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相撲基礎練習法 第10回 上半身の動き作り1

前回:相撲基礎練習法 第9回 すり足3
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1. はじめに

 今回から次々回までの3回にわたって、相撲において相手を効果的に押すために必要となる身体操作技術について考察し、そうした技術を習得するための練習方法についてまとめていきたいと思います。

取り上げる内容としては、主に上半身の使い方や鍛え方を中心に説明します。しかし、相手を効果的に押すためには、上半身と下半身が協調して連動することが不可欠です。そのため、下半身の使い方にも一部言及することになります。

今回は、相撲において相手を押す技術として本質的に求められている事柄とは何かという点について考察したいと思います。その考察を踏まえて、次回および次々回では、より具体的な身体操作のコツや練習方法を紹介していきたいと思います。

2. 腕を伸ばす力が強い=押す力が強い?

 相撲において相手を押す能力を高めるためにはどうしたら良いでしょうか。分かりやすいアイデアとしては、腕を伸ばすのに働く胸や肩、上腕などの筋肉を鍛えるということが考えられます。この場合、ベンチプレスやショルダープレスといったプレス系のウェイトトレーニング種目をやり込むということが具体的手段となるでしょう。

こうしたウェイトトレーニング種目を取り入れること自体は有意義なことだと思います。何故なら、腕を伸ばす筋力の強さは押す力の強さと大いに関係があり、そして腕を伸ばす筋力を向上させるためには、プレス系のウェイトトレーニング種目を行うことが非常に効率的だと考えられるからです。

しかし、実際の相撲の中で相手を押す能力は、単純に筋力の強さだけでは決まらず、技術面でも差がつくと私は考えています。そのため、単純に筋力を強化するだけでなく、技術的な問題を改善していくことも、実際の相撲の中で相手を効果的に押す能力を高めていく上ではとても重要なことだと言えます。

本節では、実際の相撲において相手を効果的に押すための技術として本質的に必要とされている事柄は何かという点について、腕を伸ばす筋力を強化するための代表的なウェイトトレーニング種目であるベンチプレスと相撲における押しを比較しながら考えてみたいと思います。

 真っすぐに立った状態で、(対戦相手に見立てた)壁を押してみると、身体は後ろによろめいてしまいます。これは、手で壁を押したことによって壁からの跳ね返りの力が発生し、その力によって身体が後ろに押し返されてしまっているのだと考えられます。そしてこの時、上半身が後ろに動いてしまうことによって、手から壁(相手)にかかるはずだった圧力は弱くなってしまいます。

直立姿勢では踏ん張って押すことができない

ベンチプレスを行っているときも、バーベルを上に向かって押すことによって、バーベルから身体を下に向かって押すような力が跳ね返ってきます。しかし、ベンチプレスの場合は、ベンチ台に背中がついていることによって、ベンチ台が背中を押し返してくれます。このベンチ台が背中を押す力とバーベルが手を押す力が打ち消し合うことによって、上半身がその場で固定されます。これによって、上半身がバーベルを動かしたい方向とは反対に動いてしまうということが起こらず、バーベルを強い力で押し続けることが可能になります。

ベンチプレスではベンチ台が
背中を支えてくれる

 このように、壁/相手を大きな力で押し続けるためには、壁/相手を押した反動で自分の身体が押し返されて反対方向に動いてしまうという現象をどうにかして抑え込む必要があります。それでは、立った状態で壁/相手を押すときには、具体的にどうすれば良いでしょうか。

ここで、身体を斜めに傾けた状態で壁を押すことを考えてみましょう。この場合、真っすぐに立った状態で押す場合とは違って、身体が後ろによろめくことなく、その場にとどまりながら強い力で壁を押し続けることができると思います。これは、壁を押したことによって生じる反動を、足で地面を押すことで地面から返ってくる反動によって打ち消すことができているからだと考えられます。

身体を斜めに傾けると踏ん張って
壁を押すことができる

このように、ベンチプレスと相撲における押しでは、物体を押したことによって返ってくる反動を打ち消す仕組みに大きな違いがあります。このような違いがあるために、ベンチプレスをやり込むだけでは相撲における押しの技術は十分に身につかないのだと考えられます。

3. 上半身を起こすと姿勢を安定させるのが難しくなる

 上の画像のように、身体を一直線にして大きく傾けると、地面と壁の間で身体を突っ張り棒のようにして踏ん張ることができ、筋力の限界まで壁を押すことが簡単にできます。しかし、実際の相撲では、この姿勢で相手を押すと引き技で簡単に負けてしまいます。このような制約があるため、実際の相撲では極端に身体を斜めに傾けることはできません。

つまり、身体をある程度起こし気味にしながらも、壁や相手からの反動と地面からの反動をうまく打ち消すことが、相撲の押しの技術では必要となります。これを実現するのは非常に難しいことです。

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