#7 タジマ洋服店 店主
中学3年生の頃に同級生の影響で洋服の魅力に取り憑かれ、今に至る(41歳)までに体験した、洋服をはじめとした道具にまつわるアレコレを中心に "モノ" にまつわる物語を書き綴る日記『僕の洋服物語』のスピンオフマガジン。
これまで20年以上、洋服というフィルターを通して、多くの人から数えきれない学びをもらっている。私は "人" が大好きだ。
これは、私の人生において忘れられない "ヒト" との記憶...読んだあなたが、人生の素晴らしさを再確認し、自分の周りにいる人のことが今よりもっと好きになれる。
そんなきっかけになってくれたら嬉しい。
洋服屋というのは、買ってくれた洋服のクリーニングやお直しといったアフターケアをどうするかということも考えておく必要がある。
私のお店は洋服のお直し(裾上げ、袖つめ)などが非常に多い。
それは洋服をベストな状態で着てもらうため、最低限のお
直しは必要だと皆に伝え続けたことが浸透している証拠だろう。
そこら辺を意外と誤魔化して、直すことはもったいないと伝えている店もあるが、サイズがしっくりこなければせっかくの洋服も台無し。
さらに、いい加減な場所にお直しを出すと大事故につながることだってある。
実際、開業から数年お世話になっていたお直し屋があるのだが、直したズボンの中に針が入っていた。たまたま私のズボンだったので良かったが、お客さんのズボンだったらそれだけで信頼は地に落ちるだろう。
そんなこんなで私の店は10年間で3度お直し屋を変えている。3度目に見つけたお直し屋は、それまで使っていた2社のように会社でもなければ有名でもない。
その店を使いはじめてから6年以上経つが、私はその店が続く限りお直し屋を変えることはないだろう。
今日はその知る人ぞ知る洋服店の店主を紹介しようと思う。
『タジマ洋服展 店主』
私がタジマさんに出会ったのは、自分のズボンに針が入っていたことから、別のお直し屋を探しはじめた数ヶ月後だった。
店の場所から車で40分ほど離れた場所。たまたま私が車を走らせていたら、自宅の一階部分にタジマ洋服店と掲げた看板が目に止まった。
流石に店のお直し屋を飛び込みで決めるわけにはいかないし、場所的にも不便だとスルーしようと思ったとき、店主であろうお爺さんが店の外に出てきた。信号待ちだったことが幸いして、ゆっくり観察してみた。
白髪のオールバック、スラックスにベスト、シャツにネクタイといった、いかにもクラシカルな装い。徳島の田舎でこんなスタイルを貫く、齢70を過ぎているであろうそのおじいさんになぜか惹かれて思わず車をUターンして入ってみた。
8畳ぐらいのスペースの店内にスーツ用のウール生地が数点。かなり古い賞状が飾られている。昔ながらの仕立て屋さんなのだろう。
「いらっしゃい。お直しですか?」
店主が声をかけてくれた。この時点でお直しを頼むつもりはなかったが、私はひとまず事情を説明した。
「またいつでも持ってきてください。」
そう言った店主の後ろには、カレンダーが貼られており、全て×マークが入り真っ赤になっていた。
「お忙しいんですね」
私が尋ねると、
「1人でやってますからね。昔からのお客さんたちや近所の人が沢山もってくるから..」
そう言って笑っていた。
それから数日後、私はタジマ洋服店に再び来ていた。私物のズボンとジャケットを持ち込んで。
三度目のお直し屋が見つかるまで、お客さんたちのお直しは、ひとまず難しい物以外は臨時で全国チェーンのお直し屋に出していたのだが、難しいアイテムやお直し内容になると、話が通じない場合も多々あった。
そんな理由から一旦保留にしていた私物をタジマさんにお願いしてみようと思った。出来ないと言われるのを覚悟して…
タジマさんに内容を伝えた。ジャケットの袖を2cm、パンツは通常の三つ折りで5cm。どちらも生地が硬過ぎてお直しが難しいアイテムだった。
「ありゃー。これは大変そうだね、でも面白い生地だね。ミシンは通らないから手縫いならできるよ。」
驚くほどスムーズに快諾してくれ、2日後に来て欲しいと言われた。それもかなり早い..
不安はあったが最悪自分のだからと腹をくくる。
2日後、その素晴らしい仕上がりを見て驚いた。
ステッチ(縫い目)は直線だから腕が良いというのではない。
スーツなどの場合はあえて数ミリのばらつきを作ることで体の可動に合わせて生地が引っ張られる力を分散する。
ただ、パンツの裾やジャケットの袖口など、直線的に縫ってほしい箇所も当然存在する。
タジマさんの縫ったステッチはミシンかと思うほど綺麗だった。
それから6年。タジマさんに店の洋服を何百回と直してもらったが不満を覚えたことがない。
写真のカレンダーから、2018年6月にたまたま写真を撮っていたのも、こうやっていつか紹介しようと思っていたからなのかもしれない。ここら辺の抜かりなさは自分で自分を褒めてやりたい。4年越しに紹介できた笑。
2020年、仕事中に倒れたタジマさん。そこから硬すぎる生地のお直しは出来なくなってしまったが、先程も書いたとおり、私は店を続けてくれる限り、タジマさんにお願いしようと思っている。
倒れたあと1ヶ月ほどで復帰したタジマさんが僕に、
「昔はスーツは仕立て屋が作るものだったのに、今は皆が既製品を買う時代だからここ数年スーツなんて作ってないよ。」
と、少し寂しそうに語っていた。
既製品を販売している私としては複雑な思いが込み上げてきた。
とはいえ、時代が変わっても40年以上、同じ場所で洋服に携わり続けられるのはタジマさんの技術があるからこそ。
生粋の洋服バカであり最高にかっこいい。
来年2月、10周年を迎えた際に私はタジマさんにスーツを作ってもらおうと思っている。
ここまでこれた影の立役者はタジマさんなのだから。思う存分好きなようにやってもらおう。もちろん予算は伝えるが笑
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