4年間のデザイン受託事業で「作っておいてよかった3つのもの」
スマートキャンプデザインブログです。
2018年12月にクラウド資料作成代行サービス「SKET(スケット)」のサイトをクローズしました。本サービスはスマートキャンプ(以下弊社)の最初の事業で、創業の2014年から続けていました。
サイトクローズしたため、このSKETを運営していて、作っておいてよかったもの、これまでで得たこと、苦労したことを備忘録的にまとめています。
SKETはどんなサービスだったのか
SKETは簡単にいえばスライド資料デザインのクラウドソーシングサービスです。インターネット上で不特定多数のデザイナーに案件の募集をかけ、クライアントとのマッチングを行います。その間を仲介したり、デザインの調整をするのが弊社の役割です。
クライアントは個人よりも企業が圧倒的多数でした。その理由としては個人に依頼するより企業(弊社)が間に入る方が、依頼時のさまざまなハードルが低いというところでした。
SKETの売りとなるポイントはなんだったのか
クラウドソーシングで制作コストを大幅に(当時の相場の半額ほどに)削減しつつ、プロのデザイナーがディレクションを行うため、納品物の質も担保できます。
そのため、他社よりも安く質の高いデザインが実現できていました。これはSKETがスライド資料デザインというセグメントにおいて、トップクラスであった理由のひとつでもあります。
受注数や売上はどうなっていたのか
集客については、検索流入のみで営業は一切していませんでした。オウンドメディアでしっかりSEO対策し、資料作成関係のキーワードをほぼ検索1位にし続けていたため、月10件ほどは安定して受注していました。
平均顧客単価は15万円ほどで、毎月150万円ほどの売上でした。リピート案件を含め、年間2,000万円の事業でした。(そのうちの50%未満を制作コストに設定していました。)
赤字ではないのになぜクローズになったか
利益は出ていたものの、デザイナーや質の高いディレクターなどの人材確保をしなければ成長できない労働集約型のビジネスです。
事業拡大という経営視点で見たとき、ボトルネックになっていました。サービス自体は非常に良いものではありましたが、弊社のビジョン(Small Company, Big Business.)に反するところもあったと思います。
Small Company, Big Business.
「小規模な組織でも大きなビジネスができること」、「レバレッジをきかせた成長」などを意味するスマートキャンプのビジョンです。
さまざまな思いがあり、(狭い業界ではありますが)トップでありながらもクローズするという経営判断に至りました。
事業を通じて得たこと、よかったこと
受託制作型のサービスというところで、顧客のヒアリング部分に関してはどの会社も苦労する部分はあると思います。
まず要望のばらつきです。
どんなものかというと、「あれもこれもやってほしい」というような盛り盛りの要望や、「なんとなくこんな感じ」というような情報不足な要望がきます。(「それをうまく聞き出すのがプロだろうが!」と言われたらお手上げですが……。)
これらの要望を常日ごろから取りまとめて運営していて、「これは作ったほうがいいんじゃないか?」ということで、作ってよかったものがこちらです。
受託制作で作っておいてよかった3つのもの
・正確にヒアリングするための「ヒアリングシート」作り
・「ここまではできて、ここからはできない」という利用規約作り
・これらを伝えるための「わかりやすいサービスガイド」作り
この3つをしっかり作り込み、トラブルがあったらすぐに改善するといったことを繰り返すことで、顧客対応が大幅に楽になりました。
つぎに、デザインのヒアリングでかかせないのが「打ち合わせ」です。
訪問してすり合わせするのは慣例ですが、これらを一切やらないことに途中から切り替えてみました。(もちろん電話もしません。)
最初は受注数が減る懸念がありましたが、意外に売上に影響がありませんでしたし、顧客満足度も下がった感じはしませんでした。
移動や打ち合わせの時間や労力がなくなったので、その分を制作時間に充てられたり、時間あたりの人件費が下がったりしたのでプラスのことばかりでした。
