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新市場型破壊的イノベーションの作り方【後編+事例】

「不満足な解決策」を刷新するやり方

「イノベーションの最終回」や「ジョブ理論」によると、もう1つの新市場型破壊的な成長機会は「既存の不満足な解決策」の刷新です。
大企業の多くは、自業界や市場にプロダクトを提供し、多くのユーザーに利用されています。そのプロダクトに凄く満足し、積極的に購入するユーザーもいれば、プロダクトは正直イマイチだけど、他に選択肢がないため消去法で選択するユーザーもいます。ユーザーがイマイチだと思いつつも、やむなく購入しているプロダクトが「既存の不満足な解決策」です。

既存プロダクトが不満足ながらも雇用されている顧客のジョブに対して、既存プロダクトより圧倒的に良いソリューションを提供することで、不満足な解決策の利用ユーザーを獲得し、かつ無消費状態にあった方の需要を新たに開拓します。

■既存の不満足な解決策の見つけ方

既存の不満足な解決策の見つけ方は、クリステンセン教授の著作「ジョブ理論」にある、「生活に身近なジョブ」や「間に合わせの対処策」、「できれば避けたいこと」を探ります。

あるシーンにおける既存プロダクト利用にあたり、顧客の立場で不満や不便、我慢や不都合、不誠実や不平に感じることがないかを探ります。顧客の立場で捉えることが大切です。
不満足な解決策は、長年に渡って不十分プロダクトながらも提供された結果、顧客側が「そういうものだ」と不便や不都合を無意識に許容するようになっている場合が多いです。その面倒臭さをスキルでカバーすることが自分の仕事だと、ユーザーが思い込んでる場合もあり、クリティカルな観察が求められます。あるシーンにおける状態を「そういうものだ」と捉えずに、「なぜそんな不便が許容されているのか」という問題点を見出します。

次に、プロダクト提供企業側の立場に立ち、現状のプロダクトになっている理由や背景を把握します。
最後に、プロダクト提供企業の担当者に、ユーザーにとっての不満や不便を伝え、今のままで良いのか、なぜそうなっているのか、改善する必要があるのではないか問いましょう。プロダクト提供担当者が、現状を正当化する理由を滔々と語り、業界や会社都合の理由を説明し始めたら、会社の既得権益を守るために、ユーザーに不利益を生じさせている可能性が高いです。

個人的にはもっと単純な探し方をしており、「20年前と同じやり方を現在もしていたら、不満足や不都合がある」可能性が高いと捉えています。
現在の20年前といえば、インターネットが一般に広く浸透する前で、スマートフォンは当然ありません。GoogleもFacebookもなければ、LINEもブログもありません。人とのコミュニケーション手段や情報収集や情報発信の仕方など、現在と20年前では全く違っています。
20年前のやり方と現在とで同じはずがないという前提に立ってものごとをクリティカルに観察すると「どうして今どき、そんなやり方を強いられているんだ、もう21世紀だぞ!」と感じることを、比較的容易に見いだすことができます。

■スタートアップ企業が挑む不満足な解決策を刷新しての新市場型破壊的イノベーション

既存の不満足な解決策に対して、圧倒的に良いプロダクトを通じて、新市場を創出するのは、業界大手企業ではなく、スタートアップ企業であることが多いです。その理由は単純明快で、既存の不満足な解決策を提供しているのが大手企業だからです。ユーザーにとって不満足だとしても、それにより莫大な売上を上げており、大企業が自己否定をすることは極めて難しいのが現実です。
このパターンでの新プロダクト開発に多くのスタートアップが取り組み、様々な新市場を創出しています。

「不満:あまりにもタクシーがつかまらないし、タクシーのサービス品質はひどい!」
サンフランシスコであまりにもタクシーがつかまらないという実体験が、タクシー配車アプリUberの創業のきっかけとなったのは有名な話です。
顧客の立場では「タクシーに今この場で乗りたい」というシンプルなものですが、タクシー業界側の都合が色々とあったのでしょう。既存のタクシー業界の延長線上とは全く違う形で、スマートフォンという新しいテクノロジーを活用して、Uberは始まりました。

「不満:なぜレンタルビデオの延滞料金を払わないといけないんだ!」
返却を忘れた「アポロ13」のレンタルビデオを返却しにレンタルビデオ店に行くと、40ドルの延滞料金を請求されました。そのことがきっかけとなり、「延滞料金なしの、郵便映画DVDレンタル」というNETFLIXの初期ビジネスをリードヘイスティングス氏が思いついたのも有名な話です。
返却期限を守ってもらう必要のあるレンタルビデオ屋の都合はわかるものの、顧客の立場では、延滞料金40ドルは腹立たしいものです。DVDという新しいメディアフォーマットと技術の活用により、既存のレンタルビデオ店とは全く異なるNETFLIXビジネスが始まりました。

「不満:なぜ広告費を先払いしないといけないんだ!」
メディアに広告出稿する場合、一般的に広告費用は先払いです。もし広告効果がなかったとしても、既に広告費は支払い済みです。
そのような業界慣習と広告主企業の不信や不満に対して、成果報酬型の広告が登場し、広告主の関心を集めました。例えば、ウェブメディアに表示される広告がユーザーにクリックされた時だけ課金されるクリック課金型広告や、広告クリック後に購入や会員登録された時だけ課金されるアフィリエイト広告などです。

