バブファーベリの鼎立する思惑

「ベリアル考察」と言うとちょっと横道に逸れるテーマなんで、まあおまけというか、番外編的な。「どうして空は蒼いのか」シリーズの黒幕であるバブさんとファーさんとベリアルの思惑がどんなんで、どう交差していたか、みたいな話です。なんか予想以上に長くなった。のーとさんが目次機能をつけてくれたことに感謝しかない。

ルシファー復活はベリアルの独断?

「鼎立」って言ったけどベリアルはファーさんに尽くしているので実質的には「ファー&ベリとバブさん」と言う方が勢力図的には正確なのかもしれない。ただベリアルの独断でやってる(ファーさんが想定・期待していなかった)ことも結構多いんじゃないかと思ってて、そのうち一番大きいのがファーさん復活じゃないだろうか。
「失楽園」回想での「お前と見解を違えるのはわかっていた。こうなる事もな」「俺の研究を知る者が必ず……遺産は……引き継がれる……」(「失楽園」3話3節)という言葉は「自分がルシフェルに殺されるだろうこと」を予測し、同時に「遺産を預ける相手(バブさんかベリアル?)にはもう話をつけてある」という意味を含んでいる。もしファーさん自身がベリアルに「自分を復活させるよう命令してあった」なら「(自分がいなくなれば他の者に)引き継がれる」という表現は選ばないのではないか。
 実際復活した時にも「この身体はルシフェルのものか」「ルシフェルは本当に死んだのか?」(「000」6話1節)などのセリフからして、彼の中では「ルシフェルが死ぬ(=赤き地平に落とされたバブさんが帰ってきてルシフェルを殺している)」といった予想は一切していなかったようだし(「ルシフェルが死ぬこともある」と思っていれば、同じ気配がしたらすぐにサンダルフォンによる天司長継承に思い当たったはず)、「ルシフェルの体が自分の復活の器として使われる」のも全く想定外だったんじゃないだろうか。加えて「何故まだ世界が在る?俺の”終末”はどうなった?」(「000」6話1節)という言葉には「お前に任せていったよな?」の意味が含まれており、「”終末”計画のこの段階に来たら起こして」みたいな意図は始めからなかったと考えられる。
 まあ、あれだ。ルシフェルの死やサンダルフォンによる継承にファーさんがすぐ思い当たらなかったのは、正直若干寝ぼけてたのでまだあんまり頭が回ってなかっただけという可能性もたぶんあると思う。

「とても残念だよ、バブさん」の真意

 「000」4話4節。ベリアルはどうしてもバブさんの口から真相を吐かせなくてはならなかった。この場合の「真相」というのは「創世神ごとき消滅させて本当に満足か?その無意味な計画は余が使ってやる……そして全を束ね絶対者として君臨する。ありとあらゆる力を、ありとあらゆる世界を掌握するために」(「000」5話3節)というバブさんの野望のことだけども、なんでこれをバブさんの口から白状させなきゃいけなかったかっていうと「ここに裏切り者がいるぞ」ということをいまだ目覚めないファーさんに聞かせなくてはならなかったからじゃないか。
 アバター(=「遺産」)が壊れたってこともバブさんにそんな野望があるってこともまだ(予想はしてたかもしれないけど)全然知らない段階でファーさんは一旦この世から退場しているので、その記憶の状態で復活して半覚醒状態でも「死んだと思ったアイツ(バブさん)が帰ってきててベリアルもいるなら別に俺がやることもないや」的にうつらうつらしてたんじゃないだろうか。それを叩き起こすために「コイツをほったらかしにしておくと”終末”計画が個人の野望に使われてしまうぞ」ということをファーさんに事実として伝えなくてはいけなかったし、現にバブさんから本音を引きずり出したことでファーさんが起きてバブさんを刺した。ベリアル一人ではバブさんを止められない(”終末”計画が利用されてしまう)のだということをファーさんに伝え、「だから目を覚まさなくてはならない」と思わせるためにベリアルは満身創痍にならざるを得なかった。そのやり方を指してファーさんは「相変わらず使えん奴」と言ったことになる。

