新規事業開発7つのステージ【前編】
新規事業開発は様々なステージがあり、各ステージでやるべきことは異なります。
①初期アイデア創出ステージ
まずはじめに、取り組む顧客課題を見つけ、初期の事業仮説・プロダクトやソリューションイメージを思い描くことを目指します。パワーポイント2-3枚で十分です。
このステージでは曖昧な状態でよく、「仮説」という名の妄想ともいえます。根拠や裏付けは不要であり、次のステージでどう検証を進めるか目処を立てることができればOKです。この時点では、新事業仮説やプロダクト案が破綻してないか、過度に自社都合になっていないか、顧客課題が不在でないか、新規事業の会社方針とずれてないか、など基本的な点を外していないか、留意しましょう。
このステージでよくある失敗は、新規事業の「要件」だけ考えて、それで良いと勘違いしてしまうこと。例えば「5年で売上10億になる、新しい領域でデジタルビジネスを立ち上げる」は単なる要件であり「顧客課題と初期事業仮説」になっていません。「顧客課題」を考えるべきが、「自社の課題」について考えてしまうのは、典型的な失敗例です。
「顧客・想定課題・初期事業仮説・プロダクト仮説の一連のセット」と、次ステージでの検証方法の目処を立てることができれば、次のステージに移ります。
②顧客と顧客課題の定義ステージ
初期アイデア創出ステージで見つけた初期課題案を、インタビューや観察などを通じて深く理解し、解決すべき未解決課題の具体的で詳細に定義することを目指します。
このステージは、初期アイデア創出ステージで立てた仮説セット(ある種の妄想)を検証するステージです。実際の顧客は誰なのか、その顧客は存在するのか、顧客が抱える課題は何なのか。その課題が生じるメカニズムや関係者は何なのか、課題に我慢する背景には何があるか、課題周辺の関係者の既得権益は何か、どうしても避けたい苦痛なのか否か。顧客へのヒアリングや現場観察、業界歴史の調査などを通じて、当初想定した顧客や課題は確からしいか、ただの空想だったのか、新規事業として取り組むに値する課題かどうか判別します。
このステージでは、次の項目をまとめあげます。
1:新事業の構想概要
2−1:顧客の定義
顧客はどの市場の、誰か。
2−2:顧客の課題の定義
顧客は、どういうシーンで、何に困っているのか。
その課題はお金を払って解消したいくらい辛くて困る問題か。
なぜこれまで解決されれないままなのか。
その課題はどのくらい多くの人や企業が抱えるのか。
その課題解決を狙う、既存プロダクトやソリューションは世の中に存在するか。
ある場合は、それは何が不十分か。
ない場合は、なぜ存在しないのか。
このステージでよくある失敗は、初期アイデア創出ステージの案は妄想であるにも関わらず、自身の妄想が正しいと証明するデータだけ意図的に集めてしまったり、ありもしない顧客課題をでっち上げてしまうことです。自身の初期アイデアが間違っていたと認められない優秀層が、陥りやすい失敗です。
視野を狭めすぎてしまうことで、より重要課題の発見機会を逸してしまうこともあります。ヒアリングを通じて、当初想定した顧客や課題とは別に、より重大な課題や別の事業機会を見出すのはよくあることです。
新規事業開発のステージが進み、販売開始してから売れない場合、最大の理由は「市場ニーズがなかったため」です。顧客と顧客課題を具体的に適切に捉えない限り、いかなる新プロダクトを販売しようとも、売れることはありません。
このステージでのミスは、後続ステージで取り返しがつかない致命傷になるため、顧客と顧客課題の定義は極めて重要です。インタビューなどを通じて、「顧客を明確に定義し、解決するに値する未解決課題」を具体的に見いだすことができれば、次のステージに移ります。
③事業企画&プロダクト企画ステージ
顧客と顧客課題の定義ステージで見出した顧客課題に対応する、事業性を伴うプロダクトやソリューションの具体案、ビジネスモデルや事業仮説計画の作成、プロダクト具現化方法や想定オペレーションモデルを作成し、会社のしかるべき投資判断の場に提示することを目指します。
このステージでは、次の項目をまとめあげます。
3:プロダクト・ソリューション案
具体的にどういうプロダクト・ソリューション案か。
その具現化は現実的に可能か。
社内リソースだけで具現化できるか、社外リソースや資産の活用が必要か。
今はない何を構築する必要があるか。
そのプロダクトを使用し、顧客の課題は具体的にどう解決するか。
顧客にとっての価値は何か、金を喜んで払うほどの価値か。
顧客はそのプロダクト・ソリューション案を使いうる状態か。
既存の手段や競合と比較して明らかな優位性は何か。
その優位性の根拠は何か。
既存手段や競合ではなく、その新プロダクトを顧客が選ぶ理由は何か。
4:ビジネスモデルと事業仮説計画の構築(プロダクト具現化〜販売開始まで)
どういうビジネスモデルか。
何に対する課金で、販売価格はいくらか。
想定顧客は何人・何社ほどか(獲得可能性のある最大市場規模の把握)。
そのプロダクトや新事業のコスト構造、具現化のための概算コストは。
どのような体制でどう具現化するか。
具現化のために何が必要か、どう量産するか。
事業の収支シミュレーション。
5:オペレーションモデルと事業仮説計画の構築(販売開始〜事業初期成長ステージまで)
販売開始時の自社のオペレーション体制は、どういう業務機能が必要で、どう用意するのか。
販路や流通政策はどうか。
どう認知を広げ、販売・流通させるか。
販売開始後の事業運営の概算コストは。
6:自社がその新規事業に取り組む理由
自社がその新規事業に取り組む理由は何か。
なぜ、今なのか。
プロダクト・ソリューション案は、その内容で課題解決しそうか、お金払ってくれそうか、何度も試行錯誤を繰り返すことになるでしょう。
その試行錯誤は、パワーポイント資料ではなく、簡易プロトタイプを制作して、それを想定顧客に提示しながら検証することが好ましいです。人は誰しも、見たことがないものを評価できません。具体的に目に見える簡易プロトタイプを示されることで、想定顧客から具体的で意味のあるフィードバックを得ることができます。
このステージでよくある失敗は、規定のスケジュールを守りたいあまり、十分な検討・検証なしに次ステージに進めようとすることです。また投資判断してもらうために、事業の収支シミュレーション計算をでっち上げるケースはよく見られる失敗です。
現場の現実として、鉛筆ナメナメで計画数字を作ることや、あえてホラを吹くこともありますが、新規事業リーダーはその功罪を理解した上で、鉛筆ナメナメして健全なホラを吹きましょう。
初期仮説ができる範囲で検証され、実行・具現化可能な事業やプロダクト案であり、ビジネスモデルが破綻しておらず机上の空論ではない、これでいくぞという事業仮説計画を作成し、投資判断を仰ぎます。この判断は、事業開発投資をするか見送るか、最初の大きな判断となります。通常は経営会議やそれに準ずる意思決定の場で判断がなされます。