日本アニメの大航海時代:前編(80年代アニメ事情)
いろいろ80年代関連の記事を書いてる自分なんですが、今回は80年代のアニメについて "note" していきたいと思っています。
ちょっとマニアックな話になるのはご容赦ください!
最近のアニメはホントすごいですよね!
日本映画界において、次々と興行収入100億円を超えるメガヒットを飛ばしているのはアニメ映画ばかりです。
また、地上波アニメも鬼のようにクオリティが高いです。
もはや映画レベルと言っていいほどの作品が放送されているのですから、ほんと制作スタッフの方々には感謝なのです。
多分、世界水準で見ても、日本アニメってかなり質が高いと思うんですが、それって、いろんな世代が楽しめる多様なエンタメ性を持ちながら、ビジネスとしても成立してるってことなんですよね。
そこが今の隆盛を生んでるのは間違いないと思います。
そんな日本アニメなんですが、今のようにR15+みたいなレイティングも整備されていない時代…
いろんな試行錯誤を繰り返しながら、"作家性を前面に出した実験的な作品" や "制限の枠を広げようとした作品"、"新たなジャンルを開拓した作品" などなど、様々な "冒険" が行われた時代…
まさに日本アニメの大航海時代と呼ぶべきそんな時代があるんです。
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少年時代の自分は、『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』、『機動戦士ガンダム』など、宇宙を舞台にしたSFアニメに育てられたようなものでした。
幸運なことに、自分の成長に合わせて、制作されるアニメ作品の方も対象年齢が幅広くなってくれたような気がします。
もちろん、学年が上がるにつれ、子どもっぽい作品は見なくなっていくんですが、『ヤマト』や『ガンダム』の劇場版が大ヒットしたことで、単なる子ども向けではない、中高生や大学生を対象にした作品もたくさん作られるようになったのです。
ちなみに、その頃のアニメ映画やOVA作品をまとめてみるとこんな感じの年表になります。
並べてみると、なかなか楽しそうな時代でしょう。
1981年に公開された『機動戦士ガンダム』の劇場版は社会現象となるほどのブームを巻き起こし、1983年には角川映画が『幻魔大戦』でアニメに参入、1984年には後のジブリにつながる宮崎駿監督作品『風の谷のナウシカ』が公開されています。
アニメ映画がビジネスとして定着し、アニメ界全体も活況となってきたのが80年代前半なのです。
さらに家庭用ビデオの普及により、セルビデオやレンタルビデオが商業化され、テレビでも映画でもない、ビデオだけのアニメ作品、いわゆる "オリジナル・ビデオ・アニメ(OVA)" も登場することになります。
この "OVA" というスタイルが確立されたことが、現在の日本アニメの隆盛の基礎になってると思うんですよね。
当時のレイティングといえば、成人指定(18禁)だけの線引きだったので、テレビと違って "制限" の少ないOVAは、それこそ多種多様な作品を生み出すことになったんです。
レイティングの曖昧さが物議を醸すことや、作り手側の倫理が問われることも多かった一方で、若手クリエイターたちが思う存分作家性を発揮した作品も多かったんですよね。
今回の記事では、その頃に制作されたものについて、私にとって印象的だった作品を「■押井守ライン」と「■ガイナックス(GAINAX)ライン」、そして「■『迷宮物語』ライン」の3つのラインに分けて紹介していきます。
■ 押井守ライン
まず、最初に紹介するのは、一癖も二癖もある演出で人気のある押井守監督のラインです。
すでにテレビアニメ『うる星やつら』で一定の評価を得ていた監督さんなんですが、本領発揮となったのが劇場版『うる星やつら2ビューティフル・ドリーマー』です。
『うる星やつら2ビューティフル・ドリーマー』1984.2
監督:押井守
制作:スタジオディーン
夢と現実の境界線が描かれていて、とっても面白かったんですよね~
ただ、あまりにも押井守色が強すぎて、原作者の高橋留美子さんには不評だったというのは有名なエピソードなのです。
この『うる星やつら2』で、さらに評価が高まる中、押井守さんが次に挑んだのが、1985年の公開当時、問題作とされた『天使のたまご』という作品です。
『天使のたまご』1985.12
監督:押井守
制作:スタジオディーン
何が問題だったかというと、この作品、あんまエンタメしてないんですよね。前衛的な面は分かるのですが、あまりにも難解で… 初めて観た時には「よくわからない」というのが本音でした。
