【インタビュー】ジャパニーズホラーの旗手・清水崇監督が語る”怖さの広さ”とは。14名の監督が織りなす『スマホラー』の魅力(前編)
現在、好評配信中の日本ホラー映画界の旗手・清水崇監督が総合プロデュースを務めるsmash.オリジナルのホラードラマシリーズ『スマホラー』。
全て1話完結で、幽霊や怪物といったホラーのスタンダードのみならず、社会的不安や人の怖さまで、多種多様な”恐怖”をド迫力の縦型短尺映像でお届けしています。
全14名の監督が参加する『スマホラー』、今回はその中から清水監督を含む6名の監督に、撮影秘話や推し作品についてお伺いしました。
本記事は、ロングインタビューの前編となります。
新感覚ホラーの坩堝、『スマホラー』誕生の背景
ー『スマホラー』は、全14名の監督による、全て1話完結のホラーシリーズです。このような構想が生まれた背景を教えてください。
清水崇(以下、清水):3Dや4D、MX4Dといったように新しい技術や上映方式が出てくるたびにホラーって頼られてきたんです。でも、僕自身はアナログなのでそういったものは苦手で。3Dの話がきた時も、全然乗り気じゃなかったし、最初は断ったぐらい。でもやってみたら面白かったんです。いただいたお話に乗っかっていくことが、自分の表現の幅を広げることになる。その実感があったので、今回も、前田社長(SHOWROOM社長:前田裕二)からお話をいただき、引き受けることにしました。ただ、全50エピソードを自分一人でやるのはなかなか大変なので、普段お世話になっている監督陣や作風に興味を引かれていた方々に声をかけさせてもらいました。
ー他監督へ声をかけていくにあたって清水監督の中で決めていたルールなどはあるのでしょうか。
清水:ホラーが好きで自分でもホラーをつくっている監督と、まったく興味ない監督、両方を混ぜたいと思ってました。幽霊や怪物とかスタンダードなホラーに特化せず、それぞれが思う“怖さ”の感覚でつくってもらいたいと。そうじゃないと50本という本数を、楽しんで見てもらえるものにはできないな、と。あと、僕も普段ホラー作品ばかりつくっているので、ホラーに造詣が深くない監督もいた方が、これまでに作ってきたものと違った挑戦が出来ると思ったんです。視聴者の皆さんや作る側の視野、そしてシリーズの幅がぐっと広がる。同じホラー好きの監督やファンでも嗜好性はかなり細かく異なるし、実は(ホラーが)苦手な監督が作った作品の方が怖かったりする事もありますからね。
清水監督:『ばれる』ドラマと現実が入り乱れる世界観。それを楽しんでもらいたい
清水崇(しみずたかし)
1972年7/27群馬県出身。ブースタープロジェクト所属。大学で演劇を専攻し、見習い小道具で業界入り。助監督を経て、自主制作した3分の課題映像を機に黒沢清監督の推薦で監督デビュー。Vシネマに始まる「呪怨」シリーズがヒットし、アメリカリメイク版も自ら監督。日本人初の全米№1を獲得。近作に「ブルーハーツが聴こえる/少年の詩」「こどもつかい」(共に17)「犬鳴村」(20)「樹海村」(21)など。3Dドームの科学短編「9次元からきた男」(16)が日本科学未来館でロングラン上映中。現在、新作「ホムンクルス」がNETFLIXにて配信中。6/9㈬に「樹海村」のDVD&BDが発売予定。
ー短尺縦型でつくるにあたって印象的だったことや、『スマホラー』だからこそ挑戦できたことを教えてください。
清水:怖いって、キャーってなるものやびくっとするものだけじゃないので。笑いもそうだと思うんですけど、あはははって声出して笑うだけが笑いじゃない。娯楽的な怖さももっと広がりがあって良いと思うんですよね。というのも、ホラーが好きって人や監督に聞いても、人によって感じ方や好む怖さの種類が違うんです。モンスターや妖怪ものが好きな人と、心霊が好きな人、人間的な怖さが怖いって人と、年齢や世代、性差など様々ですが、人によって嗜好や感じ方が違うので。その辺も踏まえて、いろんな趣向の監督に声をかけたので、色んな怖さが集まっているところが『スマホラー』の面白さですかね。
ー清水監督作品は、現在『呪われる』、『人気あるある』、『ばれる』、『妄想する』と4作品が配信されています。この中で、特に注目の作品やシーンはありますか。