「ルシファーの遺産」の設計構想

「ルシファーの遺産」であるところのアバターとメタトロンは「複数の星晶獣のコアをつないで生み出されたもの」であり、統一された自我を持たない力の集合体として作られていた。その中でもメタトロンは「黒き者(アバター)の歯止め役」「同等の力を持ちつつ、秩序を宿した、よりルシフェルに近い存在」(「失楽園」光の試練)として設計されていたのに、封印が解けた途端受肉できず空の底まで落ちてしまったという。
 しかし「000」でルシファーが明確にした「神なんか世界ごとぶっ殺せ」という考えが「禁忌の実験(=複数コアを所持する獣の作成)」につながっていたとするならば、わざわざ「メタトロン(=歯止め役)」なんか作るのは矛盾してはいないだろうか。
 設計者にして作成者であるルシファーは「神を堕とす力」として「遺産」を作っていた。つながれた「複数のコア」の一つであったアズラエルは「黒い怪物=アバター」の中で渦巻く恐怖・憤怒・憎悪・混乱に浸されたことで発狂してしまったことがイスラフィルの発言からうかがえるが、これらの感情が「つなぎ合わされた複数のコアが異常な状態に対して混乱したことにより感情を相互に煽りあい暴走に至った」ものであったとしたら、それこそ「自我のない力の集合体」が「世界ごと神を殺す」に相応しい狂奔具合だったんじゃないだろうか。
 強大な力が秩序を持って、自律的に壊したいものだけを壊したり、あるいは何かを壊さないことを選択するようではルシファーの望んだ「(神の)独善を破壊するための”終末”」(「000」8話3節)は成立しない。空の世界だけ壊しても星の世界の神が空の世界の神を吸収する助けになるだけで、それは「あてがわれた揺り籠で神の都合に振り回されるなど実に不愉快だ」(「失楽園」3話3節)と言い切ったルシファーの意に反する。ルシファーが「禁忌の実験」でやりたかったのは「神を否定する(=空の世界も星の世界もぶっ壊し、両方の神をぶち殺す)」ことだったはずで、そのためには「力を制御する存在」なんてものは意地でも作りたくなかったはずだ。
 しかし実際にはルシファーは「暴走する力の集合体=黒い遺産(=アバター)」と「『黒い遺産』を制御するもの=白い遺産(=メタトロン)」を作った。そして封印が解けた時「白い遺産=メタトロン」は受肉できずに空の底に落ち、「黒い遺産=アバター」は遠慮なく猛威を振るった。
 この件に関してバブさんは「白(メタトロン=歯止め役)は失ったが黒(アバター=力の集合体)は手に入った」と発言しており、これはひるがえって言えば「失われた白(=メタトロン=歯止め役)も欲しかった」という意味でもある。バブさんの目的は「世界の終わり」ではなく「世界の掌握」にあったわけだから、何もかもを無軌道にぶっ壊されては困るわけである。ということはメタトロンの崩壊はもともとルシファーの差し金によるものでは?
 
ファーさんとしては黒い方(アバター)だけがあればよかったけれど、協力者であるバブさんに「歯止めになるものもつけてもらわないと困る」という注文を付けられてしまった。そこで一応「白い方=メタトロン」という「コントローラー」をハリボテ同然に作ってバブさんを安心させておき(そうしないと「監査役」として最高評議会にチクられる可能性があった?)、「黒い方=アバター」起動の際には壊れる程度の強度に設計しておいたのではないか。その時には真相を知ったルシフェルによって自分は処刑されてるからバブさんに詰め寄られたり作り直しを要求されたりもしないし、ハリボテとはいえベリアルには作り直せないだろうし、起動さえすれば「黒い方」が暴れるだけ暴れて世界ごと神を殺してくれるだろうから俺がやることもない、あとは任せた!というのがファーさんの思惑だったのではないか。
「黒い方=アバター」の作りとしても統一した自我を持たないようコア同士のつなぎはわざと雑にしておいたのではないだろうか。既に述べたけど、つながれたコアそれぞれの自我が消えない程度につなぐことで互いの存在を認識してしまい、相互に激しい混乱が生じる。「自分の体なのに他の者がいる」「自分の体じゃないものに自分が入れられている」と感じるとコア同士は離れようとするが、そこで離れられないようにボディの中に閉じ込められていると、今度はそれぞれのコアが主導権を握るために他のコアに対して攻撃的になる。逃げたいのに逃げられず互いに互いを責め合う状態は互いを刺激しあって増幅し、理性は失われて発狂し始める。理性を失うことで力に対する制御は緩み、常に自分の力を極限まで、かつ無軌道に発揮させられる状態になっていたので「黒い方=アバター」は無茶苦茶に強かったし、その狂気に晒され続けてきたアズラエルは本来の「指教の天司」のポテンシャルを制限なしで全部引き出して暴れていた、ということなんじゃないだろうか。

