常連になりたい


”常連の大学生”というものになる最後のチャンスが迫っている。
私は来年の春、6年間通い続けた大学から卒業する。(実際には最初の数年以外リモート授業やら、自宅での研究やらであまり通学はしていないが。)
大学から卒業することは何を意味するか。それは、「常連の大学生」になることが金輪際叶わなくなるということだ。(あと、Amazon Prime を学生価格で享受することができなくなるということでもある。)
友達と喋っていると、もしくはオシャレな小説を読んでいると、「行きつけのバー」という単語が出てくることがある。一方、私は基本行きつけの店というものから遠く離れた場所にいる。美容院も基本一回しか行かないし、当然行きつけの居酒屋やバーなどもってのほかだ。人見知りが過ぎるのだ。

大学1年生のころ、家の近くにめちゃくちゃ美味しいラーメン屋があった。私はそのラーメンが好きで、よく食べに行っていた。しかし、店には常に多くの客がおり、基本店員との会話もなかったため、愛用していた。
ある日、ふらっとそのラーメン屋に寄ってみると、食券機に「選挙に行った人は100円引き」との張り紙がされている。私は上京したてだったこともあり、選挙に行っていなかったので正直に通常価格のラーメンを選び、700円を払った。
すると、店員のおじさんから「君、正直だね。」と突然話しかけられた。その店員は店長らしく、いつも通っていたため私を覚えていたらしい。
ラーメンを食べながら話していると、店長の姪っ子と歳が近いことがわかり、なぜか写真を見せられ、「かわいいだろ。ぜひ会ってみないか?」などと言っている。

まさか通っているラーメン屋で女の子を紹介されるとは思っておらず、しかもそれは店長の姪だ。一応写真をみたが、確かに可愛らしい女性だったが、流石に気味が悪くなり、丁重に断り、店を後にした。

それ以来その店には一度も行かないまま、キャンパスの移動とともに別の街に引っ越してしまった。一度垂らされた「常連の糸」を振り分けてしまってからは、店員と仲良くなるのにさらに忌避感が強くなってしまった。

長々と書いたけど、これは「常連になることの怖さ」ではなく「変な店員に絡まれた話」な気がする。あのとき紹介された女性と会っていたらどうなっていたのだろう。

記憶の中のその写真の女性は日に日に美化され続けている。

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