「リセットの果てに 〜ゼロから始まる真の人生〜」
1. 安定と不満(導入:800文字)
32歳、俺は高校の数学教師だった。
大学卒業後、なんとなく教師になり、気づけば10年が経っていた。
公務員としての生活は安定していた。
朝から晩まで働けば給料はもらえる。
だが、副業は禁止、残業代も出ない、どれだけ頑張っても昇給は微々たるもの。
「こんな人生があと30年以上続くのか?」と考えるたびに、うんざりした気分になった。
そんな時だった。
同僚と飲みに行ったキャバクラで、酒に酔った勢いでポーカーを始めた。
最初は遊びだった。
だが、ポーカーは数学のゲームだった。
「確率を計算すれば勝てる。運ではない、理論だ。」
そう思い込んだ俺は、徐々に金を賭ける額を増やしていった。
2. 破滅の道(1,000文字)
気づけば、キャバクラの支払いのために消費者金融から借金をしていた。
「ポーカーで増やせば返せる」そう思って、さらに深みにハマっていった。
勝った時は気持ちよかった。
だが、負けが続いた。
それでも「次は勝てる」と信じ、さらに金を突っ込んだ。
そして、借金は1000万円を超えた。
気がつけば、家賃を払えなくなり、水道・電気・ガスが止まった。
職場にも行けなくなり、鬱のような状態になっていった。
そして、決定的な出来事が起きた。
アングラのポーカー仲間に100万円を借りていたが、返せずに飛んだ。
携帯には「お前、どこにいる?」とメッセージが何十件も届いていた。
もう、どうしようもなかった。
ある日、家の前に小さなダンボール箱が届いていた。
開けると、中にはたった一つの赤いボタン。
添えられた手紙には、こう書かれていた。
「あなたの人生をリセットしませんか?」
「押せば、すべてがゼロになる。ただし、何がゼロになるかは分からない」
バカバカしいと思った。
けれど、俺にはもう何もなかった。
俺は、そっと指を伸ばした。
カチッ——。
3. リセット後(1,500文字)
目が覚めた。
だが、すぐに違和感に気づく。
スマホには、誰の連絡先も残っていなかった。
銀行のアプリを開いても「該当の口座はありません」と表示された。
職場に電話をかけても、「そんな職員は在籍していません」と言われた。
すべてが、本当にゼロになっていた。
借金は消えた。
だが、それと引き換えに俺の社会的な存在が消えた。
日本ではもう生きていけない。
そう思っていると、知り合いを通じてフィリピンでの仕事を紹介された。
「オンラインカジノの運営補助」
日本では違法だが、フィリピンではギリギリ合法だった。
経歴不要、身分証明もいらない。
そして、日本の教師時代の2倍の給料がもらえた。
俺は、フィリピンへ渡った。
金はあった。
いいコンドミニアムに住み、毎晩飲み歩いた。
だが、ふと気づく。
「俺には、誰もいない。」
日本にいた頃、教師としての職場は退屈だったが、それでも人と話す機会はあった。
友人もいた。
今の俺には、誰もいない。
金を持っている時だけ寄ってくる奴らはいたが、本当に信用できる人間はいなかった。
「金だけあっても、人生は空っぽなのか?」
俺は、まともな人生を取り戻そうと決意した。
まずは、ライター業を始めた。
最初は小銭稼ぎだったが、次第に収入が安定し、月20万ほど稼げるようになった。
並行して、FP・簿記の資格の勉強を始めた。
いつか日本に戻る時のために、スキルを身につける必要があった。
4. 日本へ帰国・エンディング(800文字)
3年が経った。
フィリピンでの仕事は、もう続けられないと感じていた。
「このままでは、いずれ破滅する」
俺は、日本に戻ることを決意した。
だが、もう都会には戻らなかった。
地元で、静かに暮らすことにした。
ライター業の収入も安定し、FPや簿記の知識を活かして記事を書いていた。
朝起きて、コーヒーを淹れ、パソコンを開く。
かつてのような刺激はないが、穏やかな日々だった。
「本当にこれでよかったのか?」
ふと、そんな考えが頭をよぎる。
机の端に、“赤いボタン”が置いてある。
3年前に俺の人生をゼロにしたボタン。
あの時のように、そっと指を伸ばしてみる。
——いや、もう押す必要はない。
俺はため息をつき、そっと視線を逸らした。
完