
なんか見たことあるって言われません?
「吉永さんって、なんか見たことあるって言われません?」
「うーん…なに、」
「それが分からないから聞いているんですよぉ。なんだろな…」
「…?芸能人?」
「いや…なんだろな…」
「(自分から芸能人かと) 言ったこっちが恥ずかしいわ。なに?」
「う"-ん…犬?ちがうなぁ、」
「それは犬に失礼だよ」
「吉永さんどの目線でいるんですか
なむか、すみません。馴れ馴れしくて。」
「いや、ラッシーは、我が家のアイドルだよ。」
「ラッシー?」
「うちのアイドル。」
○多分、写真とか見せていると思われる
「わんちゃん!」
「いっにゅ。」
「え、」
「いっにゅ。」
「…?」
「?」
「イッヌではなくて?」
「我が家では、いっにゅだよ。」
「それ絶対外で言わない方がいいですよ。」
「もう(君に)言っちゃった。」
「浸透しませんよ」
「我が家だけか~」
「あ、思い出したんですけど。昨日の会議の資料、部長が社長まで通して 通るそうですよ。」
「本当に!?」
「そうしたら、吉永さんと長谷部さんで動き出すんじゃないですか。」
「長谷部?だれ?」
「いたじゃないですか。(会議室の)右から二番目。」
「あ"~なんかどこかで見たことある様な顔の人…?」
「それ今、吉永さんが言います?わざとですか?」
「でもだいたいさ、」
「なんです。」
「なんか見たことあるとか、この人誰々に似ているなって 自分にしか分からない人だったりしない?」
「…?どういう意味です。」
「いやだから。例えばだよ。昨日お会いした先方の…」
「長谷部さん。」
「そう。長谷部さん。今はまだ誰に似ているのか思い出せないけども、例えば。小学校の先生に似ているとか。学生時代の先輩後輩に似てるとか。」
「確かに吉永さんにしか分かりませんね。」
「でしょ?そうやって皆、多かれ少なかれ色んなキャラクターに出会っているんだよ。」
「なるほど。じゃあ吉永さんに出会う前から、(吉永さんに似た誰かに) 既に出会っているということですね。」
「うん、そこだけ切り取ったら、口説かれているのかなって勘違いしてしまう若手社員は多そうだね。」
「吉永さん、」
○まぁまぁの笑顔を見せて。
「若手じゃないんだから。」
「うん。分かってるよ。分かってる。」
「だれだろうな~。なんか見たことあるんですよね。 目がふたつ。鼻が一つ。耳はふたつで、口が一つ…」
「??…!?」
○その時電話が鳴り、そのまま一言すみませんと言って、去っていく。
○一人になる吉永さん。ぽつりと…
「哺乳類…?二足歩行…?ホモサピエンス?」
小林栄 戯曲集~
【だいたいの人は某かに似ている。】
脚色:シノダおれんじ【掴み所がないのではなくて、つかむ程でもない会話。】