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永里優季 YUKI NAGASATO Vol.1「なぜ、永里優季は男子サッカーに挑戦するのか?」
日本女子サッカー史上最高のストライカーが男子チームに移籍する――。マスメディアやSNSを通じて一気に拡散した、永里優季の男子挑戦。
なぜ、女子サッカーで頂点を極めた選手は未知の領域に飛び込む決断をしたのか?そこにはスポーツ選手の枠を超えた、女性の可能性を広げたいという思いがあった。
「SmartSportsNews」の独占インタビューを3回に分けてお届けする。
男子挑戦は7、8年前から頭の中にあった
――まずはじめに今回なぜ「はやぶさイレブン」という神奈川県2部リーグ所属の男子サッカークラブへの移籍を決断したのか。この挑戦を決めたきっかけを改めて教えてください。
きっかけは女子がやるサッカーと男子がやるサッカーに違いを感じるようになったことです。もしかしたら男子のサッカーと女子のサッカーは全くの別物なのではないかと、そういう仮説が自分の中に生まれました。そこで究極の選手を目指すのであれば、男子の中でプレーすることを目指そうと、そう思うようになりました。
――具体的には、どこに違いを感じたのでしょうか?
言い方が正しくはないかもしれないんですが、女子のサッカーはアスリートっぽくない。体の動きや使い方、その中で起きる現象も男子のサッカーとは違うと思うんです。思考の部分もそうだし、持って生まれた筋力の違いによって生まれる現象も違う。今はどっちが本物か、偽物かという感覚は全くありません。ただ、女性と男性のサッカーでは生物学的な違いがあるので、起きる現象も違うというのは当然という捉え方はしています。
――そう思うようになったのはいつ頃ですか?
海外でプレーするようになってからなので7、8年くらい前からだと思います。その頃から頭の片隅にはずっとそういう思いはありましたね。
――男子のサッカーに挑戦するというロールモデルになるような選手はいたんですか?
いなかったですね。ただ、ドイツでプレーしている頃に何人かの選手が男子のクラブからオファーを受けたというニュースはありました。そういうパターンもあるよねと。それで男子の中でプレーしてどうなるのか見てみたかったと思いました。
――永里選手は小学生の頃から男の子の中に混ざってプレーしていたと思いますが、いつ頃から男女の差を感じるようになりました?
中学3年生とか、高校生とかではもう同学年相手ではもうキツいなと感じていました。それくらいから明確に身体能力の差が出始めて難しかったですね。
――日テレ・ベレーザ時代はヴェルディのユースやジュニアユースの選手と試合はしました?
ベレーザやメニーナの頃はやりましたね。高校生とかでもそこまで強い相手でなければ勝てることはありました。ただ、全国レベルの高校生が相手になると大敗してしまいましたね。でもそれはあくまで女性のチームと男性のチームの対戦で、自分は女性のチームの中でしかやったことがなかったので、それは今の状況とは全く違いますよね。それと5、6年前は日本に帰ってきたときにヴェルディユースやマリノスユースの練習に何度か参加したことがあって、そこでも差を感じましたね。
Jリーグ挑戦の可能性もゼロではない
――そういう経緯があって実際に男子サッカーへの挑戦に踏み切れたのは、お兄さんの永里源気選手が所属する「はやぶさイレブン」という受け入れ先があったからでしょうか?
それは一番大きな理由でしたね。もう一つは自分の身体能力的にいけるという自信があったからです。その二つが重なったことで実現したと思います。オファーは自分からしました。
――その男子サッカーへ挑戦するという具体的な意思が芽生えて、どれくらいのスピード感でお兄さんに相談されました?
1日、2日でしたね。もうすぐに兄に連絡しました。
――お兄さんはどんな反応でした?
『いいね、面白いね。GMに聞いてみるよ』って、すぐに聞いてくれました。そしたらGMの福島大地さんも『いいね、面白そう』って、そんなノリだったのですぐに実現したというのもあります。
――そういう条件もあってはやぶさイレブンへの移籍が実現しましたが、日本代表でトップレベルの永里選手であればいきなりJ3とか、もっと上のステージに挑戦という選択肢もあったんじゃないですか?
いきなりそこへのチャレンジはできなかったですね。やれるか、やれないかを考えたときに、やれないだろうなというイメージの方が強くなるので。でも神奈川県2部であればなんとかやれるんじゃないかというイメージがありました。そこでどれだけできるのか、今の自分の現在地を知りたいという思いがありましたね。
――では今のステージをステップにして、さらに上のレベルへという構想もイメージとしてはありますか?
