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#56 ネガティブな思考には「あだ名」を付ける - ポジティブ心理学 -

ここでは「ネガティブな感情や思考」への対処法について一緒に学んでいきたいと思います。前回の記事では、ネガティブな感情のポジティブな側面について、一緒にみてきました。

感情には良いも悪いもなく、それぞれの感情には役割があり、ネガティブな感情は不快な気持ちにはなるけれど、大切な感情であるというお話でしたね。一方、そうは言っても、不安や怒りなどネガティブな感情に振り回されてしまい、困っている方もいらっしゃると思います。今回の記事では、ネガティブな感情や思考に振り回されないようにする対処法を一緒に学んでいきましょう。


「感情」は「思考」の影響を受ける

まず、ネガティブな思考や感情に振り回されないようにするために、「感情」と「思考」の関係を理解することから始めていきましょう。僕たちは不安や焦りなどの感情を感じるとき、意識・無意識に関わらず、頭の中で何か考えごとをしています。例えば、僕は今、フィリピンにいて結構、道端で野良犬に遭遇するんですが、頭の中で「噛まれるかも」と思うと、「恐怖」を感じますし、逆に「いやいや、そんなことないだろう」と思うと、「安心感」が湧いてきます。このように「感情」と「思考」というのは密接に結びついているものなんです。今回、「ネガティブな感情や思考に振り回されないようにするために」というお話ですが、いきなり「怒って」と言われても怒れないように、「感情」は直接的にコントロールしにくいものなので、振り回されないための対処法を考える上では、「思考」にアプローチをしていった方が賢明です。ですから、どうやってネガティブな思考に対処するかを考えていきましょう。

「思考」は頭の中のつぶやき(言葉)

「敵を知り己を知れば百戦して危うからず」と言うように、まずは、そもそも「思考」とは何かということからみていきたいと思います。「思考」って、そのまま「考えること」ですが、もっと具体的にみていくと、「思考」って、要は「頭の中のつぶやき」ですよね。「あ〜、昨日食べたココイチのカレー、美味かったなあ〜」とか「やべっ、宿題終わってね〜や」とか、僕らは普段から意識・無意識の中で、一日の中で何度も頭の中でつぶやいています。これらの「思考」「つぶやき」は浮かんでは流れていく雲のように、昨日のカレーのことが出てくるときもあれば、宿題のことを出てくるときもあったり、浮かんでは消え、浮かんでは消え、あるとき、しゃぼん玉のように、はじけて消えていくものです。

僕たちの思考(頭の中のつぶやき)は雲のように浮かんでは流れていくもの

言葉はバーチャルな世界をつくる

浮かんでは消えていくのが「思考」の特徴ですが、この頭の中の「つぶやき」っていうのは、もっと具体的に言うと「言葉」ですよね。そして、この「言葉」というのは「バーチャルな世界を作り上げることができる」という特徴をもっています。僕たちは「言葉」を使うとき、同時にそれが指すものを頭の中で「見る」ことができるんです。例えば、「あ〜、昨日のココイチのカレー、美味かったなあ〜」と頭の中でつぶやいているとき、同時にココイチのカレーが出てきますよね?「言葉」で書かれた小説を読むときも、ありありとその情景が見えてきます。 このように、僕たちは「言葉」によって、現実に今、ないものも見ることができるようになっているんです。

ちょっと実験してみましょう。今、皆さんがこれを読んでいる場所に「ライオンがいる」と思ってみてください。そうすると、ライオン、見えてきませんか? 皆さんが見ているライオンは何をしていますか?オスですか?メスですか?「ライオン」という言葉によって、まるでVRを付けているかのように、実際にライオンが目の前に出てきていると思うんです。

「言葉」はバーチャルな世界を作ることができる。頭の中で何かを考えているとき、まさにその映像を見ている

現実とバーチャルがごっちゃになる

「思考」は頭の中の「つぶやき」であり、「言葉」です。今、いるはずのないライオンが目の前に現われたように、この「言葉」がバーチャルな世界を作り上げてしまい、現実とバーチャルがごっちゃになることが、僕らの日常生活の中でよくあります。現実にはいないライオンが、実際に見えるんで「うわ、怖い!」となっちゃうことがよくあるんです。例えば、「会社」っていう言葉を聞いたとき、皆さんはどんな映像やイメージが出てきますか?目の前に何が見えてきますか?今、職場環境に恵まれている方は、信頼できる仲間の顔が浮かんできて、プラスの感情が湧いてくると思いますが、中には嫌な上司の顔が浮かんできて、いや~な気持ちになる方もいらっしゃると思います。今、その場にその上司はいないのにも関わらずです。僕らの頭の中のつぶやきは、このようにバーチャルな世界を作り上げることができ、現実とバーチャルがごっちゃになって、バーチャルの世界を見て、感情が湧いてくるということがよくあるんです。

思考(頭の中の言葉)が作り上げたバーチャルな世界と現実がごっちゃになり、バーチャルな世界に反応して、感情が振り回されてしまうことがよくある

「ネガティブなことを考える(思考)」→「その光景が目の前に見えてくる」→「ネガティブな気持ちが湧いてくる(感情)」→「その気持ちに影響を受け、行動する(行動)」・・・このようなサイクルが僕たちの気づかないところで起きているんです。そして厄介なのが、この頭の中のつぶやきに僕らは気づいてないときの方が多いんです。ただただ目の前に見えている「ライオン」に怯えちゃうことがよくあります。ネガティブな思考や感情に振り回されているときは、結構な確率でこの「自分の思考が作り上げたバーチャルな世界」にやられちゃっていることが多いんです。