イラストレーターとして大人気だった絵師天野喜孝さんが原案にも関わってるんで、"押井演出による天野喜孝さんの神話世界" みたいな視点で観ると、楽しめるのですが、商業映画として公開されたこと自体が驚きの作品なのです。
… この『天使のたまご』後、押井守さんにアニメの依頼が来なくなったという話もあって、しばらく姿を消すことになるんですが、'87年になって、地味な(失礼💦)OVAで復帰します。
『トワイライトQ 迷宮物件 FILE538』1987.8
監督:押井守
制作:スタジオディーン
『トワイライトQ』という、『ウルトラQ』のような不思議な世界を描いた一話完結シリーズの第2弾です。
冴えないおじさんのモノローグで進んでいく構成なんかは、ほんと押井節全開の作品なんですが、映画ではなくOVAだと許容されるんですよね。
まあ、このシリーズはこの第2弾までで打ち切られてるので、憶えている人はほとんどいないんじゃないかと思うんですが、この企画のプロデューサーとのつながりが、次の『機動警察パトレイバー』を生むことになるんです。
『機動警察パトレイバー』1988.4~
監督:押井守
制作:スタジオディーン
原作:ヘッドギア
全6話を1話ずつリリースしていくシリーズでしたが、 "OVA" 作品の名作のひとつですね。
この作品は、本編とは別にCMが収められてたり、4.800円という低価格で販売されたり、漫画とアニメが並行するメディアミックス作品だったりと、画期的な作品だったんです。
アニメの方は、警察ロボットものというよりも、同じ部隊に所属する人びとによるドタバタコメディの感じでした。
ただ、シリーズ終盤の第5・6話になると、クーデターを起こそうとする集団とのシリアスな頭脳戦が描かれたりして、意外な展開だったけどすごく面白かったのです。
『機動警察パトレイバー』は大人気だったこともあって、その後、映画やテレビアニメ、小説、OVAの新シリーズ、実写映画化などなど、息の長いコンテンツとなっていくわけです。
原作のヘッドギアというのは、この『パトレイバー』のための企画集団で、漫画家のゆうきまさみさんとメカデザインの出渕裕さんの二人に、『うる星やつら』組の脚本家の伊藤和典さん、キャラデザインの高田明美さん、演出の押井守さんが合流してできたグループです。
まあ、ヘッドギアだったからこそ、エンタメ具合と押井守さんの作家性のバランスが絶妙な作品に仕上がったのだと思います。
余談ですが、ストーリーに大きく寄与している脚本の伊藤和典さんは、後に「平成ガメラ三部作」を生み出すことになります。
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さて、この押井守ラインからは外れるんですが、もう1本紹介しておきたいOVAがあります。
『ブラックマジック M-66』1987.6
監督:士郎正宗、北久保弘之
制作:アニメイトフィルム、AIC
当時、「アップルシード」で熱狂的な支持を得ていた漫画家の士郎正宗さんが原作・監督・脚本として制作された作品で、自分の友人間ではかなり盛り上がった作品なんです。
まだCGなんかがない時代だったんですが、暴走したアンドロイドの動きや、カメラワークなど、けっこうなこだわりを持って作られた作品だったのです。
士郎正宗さんは、この後、『攻殻機動隊』の連載を始め、押井守さんがその原作を映画化した『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』は世界的に評価されていくことになるのですが、その兆しが見られたのが、この80年代だったわけなのです。
<『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』1995.11>
監督:押井守
制作:Production I.G
原作:士郎正宗
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自分にとって印象的だった作品を3つのラインに分けて“ と言いながら、押井守さんは大好きなんで、調子に乗って書きすぎてしまい、このラインだけでもかなりの分量になってしまいました…
実はこの記事、かなり前から、ちょこっとずつ書いてきたものなんで、残りの2つのラインもそれなりの分量があるんです。
ということで、分割して残りの2ラインについては後編に回したいと思います。
(アニメ関係note)
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