鷹におにぎり食べられた。
少し荷物の整理をしていたら昔、書いた文章が出てきました。
「へぇ」こういう事を書いていたのねと思っておいてください。
第二弾です。
(※少しだけ手直しあり。そして現在のわたくしからの茶々もあり。)
それではどうぞ。
【鷹におにぎり食べられた。】
2014.9.15(月)
忘れもしない。雪ノ下三丁目四番地。
ファミリーマートの前の道から理髪店コバヤシまでの間。
住所まで覚えている。
今年(二〇一四年)の五月の末、東へ行った。
そしてそれは旅の二日目、鎌倉に行った時に起きた。
円応寺に行き、建長寺に行き。残りは瑞泉寺(ずいせんじ)というお寺に行くだけだった。ところがこの瑞泉寺というお寺は、鶴岡八幡宮から結構、遠い。徒歩で行こうとしているのだから尚更、遠い。
とにもかくにも。私が建長寺から鶴岡八幡宮まで戻って来た時には、既に一五時を過ぎていた。
夢中になる余りお昼を食べるのを忘れていた私は、どこかお店屋さんに入ろうと思った。ところが瑞泉寺は一六時半迄で閉まってしまう。ゆっくりしていたら間に合わない。バスに乗ろうと思ったが待ち時間を考えると微妙だった。
私は一か八か徒歩で向かう事にした。しかしその前に何か胃に入れなければ倒れてしまうと思って、コンビニでシーチキンマヨネーズ(のおにぎり)とコロッケパンと。お水を買った。食べながら瑞泉寺を目指そうとしたのだ。
旅費をけちった訳ではないが、時間をけちろうとした私はこの後とんでもない目にあう。
そしてこの経験で教訓めいたものを得る。旅先で食事をするときは、落ち着いて座って。屋根のあるところで食べようと。
コンビニを出た私はすぐにシーチキンマヨネーズのフィルムをはがした。
一口食べた。パリッと音がして、お米が全身にしみ渡るのを感じた。(日本人はお米だな)と思った。歩き出して、歩調を早めながらまた食べた。
次の瞬間、背後でとてつもない音が聞こえた。
「バサッ!!」
「キャッ!!」
驚いた私は自分でも思ってもみないような声をあげた。まぁ一応生まれながらに 子宮のあるくるしみを知るタイプなんだけど。それでもまさか反射的に自分がそんな声を出すなんて思ってもみなかった。
「…って、えぇ"っ!?」
そんな乙女の悲鳴をチャラにしてしまうような何とも言えないお間抜けな声を出してしまった。気付いたらおにぎりは手元にはなく、鷹が悠々と奪って行った。
「え"ぇぇっ!? なんでやねん!!」
私の声は国道に響いた。
何が起きたのか分からなかった。そしてあまりにも盗み方が鮮やかすぎて少し感心をしてしまった。何も言えないでトボトボ。ボーっとしていると近所にいたおっちゃんとおばちゃんは笑っていた。鷹におにぎりを取られた事に笑っていたのか、聞き慣れない西の訛の『なんでやねん』に笑っていたのかは分からない。そしておっちゃんは、
「前から襲ってこうへんねん。後ろから襲ってくるねん。
(訳「前からは襲ってこないんだよ。後ろから襲ってくるんだよ。」)」
と(東の訛で)説明してくれたが、
(そんな説明いらんねん)と思った。ケガしなくてよかったなと思ったが、落ち着いて来ると次はだんだん悔しくなってきた。
「クソッ!クソッ…!」
おなかはすいているし。悔しいし。時間は迫ってくるし。でも悔しいし、でもちょっとおもしろいから余計に悔しいし。
「クソッ、クソッ…!」
この気持ちを誰かに伝えなければ収まらない。近所のおっちゃんとおばちゃんに思いの丈を伝えようにももういない。私はすぐに親族と友だちにメールをした。
「鷹におにぎり取られた〜悔しい…」
「状況がまったく分からんねんけど」
そりゃあそうであろう。親族は電話口で笑いを押殺し、また別の身内には、
「マンガか!!」
と言われた。後で、東に住処を置く我が親族から聞いた話によると。江ノ島ではよくあることらしい。近所の小学生などが遠足に来て、お弁当を広げようにも鷹が狙っているらしく広げられないと、結構問題になっているらしい。しかし鎌倉では稀らしく、
「まさか(自分の)親族に、(おにぎりを)取られる者が出て来るなんて」
とわらわれた。
結局その日、瑞泉寺には行かなかった。あともうちょっと という所まで歩いたが、悔しくて笑えて、この状況を客観的に見れば見るほど笑えてきて、道端で
「クソッ!! クソッ!!」
と もだえて笑って帰って行った。一人旅の弱点は証人がいないという事かもしれない。
翌日。私は仕切り直してもう一度瑞泉寺を目指した。時間に追われないように朝一で行った。その道中、鎌倉の仲見世通りを通り抜けた。朝ということもあって、まだどこもシャッターが閉まっている。その中の一つにコクリコクレープというクレープ屋さんがあった。前日にこの道を通った時は修学旅行生でいっぱいだったが、その店先に貼紙がしてあった。
「トンビに注意」
トンビ…。私は親族にメールした。
「鷹じゃなくてトンビやったかもしれへん」
「どっちでもええ!!」
瞬殺だった。
おわり
昔の文章、第一弾はこちら。