このレベルでどれだけできるかによりますね。はやぶさイレブンもJリーグ加盟を目指しているので、ステップアップできれば上のカテゴリーを目指せるし、可能性はゼロではないですね。
今が肉体的にも技術的にもピーク
――永里選手は今年33歳でアスリートとしてはベテランの領域に入っていきますが、それでもなお自分に高いハードルを課していく理由は?
過去を振り返って身体能力的にも、技術的にも今が一番なんです。その感覚があるので自分の中ではこのステップというのはごく自然な流れでした。逆に25、26歳の頃にこの決断は出来ませんでしたね。例えば単純に走るスピードも今が一番速いんです。その能力が上がったのは、自分の中で一番大きなことですね。それがなければ男子の中では絶対にプレーできないと思っています。
――技術的な進化はどんなところに感じていますか?
まずはボールを止める、蹴るという技術の質と精度が圧倒的に上がっていること。それによって余裕が生まれるので、プレーの発想力、クリエイティビティも上がってきています。時間と空間の余裕を技術で生み出せるようになったので、今までできなかった領域のプレーができるようになりました。そこでのアイデア、判断の質、決断のスピード、すべてにおいてレベルアップしています。そこは身体能力とは関係ない部分なので、男子の中でも差が出ない領域ですよね。それに先ほど言った身体的能力も向上しているので、挑戦しようと決断できました。
――ここまで練習や試合をする中でフィジカルコンタクトで課題に感じることはありました?
ほぼないですね。そういう受け方をしないので。逆に自分が守備に回るときは激しくいきます。そこで吹っ飛ばしてしまうこともありますよ(笑)。
――吹っ飛ばすほどですか(笑)。では今のところ男子の中での手応えというのは?
昨日(10月4日に取材)の練習試合に15分間出場しました。相手も同じ神奈川県2部のチームでした。このカテゴリー的にプレーに荒さがあるので、ワンタッチ、ツータッチと少ないタッチでボールを叩くというテーマで入りました。ボールには5回ぐらい触れて、一度も取られなかったですね。
――その5回のタッチでどんなことを感じました?
そこで感じたのは、間で受けるのは余裕だなと思いました。味方と相手の位置関係で、自分がパスを受けるタイミングを間違わなければ相手は飛び込めないし、タックルできない距離感で受けることができますね。
――周りの人の反応は?
私が入った方が、リズムが生まれたと言ってくれました。というのも今のチームにはワンタッチで落とせるFWがいないんです。オフザボールの認知力がまだまだ低いので、そこは自分の良さを出していけるなと昨日の試合で感じましたね。
――これからリーグ戦にも出場できると思いますが、そこへの手応えは掴めました?
少しずつ出場時間は伸びるかなという手応えはありました。私自身まだ怪我から復帰したばかりなので、少しずつプレー時間を伸ばしている段階でもあります。ただ、今レギュラーのFWが怪我をして長期離脱しているのでチャンスはあると思いますね。
――自分の強みをチームの中で活かすイメージはありますか?
先ほど言ったワンタッチ、ツータッチでプレーするときに前方向にパスを出すということですね。あるいは後ろに出すとしても次の人が前方向に向かってプレーを選択できるようにすることで、チームにリズムが生まれるんです。そこを自分が担うことはできるかなと思います。
――前線で自分が起点になれるイメージができたわけですね。
昨日の試合の感覚ではワンタッチだけでなく、自分でターンする余裕もあるなと思いました。昨日は全部叩いていましたけど、これからはもっと判断の幅を広げられますね。練習をフットサルコートでやっていて狭い中でのプレーだったので、ようやく実戦的な中でプレーできて、よりプレーの選択の幅は広いなと思いました。
■プロフィール
永里優季(ながさと・ゆうき)
1987年7月15日生まれ。神奈川県厚木市出身。なでしこジャパン(サッカー日本女子代表)として2011年のFIFA女子ワールドカップ優勝、2012年のロンドンオリンピック銀メダル。2009年から海外に活躍の場を移し、ドイツ、イングランド、アメリカで活躍する。2009-2010年にはUEFA女子チャンピオンズリーグで優勝。2020年9月より神奈川県2部リーグのはやぶさイレブに期限付き移籍し、男子サッカーに挑戦する。
https://note.com/yukinagasato
■クレジット
取材・構成:SmartsSportsNews編集部
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