ASIAN KUNG-FU GENERATION 後藤正文氏 インタビュー
藤枝市内に計画中の滞在型音楽制作スタジオ『Music Inn Fujieda』。すろーかる12月号にて、発起人であるASIAN KUNG-FU GENERATION の後藤正文氏に特別インタビューを行いました。誌面では載せきれなかった内容をnote限定で公開します!
―本日はよろしくお願いします。ちなみに、『すろーかる』はご存知でしたか?
知らなかったです。でも、これがフリーなんて信じられない。本当にすごいですよね。僕もフリーペーパーを作ったことがあるので大変さはわかります。『すろーかる』に載っているお店だと、丁子屋によく知り合いを連れて行きます。ミュージシャンの中で一番行っているかもしれません。この前は、丁子屋でとろろを食べた後に宇津ノ谷の周辺を歩きたかったんですけど大雨で断念しました。でも東海道はやっぱり良いですよね。
―すろーかる10月号でも200号記念に東海道や老舗の特集をやりました!アジカンとしても結成されてから28年。過去と現在で気持ちの変化はありますか。
デビュー当時は無名の何かでしかないというか、やりたいことはあるけれど、形にならないし、形にする方法もわからない若者でしたね。メンバーのみんなとは、不思議な共同体みたいな感じです。一緒に居ることが多い分、ぶつかり合うこともたくさんありました。今は割と穏やかになりましたけど。おじさんになると喧嘩しなくなるんだなって(笑)。
―本題の『Music Inn Fujieda』は、なぜ藤枝でつくることに?
これはもう縁ですね。出身は島田なんですけれど、当時たまたま友人が藤枝市役所の空き家対策課というところに配属されて、僕から「音楽スタジオに向いてそうな物件教えて」って連絡したことがきっかけですね。それからずっと駄目になる話ばかりだったんですけど、藤枝に何度も通って、お茶の倉庫だった土蔵に行き着きました。本当に縁を辿り続けていった感じです。僕の周りには働きながら音楽をやっている人も多いんですけど、作品づくりの予算が限られている。みんなが自由に音楽を鳴らせる場所があったら良いよね、みたいなぼんやりとした願望からスタートしたプロジェクトで。でも、都内でやろうと思うとお金がかかりすぎてしまうので、地元で場所を探すことにしました。
ー土蔵をスタジオとして選んだ理由は?
天井が高いというのが一番の理由ですね。天井が高いことで、音の響きも良くなるので。今回スタジオになる土蔵は、2階建ての建物なんですが2階の床を抜くと4mを超える天井高になるんです。
―かなり大掛かりな工事になるのでしょうか。
そうですね。まず、宮大工さんが“揚家(あげや)”という建物を解体せずにそのまま吊り上げる作業を行います。その後、基礎を工事して土台ができたところに、また建物を戻します。この技術は、お寺や神社にも使われたりしていますよね。スタジオをつくっていく中で、「どうやって蔵の良さを残すか」というような議論はよくしています。
― スタジオの隣には茶室があったりと静岡ならではの場所になりそうです。
静岡にはレコーディングスタジオが少ないので、スタジオの静岡らしさを考えるのは難しいですけど、らしさについてみんなで考えていくという方が近いかもしれないですね。最初から「こうあらねばならない」を決めるよりは、自由な発想で変わっていって良いと思います。運用や在り方はのんびり考えていきたいし、その方が静岡っぽい気がしますね。「なんとかなるら〜」って静岡の人は言うじゃないですか。それが素敵な静岡マインドだと思うんです。悩みとかに立ち向かった時に、語尾が「ら」であることが救ってくれる感じがします。
― 東京に出てから静岡に帰ることは?
正直、全然帰ってなかったんですよ。年に1回あるかないかくらい。親がライブを見に来てくれるので、それで帰ったことにするみたいな感じでしたね(笑)。だからこれをきっかけに実家に帰る機会が増えました。昔は、地元に対して愛だけじゃなくて恥ずかしさや後悔、しがらみとかもあって。でも今は愛着が勝っています。馴染みのない町でも、歩くと好きになっちゃいますね。
― 地元でお気に入りのお店は?
今は移転しちゃいましたが、『中長(なかちょう)』っていうお好み焼き屋に昔はよく行きました。あと、島田にある『進栄楼』。肉天が美味しいですね。昔は出前で頼んでいて、実家で鳩を飼ってるんですけど「鳩の後藤です」で届くっていう(笑)。高校生の頃は藤枝駅前にあったカラオケ屋『ギャザ』とか、古着屋さんにもよく行ってましたね。
― 〝滞在型〟の音楽スタジオをつくるということで、これまでに滞在して音楽制作した思い出は?
