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相撲基礎練習法 第7回 すり足1

前回:相撲基礎練習法 第6回 四股3
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1. はじめに

 今回から、すり足について取り上げていきます。すり足には、遅いすり足と速いすり足の2種類があります。今回から次々回までの全3回にわたり、それぞれの目的、よく見られる問題点、そして問題点を改善するための練習法などについて整理していきます。

 なお、すり足では方向転換や横方向への移動を含む内容も伝統的に行われていますが、今回はこれらについては取り上げず、前に進む動きに絞って話を進めます。これは、方向転換や横方向への移動について私自身まだ整理がついていないことに加え、前方向への適切なステップワークの習得が、相撲の実力向上において特に重要だと考えているためです。

2. 実際の動きと違うのではないかという疑問

 第4回では、四股を踏むことの目的を理解するのは難しいということを話しました。同じ問題がすり足にも当てはまります。

すり足が前に攻めるためのステップワークを習得するための稽古法であることは、誰もが理解していると思います。しかし一歩進んで、習得すべき技術とは具体的にどのようなものなのかを考え始めると、その答えを見つけるのは簡単ではありません。こうした難しさは、四股の場合と同様に、すり足の稽古で行う動きがそのまま実際の相撲で使われるわけではないということに由来すると思います。

相撲の押し合いでは、相手に自分の体重を適度に預けることがバランスを維持するために重要となります。一方、すり足は一人稽古であるため、そのようなバランスの取り方はできません。この違いから、実際の相撲で必要とされる動きと、すり足の稽古で実行可能な動きの間にずれが生じてしまいます。

例えば、遅いすり足では、実際の押し合いと比べて上体を起こし気味にしたり、重心を後方に置いたりする必要があります。また、速いすり足では、スピードが出過ぎないように地面を蹴る力を調整しなければなりません。

こうしたギャップの存在を踏まえると、前に出るためのステップワークを向上させるためには、より実際の相撲に条件が近いぶつかり稽古のような台人での押し稽古に重きを置いた方が良いのではないかという考えもあり得そうです。

 しかし、すり足の稽古と、ぶつかり稽古などの台人での押し稽古をバランス良く組み合わせることが、前に出るためのステップワークを習得・改善していく上で効率的な方法ではないかと私は考えています。

実際の相撲の動きをすり足で完全に再現するのは難しいというのは、確かにすり足という稽古法の大きな欠点と言えます。しかし、台人での押し稽古にも別のデメリットがあり、すり足の稽古には、そうした台人での押し稽古のデメリットを補う効果が期待できます。

台人での押し稽古では、相手を動かすために全身の筋肉が大きな力を発揮することが求められます。一般に、大きな力を発揮しなければならない状況では、新たな身体操作を学習・習得することは難しいものです。他のスポーツでも、フォーム改良の練習は負荷が小さい段階から始めることが多いのではないかと思います。このような事情から、台人での押し稽古のみだと、根本的な身体の使い方に未熟な部分がある場合に、それを改善するのが難しくなってしまいます。

すり足運動は、実際の相撲で必要となる動きを忠実に再現することはできないというデメリットと引き換えに、大きな力を発揮するという負担が軽減されているというメリットがある稽古法と言えます。これによって、細やかな身体操作感覚を磨くことに集中しやすくなります。そのことが結果的に、「基本的な身体操作技術」を効率的に習得・改善していくことを可能にします。

 では、すり足の稽古によって習得・改善が期待できる「基本的な身体操作技術」とはどのようなものでしょうか。これは、以下の2点にまとめることができると私は考えています。

①前脚股関節を操作することで前進する技術
②全身を協調的に連動させることで運び足の接地位置をコントロールする技術 

以下では、これら2点についてさらに詳しく掘り下げていきます。

3. 前脚股関節を開くことによって前に進む

 まずは、上で提示したすり足の稽古を通じて習得・改善することが期待できる身体操作技術のうち、前脚股関節の操作について、もう少し詳しく話したいと思います。

第4回で触れた内容の振り返りになりますが、後ろ脚で地面を蹴るようにして前に出ようとすると、身体が間延びしてしまい、引き技に反応しづらくなったり、相手を押すために左右の脚をスムーズに踏み変えることが難しくなったりします。前脚を主体として相手を押すことができれば、膝を曲げた状態を維持したまま前進しやすくなるため、こうした問題の発生を防ぐことができます。

このようなメリットが前脚を主体として押すことにはあるにもかかわらず、後ろ脚に頼って押してしまう人が出てきてしまうのは、前脚を主体として押すことが習得の難しい技術だからです。そこで、前脚を主体として前進する際のメカニズムについて考えてみたいと思います。そうすることで、すり足の稽古で習得・改善すべきことがより明確になると思います。

 前脚を主体として前進するためには、股関節を開くように使うことがポイントになります。そうすることで、下の動画のように、骨盤が後ろ脚を前方へと引っぱるように回転し、身体を前に進めていくことが可能になります。すり足の稽古を行うことの一つの大きな意義は、この股関節を開く動作を起点として前に身体を運ぶという感覚を養うことにあると私は考えています。

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