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新規事業チーム編成の定石【後編:社内政治家,社内人脈者】

新規事業チームには、ハスラー、ハッカー、デザイナーの3つのタイプの人間が必要です。

●社内政治家、社内人脈者

スタートアップ起業の場合はハスラー、ハッカー、デザイナーの3人チームが良いですが、大企業の新規事業の場合、個々の新規事業プロジェクトチームにハスラー、ハッカー、デザイナーがいることに加えて、社内政治力がある人(社内政治家)、社内の多方面に顔が利く人(社内人脈者)がいる必要があります。

・社内政治家:新規事業に投じるリソース確保、経営陣との連携、部門間の調整、新規事業チームの擁護
・社内人脈者:社内の多方面の部門との協調と調整

大企業で新規事業を進めるには、必要リソースを必要なタイミングでスムーズに確保できる必要があります。新規事業開発は、保守本流事業とは別チームで推進しても、様々な場面で保守本流事業の力が必要になることが多いです。既存客へのヒアリングやプロタイプの試用協力依頼、エンジニアへのプロトタイプ開発依頼や工場製造ラインの一部利用、カスタマーセンターでのサポート業務依頼など。
新規事業チームが、会社の「資産を活かそう」とすることは、資産の側である保守本流事業に携わる人からすると『よくわからない仕事を、やる理由もなく急に頼まれる」ことに他なりません。
このような依頼や調整を、現場レベルではなく、部門長や執行役員レイヤーで調整するのが、社内政治家の役割の一つです。社内政治家の役割は、新規事業部の部門責任者や担当役員が担う場合が多く、過去に新規事業リーダーの経験が複数回あることが望ましいです。

社内政治家が公式な社内調整役である一方で、社内人脈者は非公式ルートで社内調整をし、様々な人の共感を集めて味方につける役割を担います。
会社の資産を活かしながら新規事業をうまく進める秘訣は、保守本流事業の様々な部門の部課長級の共感者を増やすことです。そのような共感者が、新規事業と保守本流事業の間の摩擦の潤滑油となり、本流事業との連携をとる鍵を握ります。社内の多方面に顔が利く社内人脈者がいることで、新規事業チームが大企業の豊富なリソースにアクセスしやすくなります。
もちろん新規事業チームのキーメンバーも、社内の共感者・応援者を増やす努力をする必要はあるものの、内向き社内調整仕事よりも、実際の新事業を創る外向きの活動に多くの時間を使うべきです。社内人脈者は、新規事業の経験は必要ありませんが、社内の様々な部門や立場にコネクションがあり、大企業の組織力学に長けていることが望ましいです。

社内政治家や社内人脈者がいない、もしくは力が弱いと、新規事業チームは内向き社内調整ばかりに時間を使わざるを得なくなり、新規事業開発を前に進めることが難しくなります。新規事業チームが、内向き活動に時間とリソースを使わずに済み、新規事業を前に進める活動に集中するには、社内政治家と社内人脈者の役割は非常に大きいです。

●後ろ盾になる役員を味方につける

新規事業の大まかな方向性や領域は経営陣が考えるも、具体的な新規事業企画は新規事業チームに委ねられる場合や、いわゆるボトムアップ型で新規事業企画を検討する場合、現実的な話として、権力の後ろ盾が必要です。
具体的には、新規事業の企画内容やチームを応援してくれる役員を捕まえ、味方につけておく必要があります。会長や社長であれば理想ですが、少なくとも新規事業の意思決定機関のメンバーである役員1人以上の応援を得ておきたいものです。

一部のオーナー企業を除き、大企業の新規事業の企画決裁や投資判断は、経営会議やそれに準ずる会議体における合議による意思決定がなされます。
大半の会社では、経営層は保守本流事業に携わる役員が過半を占めています。また役員の大半は、新規事業は未経験なのではないでしょうか。そのような会議体に「異質中の異質で、不確実の塊」である新規事業の企画が提示されると、出席者の大半はネガティブな反応を示すことになります。内心は良いと感じても、要らぬ責任を引き受けたい人はおらず、「やろう」と言い出す役員は極めて稀です。
役員同士の自由で活発な議論の結果、新規事業企画が承認されることは滅多にないと、心得ておきましょう。
そのような構造を持つ会議体なため、新規事業リーダーとしては、「まあ、やってみましょうよ」と言い出してもらう役員、つまり新規事業企画の後ろ盾となる役員を予め仕込んでおかねばなりません。

新規事業創出で有名な企業も、承認されて進める新規事業企画は、役員が直接的に関与しています。

リクルート社の新規事業提案制度「Ring」は、テーマ毎の担当役員陣が起案者に伴奏し、企画内容をブラッシュアップする形になっているそうです。つまり起案者と役員とで内容を練り、役員を巻き込めなければ、次のステップに進めない仕組みです。そのため事業化判断の際には、必ず役員の後押しがある状態になっています。

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https://www.itc.or.jp/about/inv20131115_recruit.pdf

サイバーエージェント社は、「あした会議」という仕組みを通じて次々と新規事業を創り続けています。「あした会議」は、役員対抗の新規事業提案バトルです。各役員がリーダーとなり、それぞれ社員4-5名募ってチームを組成し、1ヶ月かけて各チーム新規事業案を3案作ります。最終日に提案合戦をし、実行に移す新規事業案を決議される仕組みです。役員が味方どころか、新規事業リーダーとなることで、実効性の高い新規事業企画を作り続けています。


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