【脱炭素経営の前線から 11】「日本市場への参入、そして無償版発表の理由とは」 Persefoni AI社 エグゼクティヴ・ヴァイス・プレジデント キース・デンハム氏
東証プライム市場において気候変動リスク情報の開示義務が課せられるなど、炭素会計の重要性が高まっています。CO2排出量算出をはじめとする炭素管理・会計プラットフォームのリーディングカンパニーとして知られる米国Persefoni AI社は、2021年に日本市場に参入。先頃は無償版提供の発表を行い話題となりました。日本初出展が近づく今、日本企業への期待と狙いをお話しいただきました。
・プロフィール [キース・デンハム Keith Denham] EVP グローバル・マーケット。企業のガバナンス、コンプライアンス、およびテクノロジー分野における25年以上のコンサルティング経験の後、Persefoni AIに参画。特にリスクマネジメントとコーポレートガバナンスの分野において広範囲なキャリアを持ち、デロイト トーマツ グループでは在籍した20年間で数々の要職を歴任。Persefoni AIでは、炭素会計ソリューションの責任者として世界中のビジネスの成長を牽引。
■大企業の炭素会計には「柔軟性」が不可欠
―最初に御社の事業について簡単にご紹介いただけますか。
デンハム:私は 社内で複数のビジネスユニットの指揮をとっており、日本のビジネスユニットはそのひとつです。私達にとって、現在、最も重要な市場であり最大の投資をしている国、それが日本です。弊社の製品は、世界トップクラスと自負する炭素会計ソフトウェアです。会社設立のきっかけとなったのは、私達の創業者達がかつて勤務していた企業で炭素会計の担当者となった際に、世界的企業であっても炭素会計にはエクセルや社内システムを使っている状況を目の当たりにしたことです。「この分野ではまだ外部ERPシステムが導入されていない」と気がついたわけですね。
そしてPersefoni AIでは、創業当初より「包括性」「透明性」「柔軟性」の3つの特長を持つ製品を提供しており、それが他社との違いであり、強みであると思います。特に「柔軟性」は、企業の炭素計測において非常に重要な要素となると捉えています。創業者が勤務していたのが大手エネルギー会社であったことから、燃料計測を行うためには再エネなど多様な種類に対応できる必要があることや、多岐にわたる関連子会社でも使えるなど、「柔軟性」が不可欠であると創業当初より意識することができたのです。
Persefoni AIのプラットフォームは創業後すぐに反響を得ることとなりました。まず初めに顧客となったのは、未公開株式投資ファンドでした。こうした会社は、例えばヘルスケア、小売り、製造など100を超える会社のポートフォリオをかかえているのですが、私達は各業種別にわけて炭素会計ができるシステムを構築していたからです。そしてTPGキャピタルやベイン&カンパニーなど、著名な投資会社やコンサルティング会社も私達のプラットフォームを採用してくれました。彼らと共にプロダクト開発を進めることができたのはとても有益な経験となり、貴重なデータを蓄積することができました。さらに、顧客である彼らがPersefoni AIへの投資を決めてくれたことで、私達は巨額の融資を受けることができたのです。
―昨年11月に1億1000万ドルの資金調達を行ったことは、CO2削減関連のクラウドサービス(SaaS)提供を行う分野で史上最大と話題となっていましたね。このようなことを実現できた理由は、何でしょうか?
デンハム:理由は3つあると思います。1つめは、炭素会計プラットフォームの分野が、金融機関を中心に高い需要があるにもかかわらず、開発がなかなか進んでいないという現状です。その中で弊社は技術者や製品が優れているという期待値が高く、投資が集中したのだと思います。2つめは、世界的投資家が環境問題やESG投資に熱心であり、「ESG投資を伸ばすためには炭素会計が重要」と投資会社を動かしたことです。3つめは、消費者です。例えば私がふだんオフィスで使っているコップには、「永久リサイクル素材使用」と書かれています。こういった製品は価格が少し高いのですが、消費者は地球に貢献するという意識で購入します。自分が使う製品を作っている会社がどのようなCO2情報開示をしているのかを求める消費者は世界的に増えていて、炭素会計プラットフォームの需要はさらに高まっているのです。
そして強調しておきたいのは、私達が集めた巨額の資金は、ほぼすべてがプロダクト開発にあてられているということです。日本向け製品の開発も当然その中のひとつであり、それにより今回の日本版プラットフォームの立ち上げが実現しました。
■2022年度の一番大切なマーケットは、日本
―御社にとって、日本市場とはどういう位置づけになるのでしょうか?