清水:『ばれる』ですかね。夫婦と娘一人というある平凡な家族の日常を描いた作品で、スマホで見ることを特に意識してつくりました。所謂、悲鳴を上げるような怖さでは全く無いのですが(笑)。普段は、身内に自分がつくったものを見せたりしないんですが、今回は娘に見せたんです。そしたら、映像の中の世界と現実が混ざってしまったみたいで、作中に出来るスマホ画面を実際の僕のスマホ画面だと勘違いして操作しようとしたんです。そういうことが、目の前で見れたのが非常に面白かったので、視聴者の皆さんの反応が配信前から楽しみだった作品です。他の監督の作品でもこういった場面はあるんじゃないかな。
◆清水監督の『ばれる』(配信中)にはスマホ視聴前提の意外な仕掛けが。
川松監督:『見て居る』タイトルを再定義した作品。その意図とは
川松尚良(かわまつなお)
1979年神奈川県出身。長編ホラー『マクト』で2002年度ひろしま学生キネマ祭グランプリ。大学卒業後、助監督業を続ける中で清水崇監督と出会い、清水組のホラー担当助監督となる。‘12年、ゾンビ映画『葬儀人アンダーテイカー』で商業監督デビュー。監督作品に『丑刻ニ参ル』『Z -ゼット-』シリーズなど。厚木市児童餓死白骨化事件を描く最新作『我が名は理玖』で、米国Best Shorts Competition「解放・社会正義・抵抗」賞を受賞。ゾンビ・コーディネーターとしても幾多の映画・CMに参加、怪物の動きやコンセプトを提供している。
ー縦型や短尺での撮影において、川松監督は工夫された点などありますか。
川松尚良(以下、川松):映画だったら映画館、テレビだったら部屋で座って見ないといけない、それがスマホだといつでもどこでも見れちゃう。明るいところで見るかもしれないし、電車の中かもしれない。どんなところでも、集中して見れることを意識してやりました。
何でもいいよって言われるより、こういう枠の中で怖いものをつくれって言われる方がホラーは面白いのかもと、今回の撮影で感じましたね。今やスマホは、みんなが持っているもので、ちょっとずつスマホの怖さを感じたことがあると思うんですよ。不在着信がかかってくるとか。そういう、みんなが共通で怖いと思えるものにトライできたのが僕は楽しかったです。
ー川松監督は、『肝試す』、『すがる』、『見て居る』、『ディスる』と、監督された作品すべてが配信されています。怪奇現象などストレートなホラー作品から社会派ホラーまで幅広く取り扱っているのが印象的でした。その中でも、特に監督注目の作品はありますか。
川松:『見て居る』ですね。いじめを苦に亡くなってしまう男子学生を描いた作品です。昨今、いじめが殺人事件にまで発展してしまう痛ましいニュースを頻繁に耳にします。表沙汰にはなっていないですが、そういう時、加害者の多くはスマホでそのシーンを撮ってるんだろうなって考えた時に、すごく怖くなって。表現者として、それを映像にしなければと感じました。
先日、旭川市で非常に残忍ないじめ事件が起きてしまいました。まさに『見て居る』がアップされたその日に、その事件が報道されたんです。
こういうことは以前にもありまして、『我が名は理玖』('18)という、父親による児童遺棄事件を描いたホラー映画の試写当日、目黒区で5歳の幼児が父親に殺されてしまった事件が発覚したのです。
「伝えて欲しい」「見て欲しい」という子供の声を拾い上げることができるホラー。『見て居る』に課せられた宿命のようなものを感じています。
◆川松監督の『見て居る』(配信中)は、表現者として伝えなければと突き動かされた作品でもある。また、タイトルには強い想いがあった。
川松:実は、この作品タイトルを変えさせてもらったんですよ。最初は、『数える』だったんです。清水監督から「別のタイトルで考えてみたらどう?」と言われたんですが、僕はまったくその発想なかった。『数える』っていうタイトル結構気に入ってたんだけどなとさえ思いました(笑)。ただ、清水監督がそうおっしゃるってことは、まだパンチも足りないし何かしら意味を含めた方がいいんだなって思って。再度話し合って『見て居る』になりました。改めて、こちらのタイトルにして良かったなと。スマホ側もお前を見ているぞって気持ちと、いじめをやっている人にお前らのことみんなで見ているぞ、そこにいるからなっていう気持ち、そこが作品の中のシーンともうまくリンクできたと実感しています。
清水:あれ、なんでこのタイトルなんだろう?って思った人は見直してくれたらいいね。