「思考」は一歩引いて、観察する

では、本題の「どうすれば対処できるか?」に移っていきましょう。ポイントは、自分の思考(頭の中のつぶやき)に気づき、観察することです。僕たちが「思考」によって作り出されたバーチャルの世界にやられちゃっているときというのは、「思考」と「自分」が一体になってしまっているときです。「うわ~、ライオン怖い!」となっているときは、「思考」と「自分」が一体になっちゃっている状態です。本来、「思考」というのは、浮かんでは流れていく雲、川に流れる葉っぱのようなものなのに、「思考」や「感情」に振り回されているときは、下の図のように、自分も一緒に「思考」と流れていっちゃっている状態です。

本来、「思考」は流れていくものなのに、そのことばっかり考えているときは「自分」も一緒になって、流れてしまっている

一方、ここで、僕たちが「あっ、今、ライオンのこと考えている」と自分が今、何を考えているかに気づくことができると、少し話が変わってきます。「言葉がバーチャルな世界を作る」ことを知っている僕たちは「ああ、ライオンのこと考えていたから、目の前に出てきているんだ。もしかしたらバーチャルかも」と、少し冷静に考えることができるようになるはずです。「思考」は本来、浮かんでは流れていくものです。ですから、「思考」に没入する代わりに、一歩引いて、「今、自分はこういうことを考えているな」と観察することができると、自然とその「思考」は流れていく、威力が弱まるようにできているんです。

一歩、引いて観察すると「思考」は流れやすくなる

「自分はダメだ」ではなく、「『自分はダメだ』と今、思っているな」。「あ~めんどくせー」ではなく、「『あ~めんどくせー』と今、思っているな」。「絶対、上司から怒られる」ではなく、「『絶対、上司から怒られる』と今、思っているな」。このように「思考」と「自分」の間に隙間を入れていくと、現実とバーチャルでごっちゃになった景色が少しずつ明らかになっていき、言葉が作り出すバーチャルの景色に振り回されなくなっていくんです。

よく僕たちは、ネガティブな思考に振り回されないように「そう考えちゃいけない」と「思考」を抑圧しようとしがちですが、「緊張しちゃいけない、緊張しちゃいけない」と思えば思うほど、逆にますます緊張しちゃうように、「思考」や「感情」は焦点が置かれると拡大する傾向があるため、戦わない方がいいんです。その代わりに、戦場から出てきて、一歩引いて、自分の「思考」や「感情」を観察すると、それらは雲のように流れていくもんなんです。

「思考」に「あだ名」を付ける

ネガティブな思考や感情に振り回されないようにするためには、「思考」と「自分」を切り離すことが重要です。そのために、ここでは一歩引いて、自分の「思考」を観察しようというお話をしてきましたが、さらにプラスアルファで言うと、「ああ、どうせ無理だ」「自分はダメだ」などのネガティブな思考は「擬人化」しちゃうとさらに切り離しやすくなります。「ああ、どうせ無理だ」じゃなくて、「『ああ、どうせ無理だ』って、”ヤツ” が言ってるな」みたいな感じですね。ポチでもタマでもいいんで、いっそのこと、そのネガティブな思考に「あだ名」を付けると、さらに切り離しやすくなります。そして、その自分に対してネガティブなことを言ってくる ”ヤツ” がどこでよく出てくるのか、どんなときに出てくるのかを事前に特定しておくと、こちらも「ほら、思っていたとおり」と、ネガティブな思考にやられにくくなるんです。日本にいたとき、不登校やひきこもりの子たちの訪問支援をやっていましたが、ゲームの雑魚キャラの名前を付けて、生息地を特定し、「それがでてきたらどうするか?」をよく話し合っていました。これ、めっちゃくちゃ効果的なんで、特にネガティブなことを考えちゃうという方は是非、やってみてほしいなと思います。

ネガティブな思考には「あだ名」を付けて「自分」と切り離し、戦うのではなく、ただ観察することで、ネガティブな思考から受ける影響が弱まっていく。因みに、「あだ名」はボスキャラではなく、雑魚キャラの名前がお勧め

さて、ここまでのお話をまとめると、思考(言葉)が作り出すバーチャルな映像に振り回されないようにするために、自分が「今、何を考えているのか」に気づき、ただ観察することが大事だというお話をしてきました。そして、特にネガティブな思考に対しては、「あだ名」を付けて擬人化することで、その「思考」にやられにくくなるということも学んできました。

”ヤツ” は本来、浮かんでは流れていく雲みたいな存在です。しかし、僕らは気づかないうちに、”ヤツ" の言うことを全て鵜呑みにしちゃって、自分の人生ではなく、”ヤツ” の人生を生きてしまっていることがよくあります。あくまでも ”ヤツ” はあなたではなく、浮かんでは消える「思考」です。次回、「どうせ無理だ」など、自分にとってネガティブなことを言ってくる ”ヤツ” が出てきたら、ぜひ「ああ、”ヤツ” がそう言ってんなあ。はいはい、そう言って自分が失敗しないように守ろうとしてくれているんだね?サンキュー、サンキュー」と感謝を述べて、相手にしないでみてください。”ヤツ” は承認されると自然と消えていく特性があります。ネガティブな思考や感情に振り回されず、自分の人生を生きていくために、ぜひ、この記事を何度も読み返して、実践みてください!(つづく)

【参考文献】
Collis, R., & Winters, E. (2018). Applications of acceptance and commitment training in positive psychology. In G. Suzy & P. Stephen (Eds.), Positive psychology coaching in practice. Routledge.

Hayes, S. C., Strosahl, K. D., & Wilson, K. G. (2012). Acceptance and commitment therapy: The process and practice of mindful change (2nd ed.). Guilford Press.

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