や保育園の若い保育者の育成から経営指南までするのだと聞いて驚いた。こちらの相談役の人材確保も大変だそうだ。
今回お話を聞きながら、幼児教育そのものと特別支援教育との連携、また福祉分野にある療育などとの連携が、まだまだ足りないと感じた。
組織の構造として難しいことも多い。それぞれの専門性を大事にしながら、でも、もっと連携できたら仕事がしやすくなることが増えると思う。専門職のほとんどが会計年度任用職員であることを逆手にとって、教育分野と子ども家庭分野の連携を強化できないか、ということも考えてみたい。
子どもの権利を保障する
先週から様々な現場でお話を聞くことができて、現場で子どもの権利を保障する環境をつくることの難しさと楽しさを改めて感じている。
国や都の制度の変更や新しい取り組みが"降ってくる"中で、現場で丁寧に積まれてきたこととどううまく組み合わせていけるのか。
それぞれの現場で働く人たちは、本当に大切に目の前の子どものことを考えているので、それを支える仕組みをつくれるよう、私ができることを全部やらなければと気合いが入り直した。