デンハム:Persefoni AIの、2022年度における最重要マーケットが日本です。その理由としては、まず、日本が脱炭素に対して非常に積極的な姿勢を示していることです。ご存知の通り、今年4月からは金融庁からの指示によりプライム市場を中心にCO2排出量に関する情報開示が必須となります。世界的にも稀なスピードで、情報開示の需要が生まれています。そして日本国内の大企業がCO2排出量データを整理する際、私達のようなプラットフォームなしでは実現が難しいと思われます。
製品を日本市場に合う形に作りこむためには、多くの投資が必要となります。日本語の問題だけでなく、日本独自の排出係数をプラットフォームに実装することは、多くの手間やお金がかかります。しかしながら、日本市場へ参入している企業が少ない今、その価値は十分にあると考えています。
―日本企業ではこれからCO2の見える化に取り組むところも多いのですが、一歩先行している欧米では多くの企業が御社のようなシステムを導入されているのでしょうか?
デンハム:欧米は確かに先行していますが、日本と比較してほんの少しだけ進んでいる状況で、さほど差はないと思います。CO2情報開示を積極的に進めている会社であっても、いまだにエクセルや社内システムでやっているところもまだまだ残っていて、そういう意味では日本市場と変わらないです。
―日本でも炭素会計関連のベンチャーが立ち上がったり、大手エネルギー会社が新たなサービスを始めたりしています。それらと比較して、御社の強みとは何だと思われますか?
デンハム:冒頭でお話しした「包括性」「透明性」「柔軟性」という3つの特長に加えて、「巨額の投資」「経験豊かな経営陣」「成長への勢い」をもって市場参入しているところでしょうか。ZoomやSlackなど激しい競争を勝ち抜いたSaaS分野の企業と同じように、私達は極めて戦略的に市場へ参入していきます。そのためには、日本市場を理解したチームの形成が、まず何よりも重要だと考えています。私達は日本国内でのチームスタッフの結束を大切にして、事業を進めていきたいと思っています。
■無償版提供で、日本の脱炭素化に貢献
―日本初出展となる3月の脱炭素経営EXPO出展に続き、これから無償版プラットフォームの提供が始まるそうですね。
デンハム:はい。この無償版は、私達のメイン顧客である大企業ではなく、中小企業向けの内容となっています。無償版の提供を決定した理由は2つあります。まずは企業としての社会的責任を考えたからです。中小企業の中には、コスト面から私達の製品を購入するのが難しいケースもあると思います。そういった方々に、会社の脱炭素化への一歩としてぜひ私達の製品を使っていただきたいと考えました。もうひとつの理由としては、私達の製品を採用している大企業が自社のサプライチェーンに位置する各企業に対してCO2排出量計測を求める際に、使ってもらえるようにいたしました。大企業と同様に、信頼性の高いデータ計測ができる製品として、推奨していきたいと考えております。
―脱炭素経営EXPOでは、無償版の体験はできますか?
デンハム:無償版はまだリリースに至っていないため、展示会での体験はできないのですが、無償版とスタンダード版の違いについてご案内することはできると思います。会社の規模に関わらず、多くの皆様にぜひ弊社ブースにお立ち寄りいただきたいです。私どもの製品は金融系からエネルギー系まで多岐にわたる業種でご利用いただいていることからも分かる通り、非常に「柔軟性」があるものです。日本の脱炭素化に貢献できることを光栄に思うとともに、この分野でのリーダーシップをとれるように励みたいと思っております。
■Persefoni AI様、取材にご協力いただき、ありがとうございました。
<お知らせ>脱炭素経営EXPO[春] 2022年3月16日(水)~18日(金)
場所:東京ビッグサイト 2022年初の脱炭素経営EXPOとなります。ご注目を!
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