【脱炭素経営の前線から 6】 「注目!花王の一歩先行くESG戦略」 花王(株) ESG活動推進部長 高橋 正勝氏
業績や財務状況よりも環境や社会問題への取り組み状況を重要視するESG投資が世界的潮流となった今、ESGへの取り組みは環境貢献の役割にとどまらない重要課題となっています。今回は、いち早くESGに取り組んできた企業として知られる花王株式会社 ESG活動推進部長 高橋 正勝氏に、最新状況をお聞きしました。高橋氏には、[関西]脱炭素経営EXPOセミナーでご登壇いただく予定です。
●プロフィール 1991年花王(株)入社。素材開発研究所、マテリアルサイエンス研究所、欧州花王化学研究所を経て、2020年にESG活動推進部に異動。
■ESG戦略を、きちっと活動におとすのが役割
―持続可能な世界の実現にむけてESGに配慮した取り組みが、企業価値に直結する時代となりました。なかでも花王は、早くからESGに取り組んでおられます。高橋さんがESG活動推進部に着任されたのはいつ頃でしょうか?
高橋:私は新入社員が一番多かったバブルの時代に入社し、それからは長らく研究開発部門におりました。界面活性剤や触媒の研究開発をやっておりましたが、昨年2020年9月よりESG部門に異動になりました。ですので、着任して1年というところです。
―花王のESG活動推進部の業務や取り組みについて教えてください。
高橋:ESG活動推進部は、その名前の通りESGの取り組みを推進する部署です。ESG戦略の下で社員一丸となって目標に進んでいく中で、社員のみなさんの背中を押して一緒に取り組むのが私の部署の役割です。ESGの環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)の中で、Eの環境では、主に脱炭素・ごみゼロ・水保全に取り組むほか、Sの社会では、人権に関わることにも取り組んでいます。
また、社会貢献活動や生活者一人一人の行動変容をナッジするような活動も行っています。例えば「花王国際こども環境絵画コンテスト」という10年以上にわたり花王が続けている活動があるのですが、そこには世界中のこども達から10年間で10万点以上の作品が寄せられています。メッセージ性の強いものも多く、当初の目的である子供への環境啓発を超えて、むしろ我々大人が気づかされることが少なくありません。
また、今年4月には、暮らしに近い商品やサービスを提供する様々な企業と手を組み、サステナブル・ライフスタイル研究会を発足させました。参加企業の持ち味を活かし力を合わせることで、1社ではできないことに挑戦しています。生活者のサステナブルな暮らしのための意識啓発や、行動につながる活動に取り組んでいます。
■いち早く、トップダウンで社内外に宣言
―日本企業でトップレベル事例と紹介されることの多い、花王のESGへの取り組みが始まったきっかけや背景は、どこにあったのでしょうか?
高橋:まずは環境への取り組みを早くからスタートしていたことではないでしょうか。世界が昨今のようにESGを重視するようになったのは2015年のパリ協定からだと思うのですが、花王では2009年に既に「環境宣言」を発表しており、環境への取組みを着実に進めていました。そして2019年4月にはESG戦略として「Kirei lifestyle Plan」(キレイライフスタイルプラン)を発表。さらに同年9月にトップが「ESG経営に大きく舵をきる」と社内外に宣言しました。これがやはり一番大きかったと思います。トップダウンでやるぞということです。
―トップの先見性と決断ということですか。
高橋:そうですね。それまでもやってはいたし、やらないといけないということはもちろん分かっていたのですけれど、ESGの取組みはやはりコストという見方が強かったのです。それを「これは未来に向けて絶対必要なこと」、「その為に企業も自ら変わらなければならない」と判断したのです。短期的にはコストになるとしても必ず社会の為になる、中長期的には必ず企業価値として帰ってくると。もっとも、CO2排出そのものは、外部不経済ですが今はコストになりません。しかし、将来、炭素税が導入された時点で正にリアルなコストになる。結果的には、その様なリスク対応にもなっているということです。
―ESG戦略「Kirei lifestyle Plan」(キレイライフスタイルプラン)について、さらに詳しく教えていただけますか?
高橋:花王のESG戦略を19のアクションにまとめたものが「Kirei lifestyle Plan」です。19のアクションの選出あたっては、世界のメガトレンドや評価会社が会社格付けの際に重視している要素などを参考に78の候補テーマが選出され、マテリアリティ分析や第3者意見をもとに19のアクションに絞り込まれました。Kirei lifestyle Planは3つの柱「快適な暮らしを自分らしく送るために」、「思いやりのある選択を社会のために」、「よりすこやかな地球のために」と、それらの基盤である「正道を歩む」で構成されています。3つの柱は、社内では簡単に「Me」(自分のために)、「We」(社会のために)、「Planet」(地球のために)と呼ばれ、日常の花王用語として浸透しています。環境の「Planet」では、脱炭素・ごみゼロ・水保全 などで目標を設定して取り組みを進めています。
■セミナーでは、事例紹介をさらに詳しく
―11月の[関西]脱炭素経営EXPOのセミナーでは、高橋さんにご登壇いただく予定です。その内容はどのようなものになりますか?
高橋:弊社のESGの取り組み事例を紹介させていただこうと思います。脱炭素に取り組みたいとお考えの経営者の方やサステナブル、ESG関連の部署に所属している方々などが多く来場されている展示会とお聞きしています。そういった皆様に参考にしていただけるようなものをお伝えできればと考えております。また、弊社は家庭品の会社ですので、来場者様は消費者様の立場から製品を使っていただいていると思いますので、そういった面でも一緒にどういう取り組みができるのかもお話できればと思っています。
原材料調達から製品製造、輸送、そしてご家庭での使用、廃棄までのサプライチェーンの流れをスコープ1,2,3に分けられますが、スコープ1,2の自社の製造工程の部分は弊社の努力で進めていくことができます。しかし、川上の原料部分や川下のご家庭での使用や廃棄の部分は、サプライヤー様やお客様のご理解や協力がなくては進みません。この部分を広げていくための活動は、私のモチベーションとなっておりますので、ぜひお話ししたいと考えています。
―当日は、再生可能エネルギーに関する展示も同時開催していますので、その関連の聴講者もたくさん来場されると思われます。
高橋:再生可能エネルギーがどれだけ社会に普及するかは、スコープ3の観点から我々にとってもキーです。そのためには、いろいろと協力しあうことが非常に大切です。また、弊社では包装容器のリサイクルで、会社の枠を超えた取り組みも加速させています。繰り返しになりますけれど、脱炭素の取組みは決して花王だけでは到達できません。志を一緒にする仲間と共にやっていきたいです。当日を楽しみにしております。
■花王様、取材にご協力いただき、ありがとうございました。
<お知らせ>
[関西]脱炭素経営EXPO 2021年11月17日(水)~19日(金)
場所:インテックス大阪 関西初の脱炭素経営EXPOとなります。ご注目を!
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