田舎者だからこそ。織りなす物語を いまあなたに届けます。
中学3年生の頃に同級生の影響で洋服の魅力に取り憑かれ、今に至る(41歳)までに体験した、洋服、モノにまつわるアレコレを。これは、
『おすすめアイテムの紹介』ではない。
『私物紹介』でもない。
自分の価値観を形成するうえでターニングポイントとなった『私と"モノ" との記憶』いわばモノにまつわる物語を書き綴る日記。
読んだあなたが、少しでも洋服を好きになるきっかけ、自分の使う道具を愛らしく感じてもらえるようになれば嬉しい。
:Episode.5 『Painted Blank "Jiro"』
連日、自分の作ったものを紹介してしまうことを許してほしい。
このマガジン『僕の洋服物語』はありのまま、誇張も見栄も嘘もなく、私とモノとの物語を伝えることに力を注いでいる。
そのため、身近にあるものから随時紹介していると、どうしてもこうなってしまう。
そんな訳で、つい2ヶ月ほど前にリリースしたこの半纏(はんてん)ジャケットについて書く。
これこそ私の洋服人生を全て表現したと言っても過言ではない。
【自分の想い】
エピソード.0 でも書いたが、私の実家は祖父の代から『梨農家』を営んでいる。洋服が好きになり、当時通っていた洋服屋で働くことになる際、母親にどうしようかと聞いた。
田舎の長男である私は、親が「農業をやってほしい」と願っているのであれば、洋服は今まで通り趣味でいいと思っていた。
「家業を継がないのであれば自分は好きなようにやる」
そう伝えると、即答で「継がない方がいい」という返事だった。理由は簡単。食べていけないからだ。
私に「農業を大きくする」という気持ちが強くあるならもしかしたら反対しなかったかもしれないが、給料は生活できるほどはないだろう。
梨の木というのは、植えてから美味しい実(商品)になるまで最低5年はかかる。収入のため規模拡大を目指しても育つまでにそれだけかかる。
あの時点で、農業を選択する余地はなかった。
現在も農業の忙しい時期だけは手伝っているものの、18歳から40歳に至る現在まで私は洋服の仕事以外をやったことがない。
意外と体育会系の業界なだけに、雇われ時代の休みは週に1回あるかないか。
なんだかんだと休日に呼び出されたり、自分の休みを使って出張に行く。そんなのは当たり前だった。
結果、休みなんてのは年間数えるぐらい。
そんなこともあり私は未だに海外に行ったことがない。
コンプレックスだった時期もある。
今は「そんな人間も面白いだろ?」って周りに笑って言えるようになった。
毎日店頭に立ち、田舎に住みながら洋服、つまり、『洋の服』を販売してきた自分。
それを表現したのがこのジャケットである。
【なぜ半纏なのか?】
先日話した、阿部さんにサンプル制作をお願いした。通常、腕のあるデザイナーにハンドメイドでサンプルを頼むのはコスト的に見てもナンセンスなのは知っていた。
ただ、サンプル制作にこだわったのは、半纏は日本人がどの家庭でも作れるように直線のみで構成された非常に簡素な形。人間の体の稼働に合わせられた実に理にかなった素晴らしい衣類だからだ。
料理の世界でもそう。シンプルなものほど料理人の腕次第。洋服も同様に簡素だけに難しいのである。
さらに、半纏にこだわったのは今や世界的に注目されている着物だが、日本人のほとんどはそのことに無頓着というのも大きな違和感を感じていた。
だからこそ、
「コスプレにならずジャケットとして普段使いできる半纏」
そんなモノを作りたいとスタートした。
私物のコレクションから、おそらく、明治中期に一般家庭で作られた半纏のシルエットをそのまま採用し、現代に合わせて着やすいようにサイズバランスを調整した。
半年以上かかって、ようやく納得ができるシルエットに仕上がった。
だが、ここからが大変だった。
【生地選び】
どれだけ探しても、表、裏ともにしっくりくる生地がない。ほとほと困り果て、完全に暗礁に乗り上げていた。
そんな時、
いつもお世話になっている縫製工場の社長が「コロナで今まで門外不出とされていた伝統生地が大量に在庫として残ってしまっている」という情報を教えてくれた。
送られてきた小さな生地サンプル(2cm四方)を20種類ほど見た時、衝撃が走った。
素晴らしすぎたのだ。
社長にお願いし、工場側と2〜3ヶ月交渉を重ねてくれた結果、なんとか特別に使わせていただけることになった。
これだけ素晴らしい生地を裏地に使うのだから、
表地はシンプルかつ上質な生地にしようと決めた。
【裏勝り(うらまさり)】
江戸幕府時代、庶民に贅沢させず倹約させる「奢侈禁止令」が制定されていたため、自由に衣類を選べなかった人々が裏地に派手で豪華なものを忍ばせる裏勝り(うらまさり)という文化がある。
「見えないところにさりげなくこだわる」まさに先人たちが現代に残してくれた美意識。その日本古来の文化も含めてこのジャケットでは表現したいと思っていた。
【田舎者×文化】
『見えないところこだわっていた日本人』
外から見れば洋服を20年売ってきた派手な人生だが、内面は海外にすら行ったことのない生粋の田舎者。
この久留米織の生地との出会いを経て、ようやく私の中のパズルが完全に組み上がった。
『私の洋服人生×江戸時代から続く日本人の文化や美意識』
表地(外):ヨーロッパ由来のクラシカルなスーツ生地
高級スーツなどに使われる、メリノウール100%。その中でも特に上質なSUPER100という糸を使ったものを選んだ。
裏地(内):日本が生んだ伝統生地
日本で古くから筑後地方に伝わる綿織物・久留米絣の産地である福岡県で、老舗工場さんが作った伝統的な久留米織りの生地のなかから通常は使わない柄物を。
「自分は洋服屋であるがその前に日本人である」
それを表現するための形であり、
『洋』と『和』の2素材使い。
そうやって出来たのがこのJiroである。
夏用の生地なのでほとんど1年間着ることができる。リリースして驚いたが、若い男女にも受け入れてもらえた。若い世代はやはり先入観なく柔軟性があるということかもしれない。
嬉しい限りだ。
【最後に】
ここまで書いたら、察しの良いあなたなら気づくだろう。
『Jiro』という名前の由来。
そう。日本人としてイギリス流のダンディズムを持ち合わせながら、どんな場面でも気概を持った実業家であり日本が誇る伊達男。
『白洲次郎』である。
私の洋服作りはいつもこう。
頭の中でノンフィクションの物語を書き、
それを洋服に投影する。
誰が笑おうとかまわない。
自分だけの表現、自分しか出来ないことをやる。
世界中に素晴らしいデザイナーがいるなかで、
田舎の洋服屋が出来ることは限られている。
真っ直ぐぶつかること。
それしかない。
このJiroを羽織り始めて海をこえ、ヨーロッパ旅行に出かけることが、
私の今の目標である。
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