あります!何度か行ったのは山中湖のスタジオですね。隔離されている感じで集中できるんです。通いでやると気が散ってしまうこともあって。駆け出しのタイミングでは、滞在して集中的に音楽に取り組むのはすごく大事な時間だと思います。今回つくるスタジオも、東京や関東の人が静岡まで来たなら泊まりたくなりますしね。もちろん県内の人でも宿泊できたら楽なはず。日帰りだと片付けに時間取られてもったいないですから。あとは、誰でも泊まれるゲストハウスをつくりたくて。「泊まって応援」みたいなプランも作れたらなと思っています。ほかにも、海外のミュージシャンに利用してもらっても良いかもしれません。土日にライブをやると平日時間が余ると思うので、このスタジオで曲作りをしたりとか。静岡は富士山も見えるし、すごく良いんじゃないかなと思います。
―周辺には商店街や蓮華寺池公園があるので環境も良いですよね。
そうですね。バンドマンたちが行くかどうかわからないですけど、朝からやっているラーメン屋もありますし。スタジオができることで、人が行き来するようになって町全体が盛り上がっていったら良いなと思います。
―藤枝周辺にどんなお店があるのか気になる方も多いと思うので、ぜひ『すろーかる』を活用してもらえたら嬉しいです。
ぜひぜひ!各部屋に最新号を置いておきましょう(笑)。
― スタジオに併設予定のコミュニティスペースではどんなことを?
ワークショップをたくさんやりたいですね。作詞作曲、あるいは詩をみんなで書いてみたり。楽器を教えられるミュージシャンもたくさんいますから、楽器教室も良いですよね。それと、賑わっているコミュニティスペースにはキッチンが充実しているところが多いんです。料理教室や、お母さんたちが漬物を漬ける会を開くみたいな。だからキッチンスペースも充実させようって話しています。地酒の試飲会なんかもおもしろいかもしれないですね。音楽と掛け合わせてやるとか。まあでも、用がなくてもふらっと行ける、長く居ても怒られない、そういう場所が少なくなってきているので、ただ来るっていうだけでも良いと思います。ある話によると、学校でなくても出席したということにできる場所を作れるみたいなので、そんな活用の仕方もできたら良いなと考えています。学校に行くのが嫌でも、ここなら「バンドマンと話すのって楽しいな」と思えるような。楽器を教えてもらったり、自習をしたり、お茶を飲んだりとかね。
― “音楽”にはどんな力があると思いますか?
全く知らない人たちが一つの会場に集まって音楽を聴きに来る、コンサートやフェスの会場でよく思うんですけど、参加者たちはきっとそれぞれ考え方や仕事、暮らしぶりが違いますよね。信仰も違うかもしれないし、応援している政党も違うかもしれない。だけど「これ良い曲だよね」って通じ合えるのは、僕たちがある種、社会のなかでうまくやっていけるかもしれない可能性を表している気がします。参加者たちのつながりを深くする力があるはず。そして、そのつながりはその場限りだからこそありがたい。たとえ嫌いな人でもその場では一緒に楽しめるのが音楽の良いところで、同じ場所で、同じビートに感動できることにすごく可能性を感じますね。
―音楽の力ってすごい!と感じた瞬間は?
最初に海外のフェスに出た時ですね。韓国だったんですけど、当時日韓の状況が良いとも言い切れなくて、今ほど文化の相互理解もなかったんですよね。でも5,000人ぐらいお客さんが「ワーッ」と盛り上がってくれたんです。みんな肩を組んで踊り出して。日本人でも「なんて歌っているかわかりません」とか言われる曲も僕らには多いのに、言語の違う韓国の方が日本語の曲で喜んでくれたのがすごく嬉しかったですね。音楽は本当に国境も越えるんだって思いました。
― 最後に、読者へメッセージを。
今さら静岡出身なんて言ってしまって申し訳ないですという感じですが…。横浜で結成したアジカンも半分は静岡でできております。スピッツ、電気グルーヴの後の順番で大丈夫ですので(笑)応援してくださると嬉しいです!
後藤さんのサイン入りすろーかる12月号をプレゼント!以下のGoogleフォームからご応募ください!〆切12月31日(火)
https://docs.google.com/forms/d/1YtjGoQoBYDbVndGH_zY-ZIpjG8I2CCrp_HfheobXujg/edit
後藤正文
ASIAN KANG-FU GENERATIONのボーカル&ギターを担当。インディペンデントに活動するミュージシャン・アーティスト支援のために『NPO法人アップルビネガー音楽支援機構』を運営。2025年秋頃の完成を目指し、滞在型音楽制作スタジオ『Music Inn Fujieda』を藤枝市内で計画している。