「遺産」の「鍵」となったルシフェル

 おそらく「ルシフェル自身が『遺産』の『鍵』になる」という事態も、ファーさんの予測の範囲外だったんじゃないか。もしその展開を予測していた(あるいは計画の一部としていた)なら「この身体はルシフェルのものか」「ルシフェルは本当に死んだのか?」(「000」6話1節)という言葉は矛盾することになる。そもそも「遺産」の場所はベリアルにしか知らせてないか、隠す場所をベリアルに一任していて、ベリアルがルシフェルにわざわざ教えて封印させるわけもないとファーさんは思っていたのかもしれない。
 しかし現にルシフェルは「遺産」を見つけ出してカナンへ封じ、自分自身の生命か魂を「鍵」にした。つまり「遺産」はルシフェルが探せば見つかるし封じようと思えば封じられるような、無防備な状態で置いてあったということになる。いやまあそれなりのデコイは施してあったかもしれないけど、ファーさんやベリアルが全力を傾けて本気で隠したとしたら、ルシフェルがすぐに見つけることはできなかったんじゃないかと思う。ベリアルが空の世界のどこかに潜んでいるだろうことはわかっていても、結局一度として見つけることはできなかったんだから。
「遺産」を見つけたルシフェルは、たとえ「簡単すぎる、怪しい」と思っても封じないわけにはいかない。そのまま置いとけばいつでも起動させられるような状態で放っておくわけにはいかない。そこで最も強固な「施錠」の方法として、天司長である自分の命を使ったんじゃないだろうか。
 天司長ルシフェルの死によって「遺産」は発動して世界を破壊しにかかる。発動した「遺産」を止めるのはそれこそ「紅き竜」と「蒼の少女」と天司長が協調しないと難しいくらいに作っておいたのだろう。「蒼の少女」ルリアと「紅き竜」ビィが一緒にいることについてベリアルもバブさんも驚いていたから、何の介入もなしにこの両者が手を組んで「遺産」を止めるために行動する可能性はかなり低いとファーさんやベリアルは見積もっていたのではないか。ダメ押しに「『遺産』の発動=ルシフェルの死」としてセットすることができれば、「遺産」を止めうる三強の一角を確実に外すことができる。「遺産」を見つけたルシフェルが自身の命を使って封印を施すだろうことを予測したベリアルが、わざとルシフェルに回収される程度の場所に「遺産」を置いて行ったという可能性はないだろうか。
 ただまあ、もしそういう意図をもって行ったのだとすると、ルシフェルを殺す方法が確立しない限り「遺産」を封じさせるのはリスキーってことになるわけで、バブさんが「ルシフェル殺せるよ」って言い出したタイミングがいつかってことで…うーん…?わからなくなってきたな…?

ベリアルの空虚な安寧期

 ファーさんが死んでその首を回収・保存した後のベリアルはどうしていたんだろうか。気を張り詰めて気配を消しつつ、時々空の世界で女の子ひっかけたりして遊んでいたようだけども、その間彼は何を思っていたろうか。
 仕えるべき「使役者」を失い、一応その後の生殺与奪は自分が握っており、とはいえ「使役者」本人は別に自身の生存にそこまで執着がなく、生き返らせて喜ばれるとも思えず、とはいえ「獣」の性のために殺してやることすらできず、「遺産」は預けられているもののルシフェルがいる限りたぶん相打ちになっても止められてしまうのでこのままでは“終末”の成功率は高いとは言えない。”終末”を始めるにはまずルシフェルを始末しなくてはいけないが、原則不滅の「獣」であり、その中でも最強と言って過言でないルシフェルをどうやって倒したらいいか、この時点でベリアルは全くわからなかったんじゃないだろうか。ファーさんですら(製作者の欲目とはいえ)ルシフェルが死ぬなんて予測してなかったわけだから。
 ファーさんもいない、“終末”もならない、ベリアル的にはかなりの八方塞がりだったのかもしれないこの時期は「獣」としてのアイデンティティ危機でもあるんだけれど、同時にあの横暴なファーさんに尽くしては顧みられず、暴言罵倒に耐えたりルシフェルと比較されたりする必要もなかったわけで、精神的にはもしかしたら結構安寧の時期だったんじゃないかと思う。ファーさんはもう何も言わずにただ側に、自分の掌中にいて、ルシフェルばかりを誉めそやしたりしない。ヨカナーンの首に口付けるサロメのような、ベリアルにとっては虚しいけど毎日のように耐えていた苦痛がない安らかな日々だった、という可能性についてふと思い当たってしまった。多分考えすぎだけど。
 もしそうだとすると、「ルシフェルが『遺産』を見つけたら、その命を『鍵』にしてでも封印するだろう」という予測と「“終末”を成立させるためには『遺産』の起動より前にルシフェルを無力化する必要がある」という条件が噛み合って「ルシフェルに『遺産』を回収させて『鍵』にならせ、確実にルシフェルを倒せる算段がついてから“終末”を始めよう」という、一見見切り発車みたいな思いつきに至る可能性がちょっと高くなる気がする。
 どのみちルシフェルを倒す方法が見つかるまでは「遺産」を起動はさせられない、それならいっそ「遺産」の管理はルシフェルに任せてしまおう、ルシフェルを何とかできる目途が立ったらルシフェルには退場してもらって「遺産」を起動させよう、それまではこの空虚な安寧の日々を続けよう、という。そうしてルシフェルに「遺産」を封印させ、一方でルシフェルを倒す方法を探し続けていたベリアルの前に赤き地平から「混沌」の力を持って帰ってきたバブさんが現れて「じゃあ”終末”計画を再始動しようか」となったんじゃないか。
 サンダルフォンがルシフェルの首を見つけて抱え上げて最後の伝言を聞くシーンってとても「サロメ」っぽいなと思ってたんだけど、「000」が来るまでまさかベリアルもファーさんの首と一緒に暮らしてたなんて全く知らなかったからね。そうか…「ヨカナーン、私がお前に口づけしたよ」をベリアルの方がやってたのか…そうか…。

サポートをいただけると、私が貯金通帳の残高を気にする回数がとっても減ります。あと夕飯のおかずがたぶん増えます。