ウクライナ住宅街で「クラスター爆弾使用」デジタル調査で解明
ロシアとウクライナとの戦争に終わりが見えないなか、民間人の犠牲者も増加している。侵攻直後には、クラスター爆弾が学校や病院の周辺地域にすら着弾したようだ。
取材・執筆:べリングキャット調査報道チーム
訳:谷川真弓
クラスター爆弾は、爆撃目標に小さい子爆弾を大量にまき散らす種類の兵器だ。この子爆弾は散開して、さらに広範囲で爆発し、損害と死傷者が出る確率を高める。
被害が広範囲に及ぶため、クラスター爆弾は、「紛争において民間人への直接的脅威」をもたらす兵器として、また、最初の着弾時に子爆弾が不発だったときは「長期的な」問題を発生させるとして強く批判されている。
世界100ヶ国を超える国家がクラスター爆弾の使用を止めており、クラスター爆弾を禁止するオスロ条約に署名している。しかし、ロシアもウクライナ(同国もクラスター爆弾を保有している)もこの条約に加わっていない。
ロシアはクラスター爆弾を使いつづけている。2014年にウクライナ東部で、その後にはシリアでも使用した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、ウクライナが2015年に同国東部でのロシアが支援する分離主義者との紛争においてクラスター爆弾を使用したと考えられる、という報告書を発表しているが、ウクライナは使用を強く否定している。
この数日、ベリングキャットとその他の紛争モニターやオープンソース・リサーチャーは、ソーシャルメディア上の画像・映像から、ジオロケーション(訳注:地理的位置情報を特定・利用する技術)により、ウクライナの民間地域内におけるクラスター爆弾の着弾地を複数特定することができた。
クラスター爆弾が発射されたおおよその方角も推定でき、何者による攻撃なのかという点についてのヒントも得られた。
なかには多数の犠牲者が出たと思われるケースもある。
たとえばHRWは、ウクライナの病院のすぐ近くに落ちた爆弾が確かにクラスター爆弾だったと検証し、ロシアを非難して、「クラスター爆弾の使用を止め、無差別に死傷者を生む兵器を使った違法な攻撃を中止するべきだ」とロシア政府に呼びかけた。
しかし、インターネットに投稿された画像や映像からは、民間人居住地域でのクラスター爆弾の使用がさらに広がっているとわかる。
北東部のハリコフで何が
ウクライナ北東部の都市ハリコフは、ロシアとの国境からわずか25キロの地点にある。ロシア軍の攻撃が郊外で停滞しているという報道があったように、この数日間、激しい戦闘が行われている都市だ。
ハリコフもまた、クラスター爆弾による攻撃を複数回にわたり受けたようだ。
以下の2月25日の記録では、多数の子爆弾が広範囲で爆発した様子を見ることができる。映像に登場する道路(地図座標50.048093, 36.189638)は、住宅地のなかを走り、小児病院の目の前を通る幹線道路だ。
映像内の爆弾がどの方角から飛来したのかは特定できないが、ハリコフに対する他の攻撃については特定できる。
ロシアは、現時点では多連装ロケットシステム(MLRS)BM-27およびBM-30からクラスター爆弾を発射しているようだ。これはそれぞれのMLRSが使う爆弾の特徴と、飛んできた方角から判断できる。
このようなロケット弾では、発射後、弾頭に搭載された子爆弾がロケットモーターから分離する。子爆弾がばらまかれた後もロケットモーターと弾頭は軌道を飛びつづけ、しばしば地面に衝突してめりこむ。
地面に埋まった部分を見ると、ロケット弾が大体どの方角から飛んできたのか立証することが可能だ。
この例では、ハリコフ市内の道路(地図座標49.987345, 36.261194)に、BM-30ロケット弾のモーター部分がめりこんでいるのが見える。飛んできた方角を推定するには、横断歩道が助けになる。下の画像の説明を見てほしい。
我々はオープンソースで記録されたハリコフの弾頭またはロケットモーター7点について検証を繰り返し、北北東の方角から飛来してきたらしいことを突き止めた。つまり、ロシアとの国境がある方角だ。
