【カーボンニュートラルへの架け橋 2】「洋上風力発電への挑戦」 三菱商事エナジーソリューションズ(株) 代表取締役 岩﨑芳博氏
今回は、3月開催の風力発電ビジネスの専門展「WIND EXPO 春 2022」セミナーで、特別講演が予定されている三菱商事エナジーソリューションズ(株)代表取締役の岩﨑芳博氏が登場。業界を驚愕させた洋上風力発電事業権入札の3海域落札についての話題から今後の展望まで、率直な思いを岩﨑氏に語っていただきました。三菱商事グループが考える、洋上風力発電プロジェクトへの取り組みとは?
●プロフィール 1995年三菱商事入社。2012年12月三菱商事の独海底送電事業会社のCEOとして独TenneT社との合弁事業の責任者を務める。
2016年4月三菱商事の国内電力事業統括会社である三菱商事パワー(現三菱商事エナジーソリューションズ)火力発電事業部長を経て、2018年4月より現職の代表取締役社長執行役員。
■三菱商事と連携し、国内再エネ事業に取り組む
―「WIND EXPO 春 2022」セミナー講演をご承諾いただき、ありがとうございました。昨年末より洋上風力発電関連で大変に注目を集めていらっしゃる状況ですが、御社の業務内容についてまずはご紹介いただけますか。
岩﨑:三菱商事にはサービス・商品別に10の営業グループがありますが、その1つである電力ソリューショングループは、世界4極、即ち欧阿中東・アジア太平洋州・米州・日本で電力事業を展開しています。私たち、三菱商事エナジーソリューションズは日本の電力事業統括会社で、再生可能エネルギーによる発電事業や電力の小売り、エネルギー関連サービス事業など、電力を起点としたさまざまな取り組みを展開しています。
三菱商事グループはまず1980年代に米国で電力事業に参入しました。日本では2000年初頭から国内産業需要家向けオンサイト発電事業を皮切りに、IPP事業、そして現在では洋上風力発電事業を含む再生可能エネルギーの開発に積極的に取り組んでいます。これらを3つの柱としつつ、最近では高効率ヒートポンプや蓄電池などを活用したエネルギーサービス事業にも注力しているところです。さまざまな機能・工夫を盛り込んで電力関連プロジェクトを開発していくにあたっては、弊社1社だけでできることには限界がありますので、三菱商事グループをはじめ社内外の方々と連携し、開発をすすめています。
―昨年12月、秋田県沖と千葉県沖の3海域における洋上風力発電事業権入札では、三菱商事エナジーソリューションズを中心とするコンソーシアムが3海域すべてを落札し話題となりましたね。今後は洋上風力が1番の柱となるのでしょうか。
岩﨑:電力の安定供給を図り、カーボンニュートラル実現の一翼を担うことを目指す三菱商事エナジーソリューションズは、新たな柱の1つとして洋上風力発電に力を入れて取り組んできました。国内の洋上風力発電は黎明期にあります。今回、私たちの提案を評価頂いたことを大変光栄に感じています。日本初の一般海域での着床式洋上風力発電事業をしっかり創り上げていくことが日本の洋上風力の主力電源化につながると考えています。この歴史的な大きなミッションを前に、一同、武者震いをし、しっかりやっていくぞと気持ちを新たにしているところです。
私たちの目指す洋上風力発電は、広範で強靭な国内・地域サプライチェーンの構築を通じて雇用機会の創出と国内・地域経済の活性化を実現し、また総合商社ならではの産業界・社会との幅広い接地面を生かした地域共生・共創策を併せて実行し、立地地域と共に歩み、自らの住み家となる立地地域の活性化を企業市民として目指すものです。さらには日本のみならず、世界のカーボンニュートラルの実現を支えていくというビジョンを各地域の皆様と共有しつつ、競争力ある再生可能エネルギーの供給を通じて、国内産業基盤全体の成長・競争力強化にも貢献して参りたいと考えています。
洋上風力発電は関連企業や地域経済に与える波及効果が大きいという声を聞きますが、これは意識的に国内・地域サプライチェーンを構築するのだという強い意思を持って進めないと実現しません。アジアを含めたマーケット規模も大きいですから、国のグリーン成長戦略に寄与し、将来的には日本の新しい輸出産業とするという視点をもって取り組みます。そのため私たち自身も競争力を備え、国内サプライヤーと共に海外の洋上風力発電プロジェクトにも参画し、日本の産業の土台を広げるディベロッパーとなることを目指します。
■知見の内製化で、設備仕様・工法を最適化
―今回の3海域の入札では売電価格の1キロワット時あたりの提示が11.99円(秋田県由利本荘市沖)、13.26円(秋田県能代市沖)、16.40円(千葉県銚子市沖)と、国が設定した上限価格29円を大きく下回る金額でした。この価格は大きなニュースとなりました。