川松:『見て居る』は、主人公たちが自分で撮った自撮り動画をストーリー内で使っています。撮影をしてみて感じたのが、その作品をスマホで見ると、ドラマの中ではなくて、本当に起きたものを自身のスマホで実際に見ている感覚に自然となるんです。縦型メディアであるsmash.がホラーにとってすごく味方してくれるように感じました。一瞬でも、これ本当なんじゃないか?って思わせたら勝ちなので。
毛利監督:『浮かんでいる』ホラー業界のNGに挑んだ!? まさかのサムネイルからネタバレ
毛利安孝(もうりやすのり)
1968年生まれ。大阪府東大阪市出身。映画監督の浜野佐知に師事。数多くの助監督を担当する。主に高橋伴明・黒沢清・廣木隆一・磯村一路・塩田明彦・清水崇監督作品に付く。2010年『おのぼり物語』で長編監督デビュー。その後『カニを喰べる。』(2015)、『羊をかぞえる。』(2016)、『天秤をゆらす。』(2016)、『逃げた魚はおよいでる。』(2017) 『探偵は今夜も憂鬱な夢をみる2』(2019) 『さそりとかゑる』(2019)テレビドラマの演出も多数手がけNETFLIX配信『火花』、LINE LIVE配信ドラマ『僕らがセカイを終わらせる…たぶん』などを手掛ける。今後の公開待機作に、『トラガール(仮)』がある。映画『痛くない死に方』では助監督として参加。
ー毛利監督が手掛けた『浮かんでいる』は、サムネイルからインパクトのある作品でした。こちらは縦型や短尺を意識されたものですか。
毛利安孝(以下、毛利):最初にやっちゃったな、というか取り返しがつかないと思ったのは、自分がいかに横のフレームで生きてきたかってことですね。特に恐怖描写では、フレームの外で起こっていることを描写することに喜びを感じている部分もあったんです。横の広がりを制約されることは、分かっていたつもりだったんですけど、いざ出来上がると、かなり自分は横の広がりで見ていたということが分かって辛かったですね。辛かったというか、もう一回トライさせてもらったら、また違う視点でできると思ってます。スマホというガジェットを利用するというより、どちらかというと正攻法というか、映画の方法でやろうとしまっていた部分もあったので。そこは今回勉強にはなりましたね。
清水:人間、目が横についてますからね。毛利さんの作品を拝見して、あんまり言っちゃうとあれですけど、完全に今の状況を示唆している。ほのぼのに見えて今の状況を示唆しているなと思って、社会派入ってますよね。なんて斬新な!そしてCG大変だなって(笑)
◆毛利監督の『浮かんでる』(配信中)では、度肝を抜かれるサムネイルがスタンバイ。コロナ禍の昨今とシンクするストーリーでもある。
毛利:顔浮かんでるだけじゃんって思いながら、えらいことに手を出してしまったと反省しています(笑)。異様な状態がやがて日常になっていく『浮かんでいる』は、サムネで勝負しようと思ったんです。最後のクリーチャーで観客をあっと驚かすところを、サムネで登場させちゃうとネタバレになっちゃうじゃないですか。なので通常ホラーってサムネイルでも、なるべくネタバレしないように工夫するんですが、今回はあえてサムネで、何か狂っていること、嫌だなって感じが分かるようにしました。YouTubeでもそうじゃないですか。何か現れたぞって興味をひいて、押してもらえたらいいなと。そういう実験をやりつつ、どこまでこの世界観が勝負できるかっていうのはお客さんに委ねています。今、スマホでこういった取り組みをやらせてもらえることがありがたかったなと思っています。
『スマホラー』参加監督による見どころ紹介、後編に続きます!
【インタビュー】ジャパニーズホラーの旗手・清水崇監督が語る”怖さの広さ”とは。14名の監督が織りなす『スマホラー』の魅力(後編)
『スマホラー』
配信頻度:毎週水曜日と金曜日に新エピソードアップ。全50エピソードを配信予定。
総合プロデュース:清水崇
監督(順不同):清水崇、川松尚良、毛利安孝、片桐絵梨子、津野励木、Pablo Absento、中神円、佐々木勝己、寺西涼、内藤瑛亮、羽田圭介、岩澤宏樹、永江二朗、野本梢(計:14名)
配信プラットフォーム:バーティカルシアターアプリ「smash.」
視聴URL:https://sharesmash.page.link/MbYB