押井守の深い深い境界をさまよう世界
Deep world of "Oshii Mamoru"
今回は、大好きな映像作家、押井守さんについて
押井守さんは日本のアニメーション映画監督として有名なんですが、他にも実写映画も撮っていたり、小説家、脚本家、ゲームクリエイターなどの顔も持ってる多彩な方です。
そんな押井守さんについて "note" したいと思います。
押井守さんの作品を観ていくなら、テーマはズバリ
境界...
これに尽きますね...
押井作品には、様々な境界が描かれています。
ただ、明確な境界線を引いているわけではなくて、境界あたりをユラユラとさまよいながら描いているので、独特の揺れがあるのです。
自分は、そんなところに魅かれてるんですよね。
ここから多少のネタバレを含みます。
◇◆◇ うる星やつら期 ◇◆◇
自分が押井守という演出家の名前を認識したのが、劇場版『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』なのです。
高橋留美子さんの人気漫画をTVアニメ化した「うる星やつら」は4年ぐらい続いたけっこう長寿なシリーズだったのですが、その前半期、チーフディレクターを務めていたのが押井守監督なのです。
長寿なTVシリーズの常ですが、途中回には原作にはない話も多くて、時々、なんともいえないシュールで変な世界が描かれる回もあったんですよね。今、思えば、きっと押井守監督の演出だったのかなと思います。
そして、その押井守監督がシリーズを離れる際に監督したのが劇場版第2作目の『ビューティフル・ドリーマー』で、原作にはない押井さんのオリジナル脚本の作品なんで、監督の作家性が前面に出たのは間違いないと思うのです。
『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』
監督・脚本:押井守
物語は、何故か学園祭の前夜が何度も繰り返されている世界を舞台にしていて、その事実に気づいた人間が、一人、また一人消えていく.... といった展開なのです。
不条理に繰り返される世界の謎を追いかける序盤、観てる側も、おや?っと思わせながら、少しずつ世界が変容していく様子はさすがなのです。
ここで描かれているのは
夢と現実の境界
私たちの過ごしてる今の世界は、ほんとうに夢でないことが証明できる世界なのでしょうか?
今の世代の方々には「うる星やつら」自体の世界が伝わりにくいかもしれないのですが、機会があれば観る価値のある一作なのです。
◇◆◇ 機動警察パトレイバー期 ◇◆◇
「機動警察パトレイバー」は、1998年の東京を舞台として、ロボット技術を応用した歩行式の作業機械「レイバー」が実現した世界を描いた近未来SFです。
「レイバー」を使った犯罪を取り締まるため、警察側が配備している「レイバー」がパトレイバーというわけなのです。
いわゆるロボット物なんですが、近未来設定なんで生活習慣とかはほとんど変わらないとこが楽しいシリーズで、当初はオリジナルビデオアニメとゆうきまさみさんによる漫画連載が並行して展開されていたり、後にTVシリーズ化されたりと、メディアミックスという言葉が聞かれるようになった時期でした。
押井守監督は企画段階の途中から参加していて、初期OVAや劇場版の1、2作目を演出しています。
『機動警察パトレイバー the Movie』
監督:押井守 脚本: 伊藤和典
自殺した天才プログラマーの仕掛けたコンピューターウィルスにより、多発するレイバー暴走事故。
何が目的なのか、その謎を追いかけ、被害を止めるために奔走するパトレイバー部隊というのが、物語の概要です。
この作品が面白いのは、天才プログラマーの自殺後、仕掛けられた罠を解明しようとする死後の捜査と、プログラマーが生前、何を考えていたのかを探る過去の捜査が並行して行われていることなのです。
犯人の自殺を境界としながら、二つの捜査が結実して仕掛けられた罠の全貌が浮かび上がってくるとこは、ホントに見事だと思うんですよね。
正直、主人公メカの活躍の場面は少ないんです...