岩﨑:今回の入札価格に関してさまざまな報道がなされていますが、誤解があるなと思ったのは、「赤字覚悟でやっている」とか「根拠なく入札価格設定をした」といった内容のものです。それは全く異なっておりまして、私たちはサプライヤーから頂戴した見積をベースに、コストを積み上げる形で入札価格を設定しました。
その上で競合他社との違いを想像致しますと、三菱商事グループが10年にわたる欧州での洋上風力発電事業の経験を通じて育成し、内製化した社内の「洋上人材」が、リスク分析とその極小化を自ら主体的に行うことができた点でしょうか。私たちの社内の「洋上人材」は、開発から建設、運用に至る各段階でのリスクを数百項目にわたって洗い出して対応策を立て、それを日本の海洋・海象条件に適合させ、さらにはサプライヤーやアドバイザーの提案を鵜呑みにせず、一つ一つ吟味して設備仕様や工法を最適化しました。
三菱商事グループは2010年代初頭から洋上風力の先進地域である欧州で洋上風力の開発、建設、運用を実際に手掛けており、7つのプロジェクト、350万キロワット分を開発してきました。その過程では、現地のプロジェクト会社に社員を派遣し、意思決定責任を伴う開発ラインに入れてサプライヤーや当局との協議を行わせる等、非常に胃の痛い思いをするような実地経験を積ませることで「洋上人材」を育ててきました。欧州では洋上風力からの再エネ電力を大陸に送る海底送電事業も盛んです。この海底送電事業にも2010年代初頭から取り組んでおり、三菱商事グループにはケーブル長約1,200kmの海底送電事業の開発実績があります。私自身もドイツでの海底送電事業の立ち上げを行って参りました。
―2010年代から既に経験を積んでいると。
岩﨑:はい。こういった現場経験を積ませることで、知見を内製化し、三菱商事グループ内に「洋上人材」を育ててきました。「将来、必ず日本や米国、アジアで洋上風力の時代がくる」と見据えて手を打ってきました。そして今回、日本で洋上風力の導入が始まることとなり、欧州で経験を積んだ「洋上人材」を三菱商事エナジーソリューションズに還流させ、三菱商事グループとしてのこれまでの経験を活かして今回の入札に挑みました。
■グループ会社が一体となって議論
―その他にも、御社の強みであったと思われる理由はありますか?
岩﨑:そうですね。今回の入札では三菱商事グループ内の人材を集結させ、真のワンチームとなってプロジェクト開発に取り組めたことでしょうか。2020年3月にオランダの再エネ電力会社Enecoを買収し、グループ会社に迎えたのですが、実はEnecoは先にお話しした2010年代初頭からの欧州での7つの洋上風力発電プロジェクトのパートナーで、互いに勝手知ったる間柄なのです。新型コロナで実際の行き来が難しいなかでも、三菱商事エナジーソリューションズの「洋上人材」とEnecoの「洋上人材」は、毎日オンラインで「欧州では技術革新がおこっていて、こういうものがあるぞ」「いやそのまま日本に持ってきてもだめだから、こうすればよいのでは」など喧々諤々と議論し、設備仕様・工法を最適化しました。お互い三菱商事グループ内の身内の「洋上人材」だからこそ、いろんなノウハウや悪いことも含めて、あけっぴろげに全部共有することができました。これは、明日にはライバルになるかもしれないという関係であれば、到底できないことではないかと思います。このようにEnecoの「洋上人材」とも胸襟を開いてワンチームとして一体となることができたことも結果につながった要因の一つだと思います。
―今回のセミナー講演では、特に期待されている来場者層はありますか?
岩﨑:せっかくの機会をいただきましたので、三菱商事エナジーソリューションズや三菱商事グループの電力事業と洋上風力発電事業の取り組みをご紹介したいと思っております。加えて今回の日本での洋上風力発電事業に取り組んでいくにあたっての基本的な考え方についてもお話しさせていただきます。私たちが洋上風力発電事業を通じて実現したいと考えている日本全体の産業基盤の強化に共感していただき、日本における広範な洋上風力サプライチェーンの構築・競争力強化、カーボンニュートラル社会の実現に共にチャレンジしていこうとされる皆様に聴講いただければ、うれしいです。
■三菱商事エナジーソリューションズ様、取材にご協力いただきありがとうございました。
<お知らせ>
WIND EXPO 春 2022 2022年3月16日(水)~18日(金)
場所:東京ビッグサイト
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