「先生の白い嘘」問題から見える誠実と傲慢
Xで引用リツイートされて回ってきた記事。
引リツしていたのはいわゆるインプレゾンビだったが
元の記事が気になり読んでみた。
7年かけてやっと形になった作品の"裏話"として、なぜか堂々と「奈緒さん側から要望がありましたが、インティマシーコーディネーターは入れない方法にしました」と言っていたのが、まさかの監督という立場のある人だった。
"すごく考えた"
と書いていたが、何を考えてその結論に至ったのか書かれておらず、舞台挨拶で謝罪した内容は"インタビュー内での発言"だった。
いやいや、そこじゃないですよ。
そんなことで不愉快になってない。
なぜ要望を断ったのかということを説明する必要がある。
当然、どんな理由であっても批判はされる。
しかし説明しない方がもっとその火は大きくなるのだ。
消火しきれないことで最も残念なのは出演した役者であり、原作者だ。
舞台挨拶では一連の騒動について、原作者の鵜飼茜さんも手紙を寄せたが監督やプロデューサーについて一切触れておらず、奈緒さんへの謝罪と敬意だけが綴られていた。
なぜか。
今回のことで真っ先に奈緒さんが鵜飼さんに謝罪したからだ。
正直、主演の俳優がすることなのだろうか。
しかし、この奈緒さん自身や事務所関係者の迅速な対応で人としての"誠実さ"が見えた。
大変な役柄と向き合い、傷つくことも覚悟の上で演じたというプライドももちろんあったはず。
そして、何よりも原作者へのリスペクトがあるからこその行動だと思う。
一方で「間に人を入れたくなかった」という理解に苦しむ理由で必要な人材を排除した監督、プロデューサーはそういった"誠実さ"は見えない。
7年間、この作品の実写化を夢見て実現するために行動してきた人とは思えない。
それどころか"7年間も一途に実写化の実現を諦めなかった俺って凄くない?"という浅ましい"傲慢さ"が見えてしまう。
世間が批判的な状況も"え、そんなに悪いこと?"と思っていそうな気がしてならない。
今回、奈緒さんは酷く傷めつけられる場面が多く実際にインタビューで「涙と震えが止まらなかった」と話している。
そういったとき、監督になにができるのか。
「何かあったら話して」とか「スタッフは女性のみ」とかそういう軽い話ではない。
インティマシーコーディネーターの方は、そういった道のプロだ。
演技を超えて恐怖を感じ、傷ついている心をケアできるのはプロだけだ。
また、女優だけではない。
相手役の俳優にも必要だったはずだ。
風間さんは奈緒さんが雨に濡れる場面で心配したが、役柄のこともあり奈緒さんとの距離感を考え声をかけられなかったそうだ。
しかし、後日差し入れという形でブランケットなどを渡したとか。
これもまた"誠実"だろう。
監督やプロデューサーという立場ある人間が、時代の流れに疎く"前例がないから"と言い訳をしないでほしかった。
役者たちが映画の世界を変えたい、より良くしたいと奮闘する中で上に立つ者の考えが古く凝り固まっていると、結局なにも変わらない。
「何かあれば言ってね」
で、言って何が変わる?
言葉を待つ立場じゃない。
主演だけがいるわけじゃない。
キャリア的にまだこれからという人や、言いたいことは言う性格の人間ばかりじゃないし、顔には一切出さなくても悩んでいるかもしれない。
演じる人間がいなければ成り立たない職業をしているのに、なぜその人たちを大切にしないのか。
また、スタッフもそうだ。
言いやすい空気であるかどうかは自分以外の人間が判断する。
いくらトップの人間がそう思っても、絶対的な差がある。
そのことを一番分かっているのは部下だからだ。
絶対的な権利を持っていることを知っているからこそ、言いにくいことは必ずある。
ましてや要望を断った人間が「何かあったら言ってもらって、理解をし合う」なんて言われても説得力のカケラもない。
私だったら"あんたに言って何が変わる?"と言ってしまいそうだ。
予算的な問題や、スケジュール調整などは言い訳にはならない。
私は「エルピス」「不適切にもほどがある」というドラマでインティマシーコーディネーターの存在を知った。
エルピスは2022年制作のドラマでICを入れることが話題になったのだ。
社会派ドラマにふさわしい取り組みだった。
不適切にもほどがあるでは、作中にICという職業が登場した。
内容はあんまり肯定的ではない感じがしたけど、そういったプロがいることを多くの人が知るきっかけになったと思う。
そして、今回の件で私も含め"それは大問題だ"と言える日本になったということは今後、映像作品を制作する人間にとっていい流れではないかと思う。
役者がいてこその監督(スタッフ)であり、その逆も然り。
お互いに必要な存在で、それがより良い作品を生み出すと考えれば煩わしさなど消えるだろう。
傲慢な権力者に屈しない誠実さが少しでも報われる世界でありますように。