上燗45度の奇跡
師走、燗酒が恋しい季節。
冷(常温)を熱すれば、
作り手の魂が込められた味と、
憩いのかおりが、一段と開く。
こいつが、こよなく、いとおしい。
一年中、愛飲するのは上燗45度。
人肌(35度)は、ほんのりかおるが
どこか物足りない。
ぬる燗(40度)は、もうひとこえの温度感。
熱燗(50度)だと、少し個性が前に出る。
飛び切り燗(55度)は、厳冬の夜のみで、
肝心のかおりが飛ぶので避ける。
お燗だって、人それぞれ。
僕は上燗45度。
丁度中道、生き方同様か。
熱により消したくないものがある。
熱により醸したいものがある。
心を溶かし、ささぐれた気持ちと、
くたびれた肩まわりを
ほっこり、じわりとほぐしてくれる。
なんとも、優しい、いとしの燗。
一日の終わりに、
その日の、心のけりをつける。
ありがとうの一杯、独りで乾杯。
いずれにしても、2号まで。
それ以上は望まない。
毎夜、心高ぶるためには1合か2号。
かおりを消さないように、
酔に溺れないように、
想いと健やかのために。