SF小説を彩るイラストたちの記憶
ちょっとマニアックなSF関係の記事です。
私は子どもの頃からSFが大好きで、50代をとうに超えた今もSF小説をよく読むんです。
思い起こせば、ハヤカワ文庫の青背など、SF小説を買い始めたのは小学生の頃なんですが、その頃の自分にとって、文字ばかりの本から、いろんなSF世界をイメージするのは難易度が高かったのです。
そんな時、頼りになるといえば
本のカバーに描かれているイラストや、途中の挿絵
だったりするわけなんです。
そんな時代を過ごしたせいか、SF小説のカバーイラストには思い入れが強くて、よくカバー画で買ってしまう事もあったんですよね。
実は、SFのカバーデザインについて、日本ってかなりレベルが高いんじゃないかと思ってるんです。
先日、SF&ミステリ仲間のタカミハルカさんの記事で取り上げられたのが、SF作家ウィリアム・ギブスン
ハルカさんの記事のコメント欄で盛り上がったのが、80年代後半にリリースされたギブスンの「ニューロマンサー」や「クローム襲撃」のカバーイラストのことでした。
ちなみにそのカバーというのはこんな感じです。
このカバー画は、奥村 靫正さんというグラフィックデザイナーさんの作品なんですが、むちゃくちゃカッコよくないですか?(最高にクールです!)
画面をよーく見ると、これはCGではなくて、いろんな "色/テクスチャ―" の欠片を丁寧に貼り込んでいった ”コラージュ” 作品だったりするんです。
小説自体、ネットワーク社会における最新のSF「サイバーパンク」ムーブメントの中心的な作品だったので、カバーデザインについても、今までにない手触りのものとして、YMOのアートディレクターも務めていた奥村 靫正さんが起用されたというわけなのです。
ちなみに、アメリカでリリースされた原著(ペーパーバック)のカバー画がこちらなんですが…
原著と比べると、奥村 靫正さんが手掛けたカバーデザインがいかに秀逸だったかが分かると思うんですよね。
ゲームっぽい海外版のカバーに対して、「電脳空間で再構成された人格」みたいな感じの奥村さんのデザインは、ギブスンの小説世界を感じさせるものだったのです。
今回は、この「ニューロマンサー」を皮切りに、次々とリリースされていった ”サイバーパンク” 小説を彩ったイラストたちを振り返っていきたいと思います。
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ただ、その前に…
■ 生頼範義と加藤直之
80年代後半のこの ”サイバーパンク” 以前、SF小説のカバーイラストと言えば、私にとって、二人のイラストレーターを紹介しないわけにはいかないのです。
その一人が、生頼 範義さん。
私がSFを読み始めた頃、書店に並んでいた平井和正さんの『ウルフガイ』や『幻魔大戦』のシリーズや、小松左京さんの作品を飾っていたのが、この生頼 範義さんのイラストでした。
このリアルで独特なタッチと色彩感!
ある意味、劇画調の王道イラストレーションなんです。
そして、小説ではないですが、生頼 範義さんのイラストといえば、スターウォーズシリーズのポスターなのです。
子どもの頃の私にとって、SFのビジュアルは、この生頼 範義さんのイラストだったりするのです。
80年代以降に私が読んだSF小説でも、べスターの「虎よ、虎よ」や、アイザック・アシモフの『ファウンデーション』シリーズ、ダン・シモンズの『ハイペリオン』など、王道SFのカバーを飾ってきたのが生頼 範義さんなのです。
そして、もう一人は、加藤 直之さん。
加藤直之さんは、私の中で、”ミスターSFイラスト” と呼んでも差し支えないほど、80年代から現在に至るまで、多くのSF小説のカバーイラストを手掛けています。
そして、加藤さんのイラストを語る上で外せないのが、ロバート・A・ハインラインの「宇宙の戦士」なんです。
小学生の頃、夢中になっていた「機動戦士ガンダム」のモビルスーツの元ネタが、この「宇宙の戦士」に出てくる ”パワードスーツ” にあることを知って、かなり背伸びして買った ”初めてのハヤカワの青背” がこの本でした。
何度か、カバー画が新装されてるのですが、私が持ってるのは、このカバーのやつなんです。
加藤直之さんは、あの ”スタジオぬえ” のメンバーで、同じく "ぬえ" のメンバーだった宮武一貴さんとの共同で、この ”パワードスーツ” をデザインしたんですが、このメカデザインが、その後に与えた影響はかなり大きいのです。
加藤直之さんは、リアルでメカニカルなイラストを得意としていて、自分にとっては、J・P・ホーガンの「星を継ぐもの」のシリーズや、デヴィッド・ブリンの「スタータイド・ライジング」のシリーズで、かなりお世話になっているのです。
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■ 奥村靫正
さて、再び奥村 靫正さんに戻ります。
70年代から80年代にかけて、SF小説と言えば、生頼 範義さんや加藤直之さんのようなリアルタッチのイラストが王道だったのです。
