ライブリポート・輝く日本人プレーヤーについて
3月30日(土)、都内で桜を眺めた後にジャズ・ライブへ向かいました。南青山にある「ボディ・アンド・ソウル」で北川潔トリオを聴くためです。
地方暮らしが多い転勤族なので、東京で足を運びたいライブは山のようにあります。
しかし、なかなか予定が見えないのがサラリーマンの悲しいところ。今回のように土曜の夜開催のライブというのはとてもありがたい。
しかもメンバーがいい。
NYでピアノ・レジェンドのケニー・バロンを支える北川潔(b)
リーダー・サイド両方で大活躍の片倉真由子(p)
最近は「くるり」のレコーディングにも参加している石若駿(ds)
これは逃すわけにはいきません。
店内は超満員。このトリオに対する期待の高さが窺われました。私の隣の席には学生かな(?)と思われる若い4人組が。ボディ・アンド・ソウルは料理が美味しいことでも知られていますが、彼らは飲み物だけで粘っていました。自分もお金のない時にこんな感じで過ごしていたことを思い出し、微笑ましく思うと共に、彼らのような世代も聴きたいサウンドがもうすぐ鳴り響くことにワクワクしてきました。
3人が登場すると、北川さんはぎっしりの観客に「いい眺めですね」と一言。そこから、パワフルな音楽が始まりました。
印象的だったのは「リズムの現代性」です。北川さんと石若さんが刻むリズムは普通の4ビートではなく、細かな「音の群れ」からうねりを作り出す独特のものでした。石若さんはそれぞれのシンバルに全く違う響きを持たせていましたし、鈴(?)のようなものを使って、カラフルな音設計をしていました。
打楽器に「カラフル」という表現も変なのですが、そうとしかいいようがない鮮やかな音の数々には引きつけられるばかりでした。
そんな彼の自由な表現を重厚でスピード感のあるベースで北川さんが先導し、まさに「21世紀のリズム」が生まれていたのです。
これに反応して片倉さんのピアノも柔軟にソロを変えるインタープレイで、見事な一体感が成立していました。
もうひとつ、素晴らしかったのが「曲の良さ」です。この日は多くが北川さんのオリジナルでいずれもメロディに新鮮な響きがあり、これも「21世紀的」でした。私は50年代ジャズが大好きで、スタンダードのメロディに親近感を持っていますが、新しい音楽をもっと聴かなくてはいけないなあと思った次第です。
実はこのトリオでCDも出ているらしいのですが、私の手元にはないので、今回は北川さんの作曲能力に着目して作品を紹介しましょう。
2007年録音の「アイム・スティル・ヒア」です。
このアルバムは全7曲が北川さんのオリジナル。それぞれの曲がちょっとした「重心」を持つ渋いものでどうしたら日本人でこういう作曲センスを持てるんだろう?と思います。ベーシストしてビートを追求した結果なのでしょうか。
メンバーはダニー・グリセット(p)とブライアン・ブレイド(ds)。
当代一流のドラマーであるブレイドを注目してしまいますが、録音時に30代前半だったグリセットのプレイもなかなかのものです。
2007年2月6~7日、NYブルックリンでの録音。
北川潔(b) Danny Grissett(p) Brian Blade(ds)
①KG
先日のライブでも冒頭で演奏された曲。ピアノがシンプルなフレーズを反復させるイントロで緊張感を高め、そこからメロディ本編に入っていく構成が秀逸です。ソロに入ってからの展開は非常にスリリング。グリセットの伝統を押さえながらもスピード感があるプレイいいですし、ブレイドがシンバルのビートを細かく調整しながらときどき強烈に煽るタイミングも絶妙です。そういえば石若駿さんもブレイドの影響を受けているそうです。
③CIAO CIAO
重厚なベースがけん引役となるラテン調の曲。イントロは北川さんのグルーブ感あるソロ。ここからブレイドのラテン・リズムが加わってピアノが端正にメロディを奏でます。このアルバムの中ではちょっとした可愛げがあるナンバーと言ってもいいでしょう。聴きものはリズムで、北川さんとブレイドがグイグイ引っ張っていきながらも、盛り上げどころと「引き際」を明確に意識してアクセントをつけています。ベース・ソロでは北川さんが伸びやかに弦を響かせ、よく歌っています。タムを多用したブレイドのソロはキレがあり、本当に幅広いテクニックを持っているんだなと驚かされます。
⑥Innocent Mistake
リズムが迫りくる「不穏さ」もあるナンバー。ある意味、典型的な急速調4ビートナンバーですがベースの躍動感とシンバルの爆発力による「前のめりさ」があり、これが「21世紀的な」緊張感を生んでいます。
北川さんはまだ若いのかと思っていたら、調べると既に61歳!立派なベテランなんですね。これだけの才能と実績がありながら、いままであまりフォローしていなかったことに長年のジャズ・ファンである自分がびっくりしました。
どのジャンルの音楽でもそうでしょうが、誰もが共有する評価の場がなくなった時に、現代のプレイヤーのことを知る機会が減っているのかもしれません。まだまだライブに足を運ばなくてはと思いました。