新市場型破壊的イノベーションの作り方【前編】
これまで世の中にない新規事業を創るとは、ヤマト運輸小倉氏の「初めから需要など存在しない、需要は私たちがつくっていく」と考えや、ソニー盛田氏の「マーケットクリエーション」 の考えを、愚直に狙おうとすることです。
これまで世の中にない事業創りは、言い換えれば、これまで解決されてない問題に取り組み、それを解決する新プロダクトを創ることであり、名著「イノベーションのジレンマ」の著者クリステンセン教授のいう「新市場型破壊的イノベーション」な事業です。
新市場型破壊的イノベーションを作る際の着眼は2通りあります。
「新市場型」とある通り、「市場」中心の考え方が求められます。1つ目は、課題を抱えたままの「無消費者」に向けた内容です。もう1つは「不満足な解決策」を刷新するやり方です。不満足な解決策とはクリステンセン教授の著作「ジョブ理論」の「生活に身近なジョブ」や「間に合わせの対処策」、「できれば避けたいこと」に該当します。
どちらも十分に解決されてない問題やジョブを見出し、既存と異なる方法で解決することを狙います。既存の常識や慣習、固定観念への挑戦となる可能性が高いです。
●課題を抱えたままの「無消費者」に向けた内容
クリステンセン教授の「イノベーションの最終回」や「ジョブ理論」によると、新市場型破壊的な成長機会の1つは「無消費者」への対応です。
無消費者が存在するのは、既存プロダクトの特徴のせいで、裕福な人や特別スキルや訓練を積んだ人でなければ消費できない場合です。既存プロダクトを利用・消費する人がいる一方で、それを購入したりアクセスできない人は無消費者となります。無消費者にも片付けなければならないジョブはあるものの、既存プロダクトを利用することはできず、蚊帳の外に置かれている状態です。
「成功する新市場型破壊的イノベーションは、相対的に単純で手頃なプロダクトを提供し、顧客のアクセスと能力を高め、ジョブを簡単に片付けられるようにするもの」とクリステンセン教授は結論づけます。
■大企業のターゲット外顧客層 = 無消費者
大企業の多くは、自社がいる業界や市場で、ターゲット顧客層の中で高シェアを獲得しているか、実質的な寡占状態にあり価格決定権を有しており、ターゲット顧客層は次のいずれかとなる場合が多いです。
1高品質を求め、高価格を許容するユーザー層
2マス層
1高品質を求め、高価格を許容するユーザー層
高品質や信頼性を重視して高価格を許容するユーザー層や高所得層、予算の大きい法人とターゲット層とする場合です。
大企業は人件費含めて高コスト構造にある場合が多く、きちんと利潤をのせると高価格になりがちです。業界大手企業は、どこも似た顧客層をターゲット層としている場合が多く、その中で激しいシェア争いをしています。そのターゲット層のニーズを捉え、そのターゲット層向けてプロダクトや料金を最適化していきます。
その裏で、その料金を払えない・アクセスできないユーザー層は「無消費者」として存在することになります。
2マス層
あるプロダクトを販売する際、ある特定ニッチユーザー層だけを狙うより、なるべく多くのユーザーに受け入れられる方が、売上やシェアを取れる可能性が高まります。マス層に支持されるプロダクトがあるから大企業であるとも言え、大企業のプロダクトはマス向けを意識するものになる傾向があります。
その裏で、マス層とは異なるユーザー層は、自分向けのプロダクトがないと感じ「無消費者」となります。
上記の1・2の通り、「無消費者」は、世の中には存在するものの、大企業にとってはターゲット外であり、大企業が無視してきたユーザー層です。
■新市場型破壊的イノベーションの作り方
新市場の創出を狙い、「無消費者」に向けた新プロダクトを創ろうとする場合、まず「無消費者と、抱えるジョブを捉える」必要があります。その次に「そのジョブを解決するソリューション・プロダクト」を作ります。
「無消費者を捉える」
無消費者の見つけ方は、自社のターゲット層を含む対象全体像を俯瞰して捉え、その全体像の中で、自社が無意識のうちにターゲット外としているユーザー層を把握することから始めます。
俯瞰の仕方にはセンスが求められ、自社や業界が持つ無意識のバイアスを壊すような全体の捉え方が必須です。無消費者は、自社プロダクトをほとんど買ってないユーザー層になるはずです。
「無消費者が抱えるジョブを捉える」
次に、そのユーザー層を徹底的に調べ、理解に努めます。そのユーザー層は自社事業のターゲット外のため、社内にはほとんど情報がないはずです。
そのユーザー層と会話を重ね、生活観察を通じて生活状況の理解の解像度を高め、そのユーザー層の価値観などの理解に努めます。そのユーザー層自体を理解することなしに、ジョブを捉えることは不可能です。
「無消費者にとって、既存解決策のイマイチな点を捉える」
そのユーザー層のある重要なジョブを捉えることができたら、そのジョブ解決のための既存手段を調査します。多くの場合、高価格で手が出ない、ピントがずれていて解決策になっていなかったり、ユーザー自身の「我慢や自己抑圧」により、そのジョブをやり過ごしている場合もあります。
「そのジョブを解決するソリューション・プロダクト案を検討する」
そのジョブを解決するソリューションを考えます。
ソリューション・プロダクト検討において、重要な点が3つあります。
1既存プロダクトの延長線上には絶対存在しない
2既存の常識や慣習、固定観念への挑戦
3テクノロジーを活用する場合が多い
1既存プロダクトの延長線上には絶対存在しない
無消費者は、大手企業の既存プロダクトのターゲット外である可能性が高いです。そのユーザー層を、ターゲット外とし続けているのには、大企業としての合理的な理由があります。自社コストを考慮したらそんな低価格では提供できない、利益性が低い、既存販売チャネルに反する方法で販売できない、既存の商習慣と異なる方法での提供は難しい、など。
そのような既存プロダクトを、相対的に単純で手頃、つまり安価に提供すると、ただ単に赤字になってしまいます。既存プロダクトを改善するような発想では、無消費者のジョブ解決するソリューションの提供は不可能です。
2既存の常識や慣習、固定観念への挑戦
既存の延長線上にない、何かしら新しいものを創り出そうとすることは、既存の常識や慣習、固定観念への挑戦となる可能性が高いです。
新市場創出する新プロダクトを創るために、タクシー配車アプリ「Uber」創業者のカラニック氏は、今まで存在しないものを発明し、他とは違う新しいものを創り出したい情熱を持つ、超楽観的で超賢い人たちとがむしゃらに働くことが、重要だと述べました。
ソニー創業者の盛田氏は、マーケットクリエーションにははじめに商品ありきで、Something New, Something Different, Something Superiorな商品があることが前提だと考えていたそうです。
3テクノロジーを活用する場合が多い
既存方法と抜本的に異なるソリューション検討は、テクノロジー活用する場合が多いです。新しいテクノロジー自体を使うこともあれば、テクノロジーにより一変した人々の行動様式に着目することもあります。
2010年以降は「スマホ・クラウド・ソーシャル」中心のデジタル活用前提プロダクトが多く、以前には提供や具現化不可能だったソリューションを、デジタル活用により実現するものが多くなっています。
例えばタクシー配車アプリ「Uber」は、スマホ以前には絶対成立することのないプロダクトです。フリマアプリ「メルカリ」は、当時個人間ネット売買の王者「ヤフオク」があったにも関わらず、スマホによる人々の行動様式の変化に着目し「メルカリ」を立ち上げました。
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