これが実現できたのも、ヒアリングシート、利用規約、サービスガイドの3つを作り込んでいたおかげでした。
「ヒアリングシートで確実な情報を取得し、利用規約でどこまでが責任範囲か明確にし、サービスガイドでわかりやすく解説する」という流れが、うまくいっていた秘訣だったんではないかと、クローズしてみて思いました。
上図はサービスガイドの制作例
こうしてWeb完結が徹底された受託制作サービスとなりました。やりとりもすべてWeb(メールやチャット)なので証跡も残せるので、もしものときも安心でした。
事業を通じて苦労したこと、困ったこと
ヒアリングシート、利用規約、サービスガイドができる前は比較的トラブルが多く、顧客とのコミュニケーションもうまくできていませんでした。
対面や電話で打ち合わせをしていた時期では、制作を中断したり、急ぎの案件では「まだかまだか」と何度も連絡がきたり、追加要望や中断などの突然の変更が相次いだりしていました。
連絡手段として心理的にはメールのほうが気楽だと思っていましたが、「メールを打つのが面倒くさい」と思う人が多いのが実態でした。
実際、言いたいことをガンガン言えてしまうのか、電話の方がまとまってない内容や無茶な要望がきやすい傾向がありました。
これにはいつも困っていて、メモをとるのも大変だし、電話が1時間以上に及んでしまうこともありました。
そういうこともあり、電話や打ち合わせをしない方針に変えました。
メールでは文章に起こさなければなりませんので、面倒臭さはありますが「制作物のイメージを考えたりまとめたりする機会」にもなります。
これは顧客に面倒を与えるようですが、顧客のイメージを最大限引き出すには顧客自身がしっかりイメージを持つこと、文書化することが最短かつ最善だとSKETの運営を通して思いました。
他に困ったこととしては値段交渉です。
SKETは資料1枚あたりいくらと決めていましたが、「ボリュームディスカウントしてくれ」と言われることが多かったです。
量が増えたら単純に作業量が増えるのに、なぜ安くしなければならないのかが当事者としてはわかりません。機械がやるわけではないので大量生産したら安くなるものではないのですが、そこを勘違いされている方が多い印象があります。
(他のブログでも同じようなことをおっしゃっている方も大勢いますが、あまり声は届いてないのかもしれません。)
「1枚あたりいくらです」とは書いてあるものの、全ページ通してのまとまりやバランスを考えるなど、いろいろな作業要素も含めての価格設定です。むしろ、量が増えれば考えることや調整が増えるので追加料金がほしいぐらいでした。
なるべく顧客の要望に応えるために折衷案を出したり、既成のデザインで対応したりして価格を下げるなどを行っていましたが、それもまた時間や労力がかかります。
最終的には素直に「無理です」と断るようになり、そちらのほうが良いものを作る時間と高いモチベーションを得られるので良かったのだろうと思っています。
デザインの受託を始める、やっている方々へ
私は今まで「会社という看板があれば、ある程度まともにとりあってくれる」という思いがどこかにありました。
しかし実際には、わがままを突き通されたり、しつこく催促してきたり、ストレスを過度に与えてきたりする人も多く、コミュニケーション力や段取り力といった身につけるのが難しいスキルばかりが必要になってきます。
それを成長させるのも重要ですが、ヒアリングシート、利用規約、サービスガイドといったものをしっかり作りこんで、間違いや誤解といった火種を最小限にする仕組みを整えることが大事だと思うようになりました。
そして、価格は基本的に下げない心構えが必要です。
もちろんぼったくるのはダメで、しっかりと必要なコストと自分が得る利益がバランスよくとれた価格を設定した上です。
SKETを通して得た経験の中で、同じような受託制作をされている方にもしアドバイスするとしたら、特にこれらのことを伝えたいです。
この記事が読まれて、どこかの受託制作の現場が少しでも明るくなれば幸いです。
スマートキャンプのデザインブログとは
WRITER & EDITOR :
Yuta Morishige ( SMARTCAMP / Designer / @MorishigeYuta )