【脱炭素経営の前線から 4】 「クラウドサービスで変わる 脱炭素化戦略とは」 (株)ゼロボード 代表取締役 渡慶次 道隆氏
CO2排出量開示のための複雑なデータ収集や計算、目標値の設定など、その手間とコストに悩む企業は少なくありません。このような中、世界で注目されはじめたクラウドを使ったCO2排出量の算出・可視化サービスが、日本でもスタートしました。今回は、提供会社である株式会社ゼロボード 代表取締役 渡慶次 道隆氏に新しいサービス開発の狙いと展望をお聞きしました。
●プロフィール JPMorganにて債券・デリバティブ事業に携わったのち、三井物産に転職。コモディティデリバティブや、エネルギー x ICT関連の事業投資・新規事業の立ち上げに従事。欧州でのVPP実証実験のプロジェクトマネージャや、業務用空調Subscription Serviceの立ち上げをリードした後、A.L.I.に移籍。
電力トレーサビリティシステムや、国プロ向けの環境価値取引システムの構築を始めとした多くのエネルギー関連事業を組成。脱炭素社会へと向かうグローバルトレンドを先読みしzeroboardの開発を進め、2021年9月、同事業をMBOし株式会社ゼロボードとしての事業を開始。東京大学工学部卒業。
■「エクセルで頑張る」から「クラウドサービス」へ
―株式会社ゼロボードの設立と渡慶次さんの代表取締役就任を発表されたばかりのお忙しい中、ご登場いただきありがとうございます。
渡慶次:このたび、(株)A.L.I. TechnologiesよりCO2排出量算出クラウドサービス「zeroboard」事業をMBOし、(株) ゼロボードとして運営を開始いたしました。「脱炭素経営EXPO」は会社設立発表後、初めての展示会出展となりますので、お披露目イベントとしても力を入れて準備を進めているところです。
今回、CO2排出量の可視化サービスに特化した事業会社とすることで、サービス名と会社名が一致することによる認知度の向上も期待しています。多くの企業様との業務提携を積極的に推進し、事業成長を加速させていきたいと考えております。
―提供するクラウドサービス事業について、お聞かせださい。
渡慶次:はい、弊社は企業向けに、その企業のCO2排出量データを収集・可視化し、報告するツールを、クラウドサービスとして提供しています。このサービスが必要とされる背景にあるのは世界的なトレンドであるカーボンニュートラル社会の実現です。多くの企業にとって、この社会課題に真剣に向き合うことになるきっかけは、金融市場からのプレッシャーです。海外投資家の多い上場企業においてはESG投資の流れの中で、気候変動に直結するCO2排出量の報告は非常に重要視されます。いわゆる非財務情報とよばれる開示項目において、従来は企業が自社のCO2排出量だけを報告すればよかったものが、サプライチェーン全体を含めてどれだけCO2を出しているのかを開示する必要がでてきたわけです。しかし、国際基準であるGHGプロトコルにのっとってデータを集め、開示するようなシステムは基本的に存在しておらず、ほとんどの企業は、エクセルを利用した人海戦術で算出していました。
この状況を目の当たりにしたことで、「特定のルールに基づいてデータの収集・算出をし、開示までできるサービス」にニーズがあることに気が付きました。例えば、財務情報の開示ではマネーフォワードやフリーといったクラウド会計サービスを利用する企業が急激に増えていますよね。それと同じことをCO2排出量という非財務情報の開示で行えるようになればいい、という発想です。これを我々はクラウドサービスによりいち早く展開し、その第一人者となるべく事業を推進しています。
―なるほど。日本以外でも同様のサービスはあるのですか?
渡慶次:ドイツやアメリカ、シンガポールなどで、やはりCO2排出量可視化のクラウドサービス事業が立ち上がってきており、まさに今年は可視化サービス元年とも言える様相です。競合は今後も当然出てくるでしょう。我々がCO2排出量の可視化のニーズに気づき、サービス開発に着手したのは2021年初頭であり、国内では現時点で圧倒的なポジショニングは取れていると思います。
■サプライチェーン全社に活用できるソリューション
―このサービスの利用者は、主に上場企業ということになるのでしょうか?