BM-27は最大射程距離35キロ、BM-30は最大射程距離70キロなので、いずれもロシアにとって比較的安全な地点に設置して攻撃を実行できる。これは2014年のウクライナ紛争で広く使われた戦術だ。とはいえ、これらのMLRSユニットが発射時にウクライナ領に設置されていた可能性もある。
弾頭とロケットモーターは、子爆弾が放出された後もかなりの距離を飛びつづけることができる。そのため、ロシアの砲兵隊が軍事関連の目標に向けて発射したとしても、弾頭とロケットモーターは民間人居住地域および市街地――ベリングキャットがジオロケーションで検証した映像からわかるように――まで飛びつづけたというケースもあるだろう。
しかし、目標が何であれ、この攻撃はあきらかに民間人にとって致命的であり、多大な損害をもたらすものである。
アフトゥイルカの幼稚園で何が
クラスター爆弾が幼稚園の周辺に落ちたと見られる例も、少なくとも1件ある。
2月25日、ハリコフの西100キロほどに位置する都市アフトゥイルカで、砲撃により数名の死傷者が出た(地図座標50.309797, 34.869819)。報道によると犠牲者には子供も含まれている。
次の映像には、被害者の姿を含む攻撃の直後の光景が映っている。
この映像には、黒い染み(次のスクリーンショットで丸がつけられた箇所)という証拠も見える。複数の子爆弾が幼稚園の建物そのものに落ちた跡だ。
ベリングキャットはジオロケーションにより、BM-27から発射されたとおぼしい9M27K弾の弾頭が幼稚園の約200メートル東にあることを突き止めた。
このケースでは、発射された方角は西北西であり、爆弾が幼稚園の上を通ったとわかる。
この攻撃の前後にも、アフトゥイルカ市内および近郊にロシア軍がいるという報告がソーシャルメディアに複数あがった。なかには、アフトゥイルカと近隣のジニキウを結ぶ市西部の幹線道路や、近くの町チュパヒブカにロシア軍がいる、という投稿もある。
たしかに、アフトゥイルカの中心地にある聖ゲオルギイ教会(地図座標50.308362, 34.880200)周辺では2月24日に激しい戦闘があったようだ。少なくとも1名のロシア人兵士が殺され、遺体が撮影されている。また、同地で2月25日朝に複数のロシア人兵士が捕虜となったという報告もある。
よって、本記事執筆時点では、ハリコフより北はロシアが制圧しているものの、それらの地域とは異なり、アフトゥイルカ周囲ではまだ戦闘が続いていることは明白だ。
ウクライナもまたBM-27とBM-30を運用していること、また、現地で戦闘が続いていることから、このミサイルをどの勢力が発射したかを断言するには情報が足りない。
とはいえ、ウクライナ側がこの種の爆弾を、たとえロシア兵を狙ったとしても、自分たちの都市に対して故意に発射するとは非常に考えがたい。
クラスター爆弾の追跡調査を続けます
クラスター爆弾の威力をコントロールするのは、最も良い条件がそろっている場合でさえ難しい。本質的に広い範囲に作用する兵器だからだ。
民間人のいる場所から距離をとって軍事目標を攻撃したとしても、クラスター爆弾は不発になる確率が高いため、しばしば不発弾となって人命を脅かしつづける。子供や通行人が好奇心にかられて不発弾を拾い上げてしまうことも多い。
しかし、ウクライナからのオープンソースの証拠は、本記事で取り上げたクラスター爆弾は目標めがけて注意深く発射されたわけではないということを示唆している。それどころか、民間人を死傷させ、学校や病院を損壊させた件が複数特定された。
戦闘が市街地へと進んでいくにつれて、このようなクラスター爆弾の使用が急増するおそれがある。
もしクラスター爆弾の使用を思わせる情報を目にしたら、ベリングキャットのTwitterスレッドにリプライを送ってほしい。
取材・執筆 ベリングキャット調査報道チーム
ベリングキャット調査報道チームは、ベリングキャットの調査報道の核となるボランティアと専業調査員で構成されたグループであり、その実績に対し数々の賞を授与されている。
Bellingcat 2022年2月27日
Invasion of Ukraine: Tracking use of Cluster Munitions in Civilian Areas
翻訳=谷川真弓