そんな時代に、奥村 靫正さんが、ウィリアム・ギブスンの小説のカバー画で見せたビジュアルは、今までとは違った新しいSFを感じさせたのは間違いないのです。
その後のカバー画は、「ニューロマンサー」のようなコラージュではないんですが、やっぱカッコいいのです。
■ 横山宏
"サイバーパンク" をギブスンと共に牽引した一人に、ブルース・スターリングという作家がいます。
そのスターリングの代表作「スキズマトリックス」や「蝉の女王」のカバーイラストを手掛けてたのが、横山 宏さんという方です。
モデラ―としての活動の方が有名な、横山 宏さんなんですが、特に、この「蝉の女王」のカバーは最高にいかしたイラストだと思っています。
スターリングの小説では、生体にハイテクを組み込んだ〈機械主義者〉という人々が出てくるんですが、そのビジュアルは、まさに横山 宏さんの描いたイメージなのです。
"サイバーパンク" って、こういう結線されたイメージで、wi-fi の感覚はないんですよね。
■ ひろき真冬
"サイバーパンク" ムーブメントの中、サイバーなガジェットを用いた近未来ハードボイルドミステリーが、ジョージ・アレック・エフィンジャーの「重力が衰えるとき」などのシリーズなんですが、その表紙を飾ったのが、漫画家として活動していたひろき真冬さんです。
私の記憶が確かならば、おそらく、ひろき真冬さんがイラストレーターとして活動し始めたのが、このイラストの頃だったと思います。
まるで、近未来のファッション雑誌のような感じなんですよね、これがまたカッコよくて、ジャケ買いをしてしまったシリーズだったのです。
ちなみに「重力が衰えるとき」の原著の方のカバー画と比べると、笑えるほど圧倒的に邦訳版がいかしてるのです。
ちなみに原著…
生まれたのが日本で良かった~
と、思ってしまうほどの違いですよね。
■ 小阪淳
さて、最後に、ポスト・サイバーパンクと呼ばれた、ジャック・ウォマックの「ヒ―ザーン」と「テラプレーン」。
内容があまりにも難解だったので、本来4部作だったのに2作しか邦訳されなかったシリーズです。
ただ、小坂 淳さんの手によるカバーデザインはカッコよかったです。
白を基調としたデザインは、無機質な未来世界を感じさせてくれて、ほんと秀逸なのです。
その読みにくさから続巻が出なかったため、この後のデザインも見れなくなったのが残念でしたが、小坂淳さんのカバー画には、グレッグ・イーガンの諸作品で再会できて、なかなか嬉しかったのです。
カッコいいです。
この方のデザインは、ちょっと難解な世界観にピッタリなのです。
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SF小説のカバーって、ほんと大事だと思うんですよね~
その小説世界の風景をイメージさせたり、好奇心を刺激したりする上で、とても重要な役割を果たしているのは間違いないのです。
ただ、近年になると、様々なSF映画やSFアニメ、SFマンガなども一般化してきて、80年代と違って、SFのイメージに溢れてる感じがするので、王道を行くSFイラストなんかは、逆に古臭くなってしまったように感じることがあります。
そのせいか、イラストはよりイラストらしく(またはアニメチックに)、また、イラストというよりもグラフィックデザインと呼ぶべきカバー画が増えてきた印象です。
グラフィックデザイナーの土井宏明さんが手掛けているフィリップ・K・ディックの新装版のカバーも、そんな感じですよね。
まあ、王道SFイラストのように、分かりやすくイメージを伝えるものではないですが、なかなか想像力を刺激するカバー画です。(青背を超えてますし!)
すごくカッコいいのですが、実は、このデザインは、70年代に活躍したフランコ・グリニャーニへのオマージュになってるんじゃないかと、個人的には思っています。
フランコ・グリニャーニは、60~70年代に活躍した、イタリアのキネティックアーティストです。
多分、実際の作品よりも、あのウールマークのロゴの方が有名な方です。
デザインを勉強していくと、そのグリニャーニによるSF小説のカバーデザインと出会ったりするんですが、これが、また、カッコいいんですよね〜。
なかなかいかすでしょ!
ただ、グリニャーニって芸術家でしたから、ほんとに小説世界に合っていたかは微妙なんです。
その点、土井宏明さんによるフィリップ・K・ディックのカバー画では、小説に出てくる場面やアイテムがシンボリックに描かれていて、カッコよさの中にも小説との "つながり" があるのです。
ディックの本はけっこう持ってるんですが、土井デザインで買い直したくなっちゃうんですよね〜
これもデザインの力なんです。
今回、紹介しきれなかったイラストレーターさんやグラフィックデザイナーさんについては、そのうち、また、記事にしていきたいと思ってます。
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