渡慶次:はい、スタートはそうなりますが、上場企業から始まったCO2排出量の把握・削減は、次第にサプライチェーン上にいる中小の企業様や非上場企業様まで波及しつつあります。お金や人をかけずに、グローバルなルールにのっとってサプライチェーン全体のデータをきちんと可視化するお手伝いをすることが我々の仕事です。自動車製造関係や化粧品会社、製薬会社などサプライチェーン全体への削減要請が強まっている業界には、既にアプローチを始めています。大手の最終製品メーカー様のように、CO2排出量可視化の仕組み作りに何億円もかけることが難しい会社でも、ゼロボードのサービスであればご活用いただけると思います。
―企業規模にかかわらず、低コストで始められるのはよいですね。
渡慶次:CO2排出量データの可視化には、他にもメリットがあります。このようなデータを整え、中長期的な削減へのコミットメントをすることによって、企業価値が高まります。例えば、銀行から融資が受けやすくなるなど、キャピタルコスト削減につながったり、調達するモノ・サービスのCO2排出量を削減したい企業からの引き合いが増加するといったことが期待できるわけです。企業経営において、単なる報告のためのシステムを超えて、企業価値を高めるソリューションとして機能していくサービスとして利用できることは、重要なポイントであると思います。
■デモ機による体験や自治体連携例の紹介も
―「脱炭素経営EXPO」で予定している展示内容について教えてください。
渡慶次:展示ブースでは、7月から提供をはじめているベータ版ソフトによる実際に動くソリューションを、デモ機を使って触れていただくことができます。
脱炭素関連の情報収集がスムーズに行えることや自動的に社内データの連携ができる様子などを実際に体験していただければ、可視化のハードルは高くないのだと実感していただけるはずです。
その他には一般消費者向けアプリも展示されます。こちらは企業様がお客様にマーケティングキャンペーンを企画される際に、ご活用いただける内容となっております。脱炭素EXPOに合わせて情報解禁しますので、ぜひ展示ブースで見ていただきたいです。
―渡慶次さんには「脱炭素経営 実現セミナー」にもご登壇いただきます。その内容はどのようなものになりますか?
渡慶次:脱炭素化問題の中心は企業ですが、もうひとつ、地方創生の鍵としても注目を集めています。今年6月に内閣府から「地域脱炭素ロードマップ」が発表されました。これは、環境庁主導で2030年までに脱炭素化先行地域を100カ所以上創出し、地方創生や復興にまでつなげようというものです。そのため、地方自治体や地域金融機関には、脱炭素の経営にシフトする先導役となることが求められているのですね。これに対して我々はどのようにリーチしていくかなどを、お話しいたします。ゼロボードでは、現在複数の企業との業務提携や自治体との協定のお話が進んでおります。その辺りの具体的な事例をあげ、地域脱炭素についてのアイデアなどに触れていきたいと考えています。
―企業だけでなく自治体関連の方にも参考になりそうですね。その他に、伝えたいメッセージはありますか?
渡慶次:そうですね。脱炭素経営は国や金融市場からのプレッシャーではじめるのではなく、企業価値の向上に高まっていくのだという攻めの姿勢で取り組むことが、大変に重要だと思っています。
サプライチェーンを通して、多くの原材料や部品について、ひとつひとつCO2排出量を算出し、データ連携をしていくことは非常にハードルが高く思えますが、実はこういった細かいデータの連携は、日本のモノづくりの得意分野だと感じています。日本は高度経済成長期から、カンバン方式などのオペレーションエクセレンスを武器に、世界のモノづくりを席捲しましたよね。脱炭素社会へ向けたルール変更自体は欧州発のものではありますが、それを逆手にとり、CO2排出量を細かく可視化し、環境負荷の低いモノづくりを実現することにより、そこを強みにすることができるのではないでしょうか。コストだけを重視したサプライチェーンでは真似できない、日本の強みを生かしたイノベーションをおこすことで、国自体の元気も生まれてくると思っています。
■ゼロボード様、取材にご協力いただき、ありがとうございました。
<お知らせ>
第1回 脱炭素経営EXPO秋 2021年9月29日(水)~10月1日(金)
会場:東京ビッグサイト 日本初開催となります。ぜひご注目を!
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