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相撲基礎練習法 第13回 足指の操作1

前回:相撲基礎練習法 第12回 上半身の動き作り3
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1. はじめに

 今回と次回は、足指の操作について取り上げたいと思います。足指の操作は非常に重要であるにもかかわらず、その重要性を理解できていない人も多いです。今回の連載では、足指の操作技術として、足指を地面に押しつける使い方足指を地面から浮かせる使い方の二種類を紹介したいと思います。

今回は、足指の操作が重要な理由について整理した上で、足指を地面に押しつける使い方、足指を地面から浮かせる使い方の双方について考察を深めていきたいと思います。それを踏まえて次回、それらを使いこなせるようになるための具体的な訓練方法について紹介したいと思います。

2. 足指操作の重要性

 まずは、足指の操作が重要な理由について考察したいと思います。第7回では、相手を押す際に重要なことは、前脚主体の前進メカニズムを使いこなすことだと述べました。足指の操作が重要なのは、足指を上手く使うことができると前脚主体の前進メカニズムを作動させやすくなるからだと私は考えています。逆に言えば、足指の操作が未熟だと、前脚主体の前進メカニズムを作動させづらくなってしまいます。
 
前脚主体の前進メカニズムを作動させる上で重要なポイントとして、以下のような要素がありました。
 
①前足の上に股関節が乗り、股関節の上に上半身が乗るような体勢を作る
②前足部(主に母指球)で地面を蹴るのではなく、踵で地面を押す
③股関節を閉じるのではなく開いて使う
 
以下では、地面に押しつける/地面から浮かせるという二つの足指の使い方が、これら三つのポイントとどのように関係するのか考察していきたいと思います。

①前足の上に股関節が乗り、股関節の上に上半身が乗るような体勢を作る
 第7回の内容の確認になりますが、前脚主体で押すためには、上半身/股関節と足部の荷重位置(足裏の最も体重が掛かっている場所)との関係性が重要になります。具体的には、上半身の重さを股関節で支え、さらにそれを足で地面を踏みしめることで支えるような全身姿勢をとる必要があります。
 
よくある問題として、足が上半身や股関節に対して前に出すぎてしまう(重心が後ろすぎる)ことで、前足で地面を踏みしめることができなくなるということがあります。足指の使い方を工夫することで、この問題を解決してくれる二つの効果が期待できます。

 一つ目の効果は、上半身を前方に引き寄せるというものです。二つの足指の使い方は、どちらも足首を曲げる動きを引き起こします。そうすると、下の画像のように上半身が前方に引き寄せられることになります。これによって、上半身/股関節に対して足が前に出すぎてしまっている(重心が後ろすぎる)という状態をある程度修正することができます。

足首が曲がると上半身は前方に移動する

二つ目の効果は、足部の荷重位置を踵側に移動させやすくなるというものです。足部の荷重位置が踵側に移動することによっても、下の画像のように上半身/股関節と足部の荷重位置との関係性を改善することができます。

荷重位置が踵に移動することで、上半身の
位置を相対的に前に出すことができる

なお、二つの足指の使い方には、この二つの効果との関係で向き不向きがあります。足指を地面に押しつける使い方は、一つ目の効果を得るのに適しています。一方、足指を地面から浮かせる使い方は、二つ目の効果を得るのに適しています。

②前足部(主に母指球)で地面を蹴るのではなく、踵で地面を押す
 ①の二つ目の効果として指摘した踵に荷重を移動させやすくなるという点について、もう少し深掘りしたいと思います。
 
足で地面を押すときには、母指球などの前足部で地面を蹴るのではなく、踵を地面に押しつけるようにした方が良いです。前足部で地面を蹴ってしまうと身体全体が間延びしてしまい、相手に対して継続的に強い力をかけることが難しくなってしまいます。
 
前足部で地面を蹴って前に進むためには、足首を伸ばす動きが必要になります。逆に、足首を曲げているときは、踵で地面を押さなければ前に進むことはできません。
 
先ほど述べたように、足指を地面に押しつける/地面から浮かせる使い方のどちらについても、足首を曲げる効果があります。したがって、これらの足指の使い方をすることで、前足部で地面を蹴る動きを抑えることができます。ただし、両者の間には足首を曲げて踵荷重を実現する効果の出方について違いがあります。

 足指を地面から浮かせると自動的に踵荷重が実現します。これは足指を地面から浮かせる使い方の長所と言えます。
 
一方、足指を地面に押しつける使い方では、「足首が曲がることによって前足部で地面を蹴る動きを抑える」という効果は生じるものの、踵荷重は自動的には実現しません。なぜなら、上半身が前方に引き寄せられる時に踵が地面から離れる効果も生じてしまうからです。踵が地面から離れてしまっては、踵で地面を押すことは当然できません。
 
踵が地面から離れそうなときにタイミングよく膝を伸ばすようにすると踵を地面に押しつけることが可能になります。このように、足指を地面に押しつけることと踵で地面を押すことを両立するためには、足指を地面から浮かせる使い方と比べると少し難しい操作が必要になります。

③股関節を閉じるのではなく開いて使う
 股関節を開くように使うことも前脚主体の前進メカニズムを作動させる上で重要です。股関節が閉じてしまうと、前脚を使って前方への推進力を生み出せなくなるだけでなく、引き技で転びやすくなってしまいます。股関節を開く動きも、足指の使い方を工夫することで行いやすくなります。
 
股関節が閉じてしまう大きな原因として、足部の内側アーチが潰れてしまうということがあります。足部の内側アーチが潰れてしまうと、人間の骨格構造上の自然な連鎖として股関節が閉じてしまうからです。

 逆に言えば、足部の内側アーチを立てておくことができれば、股関節を開く動きを行いやすくなります。足指を地面に押しつける/地面から浮かせる使い方のどちらも、足部の内側アーチが潰れることを防止する効果があり、したがって、股関節が閉じてしまうことを予防するのに役立ちます。

3. 足指を地面に押しつける使い方

 相撲では、「足指で地面を噛む(かむ)」ことが重要であるということが伝統的に言われています。ここまで「足指を地面に押しつける」と表現してきた使い方は、「足指で地面を噛む」と伝統的に表現されてきた使い方と同じものだと私は解釈しています。にもかかわらず、あえて「足指を地面に押しつける」という独自の表現を用いているのは、「足指で地面を噛む」という表現は、足指の使い方について誤ったイメージを抱かせやすく、「足指を地面に押しつける」という表現の方が、適切なイメージを持ちやすいと考えているからです。
 
「足指で地面を噛む」という表現によって抱きやすい誤ったイメージとして、「手で棒のような物体を握るように足指を使う」というものがあります。この場合、足指の動きとしては、下の画像のように第一関節を中心に曲げるような感じになりやすいです。私は、このような足指の使い方は良くないものだと考えています。

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