ワンカットの臨場感!(華麗なる一発撮り野郎たち)
THE LONG TAKE
映画の中では、”長回し”という、極力カットせずにカメラを回し続ける手法があります。
カットされないということは、同じ場面が続いていくわけですから、観る側としては、眼が離せなくなるんですよね。
そのうち、自分がその場にいるような気がしてきたりして、”長回し”というのは、そんな効果があると思うのです。
”長回し”の映画編
2013年に公開されたアルフォンソ・キュアロン監督の『ゼロ・グラビティ』では、冒頭のデブリ事故から、たくさんの破片を浴びて被災するスペースシャトルの様子を”長回し”で描いています。
もちろん、特撮を生かした撮影なのですが、一度もカットされることなく続くシーンは、まるでドキュメンタリーのように感じてしまいます。
まさにノンストップ!
物語はこの後もンストップで進んでいくのですが、宇宙空間という、極限世界でのサバイバルがエンディングまで続くんですよね。ただ、この冒頭の”長回し”シーンで、一気に観る者の心をつかんだのは間違いないと思うんですよね。
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この”長回し”という手法は、映画監督ならやってみたくなる手法なんでしょうね。
サスペンス映画の名匠アルフレッド・ヒッチコックが、ほぼ全編をワンカットで描いた室内劇『ロープ』をはじめ、アンドレイ・タルコフスキーやブライアン・デ・パルマ、ロバート・アルトマンなど、数々の名監督が、”長回し”に挑戦しています。
ただ、”長回し”といっても、当時はフィルム撮影なんで、当然、フィルム交換が必要で10分程度が限界なんですよね。(ヒッチコックはフィルム交換の場面は背中のアップ等で巧くつないでるのです。)
ところがデジタル技術が発達してくると、長時間の連続撮影が可能となってきて、アレクサンドル・ソクーロフの『エルミタージュ幻想』(2002年)や、ゼバスチャン・シッパーの『ヴィクトリア』(2015年)みたいに、ほんとに全編ワンカットの作品が作られています。
こういう一発撮りの作品って、カメラマンがカメラを持って役者に着いていってるイメージなんですが、その撮影技術自体も進歩していて、これ、どうっやって撮ったの?と、思わず見入ってしまう作品もあります。
そんな、自分が驚いた”長回し”のシーンが、サム・メンデス監督の『007 スペクター』での約4分の冒頭シーンで、ほんとにビックリしたんですよね、驚かされました。
上空にあるカメラが地上に降りてきて、007と一緒にエレベーターに乗り、部屋に入る。と、思ったらベランダに出て、再度、カメラは上昇しながら屋上を進む007の姿をとらえ続ける.....みたいな。
これって、どうやって撮ってるの?、と不思議で仕方なかったです。
そのサム・メンデス監督が、さらに”長回し”のスケールを大きくして、全編”ワンカット”に挑戦したのが、『1917 命をかけた伝令』でした。
この映画も、すごい映像でした。
飛行機が墜落してきたシーンなんて、ほんとに一発撮りなのか!?と、信じられないような映像でした。
恐らく、この”ワンカット”映画を完成させるには、緻密な計算と、チームワーク、そして粘り強さが必要なんだと思うんですよね。
そんな、ハードルを越えて完成させたスタッフに脱帽な作品でした。
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正直、全編”ワンカット”になると、リアルタイムで時間が経過する分、ストーリーは単純にせざるを得ないと思うんですが、それでも、主人公たちと一緒に行動してるように思えるほど、映像に入り込んでしまうんですよね。
そんな映画に挑戦する監督たちは、ほんとに素晴らしいと思います。
”ワンカット”のCM編
CMは映画と違って時間に制限があるので、ある意味、”ワンカット”に適したメディアかもしれません。
けっこう”ワンカット”のCMはたくさんあるのですが、私が推したいのは、まず、ポカリスエットのCM『ポカリ青ダンス 魂の叫び編』です。
60秒と限られた時間の中で、校舎の中を移動しながらダンスを踊る姿をワンカットで撮影したものなのですが、このCMのこだわりは、3人の登場人物たちが、別々の場所からスタートして、最後にピッタリのタイミングで合流するってとこが面白いんですよね。
それぞれの単体版CMも流れていたのですが、最後にピタッと合うとこが気持ちよかったのです。
もう一つはTVCMではないのですが、プレステ4のゲーム『GRAVITY DAZE2』のPR映像です。
こちらは、特撮を使っていて、一発撮りの作品ではないのですが、姉妹と飼い猫たちが、重力異常の現象に巻き込まれていく様子を”ワンカット”でつないでるのですが、これも、どうやって撮ったの?と不思議に思わざるを得ない映像なのです。(メイキングもあるので探してみてください!)
”一発撮り”のミュージックビデオ編
ミュージックビデオもCMと同様、時間に制限のある媒体なので、”一発撮り”に挑戦した作品はけっこうあります。(最近はファースト・テイク作品がたくさん出回ってますね。)
その中でも、文化祭の劇みたいな雰囲気の宇多田ヒカルさんの『Goodbye Happiness』なんて、けっこう楽しく”一発撮り”してくれています。
最後に紹介するのは、4人組のロックバンド”OK.Go"なんですが、今回のタイトルにしている”華麗なる一発撮り野郎たち”の称号は、彼らにこそ相応しいものだと思います。
彼らの作るミュージックビデオはほとんどが”一発撮り”なんですが、どれも単なる”一発撮り”じゃなくて、クオリティがとてつもないんですよね。
日本で撮影された「I Won't Let You Down」は、全世界で注目されて、日本のワイドショーやバラエティでも、頻繁に紹介されてるので、皆さんも目にしたことがあると思います。
冒頭、パフュームも出演してるし、日本人チアと一緒に傘を使ったマスゲーム・ダンスを披露してくれる展開は、どれだけ時間をかけたのか気が遠くなるほどすごかったです。
”OK.Go"のミュージックビデオは、毎回、趣向が凝らされていて、ほんとに楽しいのです。
「I Won't Let You Down」の他にも、500台のプリンターを使った「Obsession」や、犬と一緒に”一発撮り”している「White Knuckles」なんかもなかなかすごいんですよね。
ここまでくると、もうロックバンドじゃなくて、パフォーマー集団ですよね。ついつい繰り返してみてしまうのです。
他のビデオもすごいので、興味が湧いた人は、全作品を見てもらいたいと思います。
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