宣伝広告領域だけでなく、人材広告業界でも同様のことが起こりました。
採用広告費用の先払いが常識だった業界において、2006年に成果報酬型の採用広告メディアで創業したリブセンス社は、創業からわずか6年で上場するほど急成長しました。

「不満:引っ越し料金を知るのに、一つ一つ問い合わせるなんて面倒臭い!」
引っ越しが必要な際、なるべく引っ越し代は安価に抑えたいものです。複数の引越し会社から見積もりを得ることで安価な会社を選べますが、その連絡や手続きは面倒です。
そのような中で、2000年代に引っ越し一括見積もりサイトが急増。見積もりサイト1つに必要情報を入力することで、複数の引越し会社に連絡が届く仕組みです。一括見積もりサイトによって、何社にも連絡する必要はなくなりました。しかし、複数の引越し会社から鬼の営業電話が来まくるという、更に面倒な問題が生じることになってしまいました。

その問題解消のために、エイチーム社の「引越し侍」が、引越し会社の一括見積もりサービスを開始。引越し侍サイト上で、複数引越し会社の概算見積もり金額や口コミを見ることができ、顧客が見積もり希望をする会社を選んで引越し会社に連絡することができます。

「不満:転職検討の際に、採用ページの作られた情報だけでなく、社内のリアルで生々しい声を事前に知りたい!」
社会人にとって、転職活動はキャリアにおける一大イベントであり、想定外の失敗は避けたいものです。一般に退職理由の上位は、人間関係や社風、評価制度や時間外労働など。このような点のリアルな情報は転職前に知っておきたいですが、会社の採用ページに書かれることは少なく、面談時に質問しても本当のことを話してくれるかは不明です。
そのような中で、2007年にOpenWork(旧Vorkers)が社員口コミサイトを開始し、2020年に口コミ数が1000万件を突破。今では転職検討者の過半数が、事前に社員口コミサイトを利用するようになっています。

「不満:なんで食料品EC通販の送料を払わないといけないんだ!」
インターネット通販市場が伸び続ける中で、なかなか広がらないのが食料品や生鮮品ECです。ECは便利だから利用したくとも、送料は払いたくない人が多く、食料品EC拡大のネックとなり続けてきました。
そのような中で、レシピ大手クックパッド社の「クックパッドマート」が送料無料の食料品ECを開始。自宅まで配送ではなく、マンション共用部や小売店に設置された生鮮宅配ボックス(マートステーション)で受け取れる仕組みです。生鮮食品1品でも、送料無料でECが利用でき、特に都市部中心に成長が期待されています。

「不満:東京は土地が高くて戸建てが買えない!」
東京の特に23区は土地が高く、一般のサラリーマンが戸建てを買うことは困難です。そのため戸建てを購入したい場合は、東京都心から少し離れた郊外の戸建を購入するのが一般的でした。
そのような中で、「東京に、家を持とう。」のキャッチフレーズで2010年代に急成長したのがオープンハウスです。同業他社と異なり、土地の仕入れ〜建設〜販売まで内製する製造小売(SPA)モデルを採用し、「築40年戸建を買い取って解体し、狭小戸建て3棟建てて販売する」という業界非常識なやり方で、東京で戸建てに住みたいユーザーニーズを掴みました。

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「不満:企業の広告はいいことしか言わない。自分に合う化粧品が欲しいだけなんだ!」
化粧品業界は、広告費を大量投下するビジネスの1つです。女性の美への関心を刺激する、様々な広告がテレビや雑誌、ウェブメディアなどに溢れています。しかし素敵なテレビCMや広告と、自分の肌に合うかどうかは全く関係ない話です。以前は、自分の肌に合う化粧品がどれか、客観的に参考になる情報は存在しませんでした。
そのような状況に対して、アットコスメが化粧品・コスメの口コミサイトを提供しました。アットコスメ掲載の口コミ情報はユーザーの信頼を集め、その結果、大手化粧品メーカーもアットコスメの情報に頼るような構造の構築に成功しました。

アットコスメは、既製品の中で自分に合う化粧品探しの情報(口コミ情報)を提供する一方で、自分用のパーソナライズ化粧品を作れるサービスも出始めています。
資生堂はIoT技術を活用したパーソナライズスキンケア「Optune」を2019年7月に開始。業界大手の参入は話題を集めましたが、翌2020年6月にサービス終了しました。
2021年4月には、業界大手のオルビスがIoT技術を活用したパーソナライズスキンケア「カクテルグラフィー」を開始し、業界で注目を集めています。

パーソナライズの仕方はIoTデバイスに限らず、パーソナライズヘアケアの「MEDULLA」は、ウェブ上で10の質問に答えることで、自分に合うシャンプーをカスタマイズしてくれるサービスです。

とある不満足や不十分に対して、解決策は1つとは限らず、複数のアプローチがあり得ます。


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