むしろ過去を捜査していく時の東京の風景や、捜査を担当したオジサン刑事の方が目立ってた感じでした。
『機動警察パトレイバー2 the Movie』
監督:押井守 脚本: 伊藤和典
実は、劇場版では影の薄かった主人公メカ・パトレイバーなんですが、この2作目になるとますます出番が無くなってしまいます。
それだけストーリーは重厚さを増してるんですけど、タイトルは「パトレイバー」なのにと思ってしまう第2弾なのです。
普通、主人公メカのパイロットが主役のはずなのに、この劇場版では、ほとんど上司の課長さんが主役なのです。
物語は、自衛隊のクーデターに対抗するパトレイバー部隊って構図なのですが、クーデターを企てた中心人物と、上の課長さんとの頭脳戦が見どころの映画なのです。
現実と仮想の境界にある戦争
クーデター自体、単なる武力制圧ってわけではなく、ハッキングによる幻の東京爆撃や、毒ガスパニックの演出など、仮想的な心理戦だったりするのですが、それでも国が機能停止していくんですよね。
このあたりの展開は、押井監督はもちろんですが、脚本家の伊藤和典さんも相当すごいと思うんですよね。
まさに大人のための娯楽作品を生み出したコンビだと思うんです。
◇◆◇ 攻殻機動隊期 ◇◆◇
『攻殻機動隊』は、漫画家、士郎正宗さん原作のアニメーション化です。
実は原作漫画自体も、かなりの傑作で、綿密にシミュレートされた国際情勢を加味した世界観、現代と地続き感のある近未来ギミックの数々、そしてアクション、深いテーマと、まさに一級品なんです。
そんな原作と、押井守監督の相性はピッタリだったようで、映画第1弾となった『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』は、ジェームズ・キャメロンの『アバター』や、ウォシャウスキー姉妹の『マトリックス』にも影響を与えるぐらい世界的にも熱狂的に支持された作品なのです。
電脳化(脳とネットを直接つなげる)やサイボーグの技術が飛躍的に進んだ近未来の話で、頭の中でネットを通じて会話したり、場合によっては、ネットを介して相手をハッキングして乗っ取ったりみたいなことができる世界なのです。
主人公も身体のほとんどを義体化したサイボーグみたいな感じなのです。
アイデンティティの境界線
限りなく人間に近いAIやアンドロイドが登場する中、人間の方も限りなく機械化されていく... その中で人が人であるということはどんなことなのか... 作中、その根拠となるのがオリジナルの ”GHOST”(魂みたいな考え方ですかね。) とされているのですが、それすらも曖昧になった時、何が自己の根拠となるのか?
そんな哲学的な問いが全編を通じて語られるのです。
『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』
監督:押井守、脚本:伊藤和典
『イノセンス』
監督・脚本:押井守
『イノセンス』の方は、第57回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門にて選出された初めての日本のアニメーション作品です。
正直、どちらの作品も哲学的で小難しい部分があるのは事実なのですが、だからこそ、傑作とされているのだと思います。
まあ、娯楽作品とは言えませんが、ハリウッド版の実写映画を観るならば、こちらの2作を観た方が何倍も有意義なのは間違いないのです。
◇◆◇ スカイ・クロラ以降 ◇◆◇
2008年の『スカイ・クロラ』は、森博嗣さんの小説が原作となっているのですが、小説以上に内省的な印象でした。
物語は、国家同士ではなく、民間軍事会社が戦争を代行している世界で、戦闘機パイロットが主人公の作品です。
このパイロットたちが「キルドレ」と呼ばれる、病気や怪我がなければ寿命のない特殊な人間なのですが、ここら辺の設定が面白いんです。
この「キルドレ」の目線で戦争が語られていくんですが、戦闘機による空中戦は凄いのですが、物語自体は、淡々と、ただ、淡々と進むのです。
多分、それが戦争代行世界の日常なんでしょうが、このあたりは淡々としすぎてる感じなんですよね。
『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』
監督:押井守、脚本:伊藤ちひろ
あまりにも淡々としていたせいか、原作では、まだまだ続巻があるのですが、その後は映画化されないままとなってしまいました。なので、回収されていないエピソードがたくさんあるのが残念なところなのです。
その後、押井守監督は実写映画の方にシフトしてるんですが、、、
『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』
『ガルム・ウォーズ』
正直、監督:押井守を語るなら、やっぱり長編アニメーションの方がいいなって感じです。
なんか実写映画だと、境界をさまよう感じにはならないんですよね。
小さくまとまってるっていうか、例えば、同じパトレイバーでも、アニメの方が断然面白かったりするのです。
やっぱり押井監督はアニメの方が性に合ってるんでしょうね。
一応、久しぶりの長編アニメーション映画の製作が報じられているんですが、それが、夢枕獏さん原作の『キマイラ』...
このタイミングで?
みたいな感じもするものの、自分が中学生の頃から読んでる原作で、未だに未完なんですよね。なので、それはそれで楽しみにしてるのです。
人と獣の境界線
恐らく描かれるテーマはこれなのです。
どうか制作中止になりませんように....
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