母音を伴わない「L」は思い切り「ウ」と発音すべし!
こちらは
ブラジルの田舎のおっちゃん二人の会話です。
青シャツのおっちゃんがやってきて、
「よう、相棒、元気でやっとるか?」
と聞いたのに、
赤シャツのおっちゃんは、
「いや、サッカーだよ!」
と答えます…。
!?!?
では、
何故そのようなことになったかを見ていきましょう。
漫画で青シャツのおっちゃんが言っている
「IAE, COMPADI, FIRME?」を
きちんとしたポルトガル語で書くと、
「E aí, compadre, firme?」
になるのですが、
その中の
・「E aí【イアイ-】」は、「で、どうよ?」といった挨拶です。
・「compadre【コンパードリ】」は、主にラテン・アメリカの農村地帯で
村民が仲間意識を以てお互いを呼ぶ際に用いる共通の呼称で、男性同士
はお互いを 「compadre」と、女性同士はお互いを「comadre」と呼び
ます。
・「firme【フィルミ】」は「しっかりとした」といった意味の形容詞で、
これはブラジル全土で「Tudo bem?」(=「元気?」)などの代用と
して、親しい者同士が挨拶する際によく用いられる表現です。
一方、赤シャツのおっちゃんが言っている
「NÃO. FUTEBOR.」はというと、
書き方を正すと、
「Não. Futebol.」
になります。
ほぼ見たままですが、
・「Não【ナゥン】」は英語の「No」と概ね同じで「いいえ」、「いや」、
「いいや」 といった、否定をする際に用いる副詞です。
・「Futebol【フッチボーウ】」は、もちろん「サッカー」のことです。
ポイントは、
青シャツのおっちゃんが言った
「firme」という単語は、
書き方を正しても「firme」のままですが、
一方、
赤シャツのおっちゃんが言った
「futebor」は
書き方を正すと「futebol」なので、
赤シャツのおっちゃんは、
末尾の「L」を「ウ」のように発音する
【フッチボーウ】ではなく、
末尾が「R」であるかのように
【フッチボール】ないし【フッテボール】
と発音していることになります。
事実ブラジルでは
単語の末尾でなくても母音を伴わない「L 」を、
都会の人は「ウ」と、
田舎の人は「ル」と発音する傾向があります。
結果、
田舎の人は
「firme【フィルミ】」(しっかりした、「元気?」)も
「filme【フィウミ】」(フイルム、映画)も
【フィルミ】
と発音してしまうため、
青シャツの「元気でやっとるか?」を
「映画鑑賞か?」
だと勘違いしてしまったというわけです。
❇❇❇
ちなみに日本人の場合は、
英語などでも母音を伴わない「L」を「ウ」と読むことに
抵抗を感じ易い、
というか、
そもそもカタカナ語化のルールとして
「母音を伴わない「L」=「ル」」
というのが定着してしまっていますよね…。
結果、ポルトガル語でも
「filme」は当然「フィルメ」だろうと思い勝ちで
(なにせポルトガル語は基本ローマ字読みだと習っていますし…)、
でも、それをやってしまうと
意味が通じなかったり、
相手が笑いをこらえているのが垣間見えてしまったり…
なんていうことにもなり兼ねません...。
ましてや、
「firme」と「filme」ならば品詞からして違いますから、
文脈で判別し易いと言えますが、
品詞が同一の場合は、
より面倒なのではないかと思われます。
例えば、
「alma【アウマ】」と「arma【アルマ】」。
日本人がローマ字読みをしてしまうと
どちらも「アルマ」になってしまいますよね!
でも意味となると...、
「alma【アウマ】」は「魂」、
「arma【アルマ】」は「武器」です!
同様に、
「calma【カウマ】」は「静けさ」・「落ち着き」、
「karma【カルマ】」はそのまんま「カルマ」…!
ドエラい違いです…!>爆!
❇❇❇
と、ここまでは
ブラジルの都会の言葉と田舎の言葉について
述べて参りましたが、
欧州葡語ではどうかというと、
これが微妙でして...。
母音の伴わない「L」については
今まで区別をして、
欧州葡語のルビは「ル」としてきたのですが、
潔く「ウ」にするべきかなぁ…
などと悩みました…、が…、
実は...、
欧州葡語を聞いていると、
「母音を伴わない『L』の発音は
ブラジルの単純な「ウ」の音とは異なり、
どちらかというと、
英語のそれに似た「『 L 』感(エルっぽい感じ」があるんです…。
ブラジル人のは
そのまんま「アイウエオ」の「ウ」、
ポルトガル人を初めとする欧州葡語話者のは
もっと喉元を使った「 L 」の名残のあるものなのです...。
それに
「ブラジルの葡語とは違ってポルトガル人は
ちゃんと「ル」と発音する」
という説明をされている方を見たこともあるのです...。
そんなこんなで、
「う~ん…、英語由来のカタカナ語が『ル」なのだから、
『ル』にしなけりゃマズイかな…」
と、妥協してしまったのが真実なのです…。
ちなみに
母音を伴わない場合の
伯葡語の「L」と欧州葡語の「L」は
どの程度違うかというと、
ブラジルの「 L 」の場合、
あまりにも「まんま『ウ』の発音」なので
混乱するようなケースもある語であっても、
欧州葡語圏の人の発音であれば聞き分けることが可能なので、
「その程度には違う」
ということができます。
例:「cauda」:尻尾
「calda」 :とろみのついたソース
これらをブラジル人が発音すると、
どちらも全く同じ【カウダ】なので紛らわしいですが、
欧州葡語圏の人の発音ならば、
「ソース」の方は、口の後方(喉に近い部分)で
「ウ」と発音するため「ル」の名残が聞こえ、
混乱することがありません。
とはいえ、たとえば
「キャラメルソース」のことは
「calda de caramelo」というのですが、
こういったヒントさえあれば、
よほど「カラメーロ」という名のペットを飼っている
ブラジル人が発音した場合以外は混乱は起きないんですけどね…!w
❇❇❇
というわけで、
今後も恐らく私は、欧州葡語のルビには
「母音を伴わない『 L 』」を「ル」と、
(そして語頭の「RA」、「RE」、「RI」、「RO」、「RU]は、
伯葡語ルビは「ハ」、「ヒ」、「フ」、「へ」、「ホ」、
欧州葡語ルビは「ら」、「り」、「る」、「れ」、「ろ」と)
区別していくと思いますが、
時々この記事を引用したり、
注意書きを加えたりもしていこうかなとも思っています。
本日もお読み頂き、誠にありがとうございました!
※ 「Salto」(伯葡語【サウトゥ】、欧州葡語【サルトゥ】。但し欧州
葡語の「ル」も限りなく「ウ」に近いものです。《=「ジャンプ」》)
って、感じかな?]
ちなみに「ジャンプ ネコ」はこたつぶとんさんの作品です。