『雪国』を求めて始発前の駅に立つ
この記事の写真は
・LUMIX GH5 + LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm F/2.8-4.0 (見出し画像)
・EOS 6D Mark II + EF85mm F1.8 USM (それ以外)
で撮影しています。
さて、『雪国』を齢29にして初読し、ふむこれがノーベル賞の筆致であるかと納得したがったのもつかの間。
行ってみなきゃわかりませんがな。雪国を五感で味わいたいのだ。
夜の底が白くなるとはどういう感覚なのか。
トンネルを超えると世界が変わる。
それを知りたくなって夜通し車を走らせた。
国境の長いトンネル(といっても自動車用のほう)を抜けて湯沢温泉に行きついたのが朝の4時ごろ。
さて、『雪国』冒頭では国境の長いトンネルを抜けた汽車が停車場に停まる。
その停車場とは現在の土樽駅なのだが、運行ダイヤの関係で始発列車が遅い。
そのため、ひとつ越後湯沢寄りの駅、越後中里駅へ。
ここで、停車場に停まる列車を写真に収めようとした・・・が。
この日はドカ雪。
ホームに立つと太ももまで雪に埋もれるような状態で、ホームの端にすら到達できないほど。
しばらくすると除雪車がやってきて、線路の雪を豪快に投げ飛ばしはじめた。
ホームの上でも除雪機とスコップで男性2人が手際よく雪をならしている。
ホームに突っ立って写真を撮っている自分を中心にして、周囲の線路やホーム上、はては駅のまわりの道路でも、除雪車が音を立てて雪と闘っている。
それは相当な音量であるはずにもかかわらず、降りしきる雪のカーテンの中では、どこか遠い世界の音に聞こえる。
線路2本を挟んだだけの距離にいるのに、今自分が倒れて雪に埋もれたら、気付いてすらもらえないんじゃなかろうか。
そんな、ぽつりと取り残される感覚がこの雪国にはあった。
正直、なめてた。本当に世界が違うのだ。
結局、線路上の除雪車は自分の目の前を何度も往復した。
それでも始発列車の時間になっても除雪は終わらず、昼過ぎまでこの区間は運休、バス代行となった。
そんなわけで、目的だった「停車場に停まる列車」を写真に収めることは叶わなかったが、雪中に自らを放り投げることで体験できた感触は、まさしく『雪国』の世界であった。
めでたし。
いやほんと寒かった。