物語をつくる(2)テーマの背後にあるもの
前回の「伝えたいことがテーマ」からのつづきです。
■「目に見えないもの」とは
ある映画監督は、こんなことを言っています。
また、神話学者のジョーゼフ・キャンベルは、
こんなことを言ってます。
この「目に見えないもの」とは、一体何なんでしょうか…。
これはひじょうに壮大で深遠なテーマであり、言葉では単純に表現仕切れないこととは思うのですが、「地球交響曲」というドキュメンタリー映画を作っている龍村仁監督の「"見える世界"と"見えない世界"」というコラムの中で、そのヒントになりそうなコメントがありました。
このコメントをヒントにして考えると、「目に見えないもの」というのは、物質と精神でいえば「精神」、身体と心でいえば「心」の部分にあたると考えられます。顕在意識と潜在意識でいえば、自分では自覚できない「潜在意識」の部分が人間の行動の基盤になっているように、我々人間は、「目に見えるものを支えている目に見えないもの」に大きな影響を受けています。
また精神や心の基盤となる「魂」や潜在意識のさらに奥にある「集合的無意識」と呼ばれるような領域や、「運命」「宿命」「奇跡」などと呼ばれる神秘的な出来事も含めて、「目に見えないもの」が、人間、自然、宇宙全体になんらかの影響を与えているように思えます。
「光」は、自然の摂理や生命システムをつかさどっている「大いなる存在」の象徴でもあり、それらは一般的に「神」とか「創造主」という言葉で呼ばれる、すべての宇宙の源としての「目に見えない」存在とも言えます。
科学的には、まだ解明されていないこれらの「不可視の領域」の存在を伝えていくことが、ジョーゼフ・キャンベルが研究して体系化していった「神話」の存在意義のひとつでもあったような気がします。
「目に見えないもの」をどうとらえ、どう描いていくかということが、物語をつくる上でも、映像をつくる上でも、とても重要で根本的な部分になっているような気がします。
■ 神話的要素を取り入れる
「物語をつくる」といっても、すべてを「神話」のような壮大な物語にする必要性もないのですが、神話的要素や神話的世界観を物語の中に取り入れることによって、「目に見えないもの」を描きだすためのひとつの流れや構造のようなものを作りだすことは可能かと思います。
ジョーゼフ・キャンベルの「千の顔をもつ英雄」(1984年)
という本の中で体系化された「英雄伝説の基本構造」というものがあります。
すごく簡単に言ってしまうと、
という流れですが、主人公の英雄が、日常生活から冒険の旅に出かけ、そこでさまざまな体験をし成長して再び日常生活に帰ってくる、その過程でさまざまな出会い、別れ、苦悩、葛藤、試練、恩恵などを経験するプロセスで物語が形成されていきます。この「英雄伝説の基本構造」に影響を受けたジョージ・ルーカスが「スター・ウォーズ」にその原理を適用したことはよく知られています。
「英雄伝説の基本構造」の詳細については
の中でも詳しく説明されてますので、そちらをご参照下さい。
数多くの映画やドラマがキャンベルの提唱した「英雄伝説の基本構造」を応用し発展させた物語構造をもっていることがわかるかと思います。
多くの物語の主人公は、冒頭においては、ごく平凡な日常的な生活をおくっています。そして、ふとした事件や出来事をきっかけに冒険の旅に出かけざるおえない状況に追いやられます。冒険の旅では、旅の仲間や敵対する者に出会い、数々の試練や葛藤を乗り越えていく過程が描かれていきます。
そして最大の試練は最大の危機でもあり、主人公はほとんど死に直面します。しかし、仲間や超自然的な力などに助けられ、なんとか最大の試練を乗り越えます。この過程で主人公は、ある種の宝物を手にいれます。そして、主人公は、宝物を持って再び平凡な日常に帰還していきます。
主人公が数々の試練を乗り越えて成長していく物語、というのは、ほとんどの場合、このキャンベルの「英雄伝説の基本構造」が原型になっていることがわかります。舞台を現代におきかえて考えれば、バリエーションは無限に考えられます。
物語の多くがこの基本構造を持っているのは、主人公の冒険の旅や人間が成長していく話というのが、我々ひとりひとりの「人生」そのものと微妙に重なることによって、共感や感動が生まれていくからだと想像できます。
物語の本質は主人公の「学び」であり、成長の過程としての人間の人生そのものが、反映されているからこそ、多くの人が物語にひきつけられていくのだと思います。
(初稿:2003/08/20)
■ 参考書籍
「地球(ガイア)のささやき」龍村 仁
「千の顔をもつ英雄」(上・下)ジョーゼフ・キャンベル
「神話の力」ジョーゼフ・キャンベル+ビル・モイヤーズ
「神話の法則」クリストファー・ボグラー
「ハリウッド・リライティング・バイブル」リンダ・シガー
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