ベニー・ゴルソン&ザ・フィラデルフィアンズ:東京五輪招致疑惑に思うこと
スロウ・ボートです。初めてnoteに投稿します。世の中の動きとジャズを結び付ける気楽なエッセイ、お楽しみください。
東京オリンピックをめぐって悲しい動きが起こっています。日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長の退任が避けられない見通しだというのです。
「悲しい」のは退任そのものではなく、こうしたことになっている原因です。東京オリンピックの招致をめぐり竹田会長が贈賄に関与した疑いがあり、フランスの司法当局から調査を受けているのです。
この疑惑に関しては1月に竹田会長が記者会見を開きましたが、質疑に一切応じなかったことも話題になりました。その際、あるテレビ番組で竹田氏を知るというコメンテーターが「残念だ。竹田さんは本来、こんなこと(贈賄)をする人では全くない」と語っていたのを覚えています。
竹田氏は両親が皇族だった(後に皇籍を離脱)ということもあり、華々しい経歴を持ち、馬術の日本代表としてミュンヘンオリンピックに出場したこともあります。そんな由緒正しいスポーツマンは、実際、人格的にも優れているのかもしれません。
だとすれば、そんな人でも贈収賄に巻き込まれかねないほど現在のオリンピック招致というものが「金まみれ」の汚いものになっていることになります。竹田会長の疑惑が本当のことであれば責めを負うべきでしょうが、当人としては「やりたくないことに手を染めてしまった」という感覚なのかもしれません。暗然とした心境になっているのではないでしょうか。
胸の内にブルーなものを抱えている状態・・・今回はそんなタイトルを持つ1曲を聴いてみましょう。「ベニー・ゴルソン&フィラデルフィアンズ」収録の「ブルース・オン・マイ・マインド」です。
このアルバムは、ベニー・ゴルソン(ts)がアート・ブレイキー(ds)のジャズ・メッセンジャーズで名作「モーニン」を吹きこんだ2週間後に制作されました。同じくメッセンジャーズにいたリー・モーガン(tp)と快調なプレイをしています。
「ブルース・オン・マイ・マインド」はフランス映画「殺られる」のテーマで、ゴルソンが作曲しました。長く安定して良質の作品を生み出してきたゴルソンですが、この当時は演奏と共に一つのピークを迎えていたことは間違いないでしょう。
1958年11月17日、NYでの録音。タイトル通り、フィラデルフィアからNYに進出してきたミュージシャンによるクインテットです。
Benny Golson(ts) Lee Morgan(tp) Ray Bryant(p) Percy Heath(b) Philly Joe Jones(ds)
②Blues On My Mind ゴルソンのアレンジ力も光るナンバー。まず、2管でブルージーなメロディが奏でられますが、その背後のリズムがブレイクを繰り返して「柔らかな緊張感」を醸し出します。そのままレイ・ブライアントのピアノ・ソロへ。彼らしく一音一音がクリアながらブルージーなピアノが聴けます。この曲の中で特に「ブルー」なのが続くゴルソンのソロ。彼らしいソフトな音色ですが、最初はダークな低音で迫り、「心の中にあるブルー」を表現しています。やがて「うねる」節回しを多用してどんどんブルーの深みへ・・・。 アート・ブレイキーがバックの時と比べ「煽り」が少ないので無理な咆哮がなく、ゴルソンの個性がよく出ていると言えるでしょう。その後パリッとしたリー・モーガン~安定したパーシー・ヒースのソロへと続き、メロディへ戻ります。最後のピアノの一音で終わるエンディングがお洒落。
③Stablemates こちらもゴルソンが作曲した有名ナンバー。まずイントロでいきなりドラム・ソロを披露するフィリー・ジョーが素晴らしい。切れのいいハイハットで入り、そこにタムでたたみ込んできます。シンバルを使わないで50秒間、テンションを保つ名人芸もすごいですし、ドラム・ソロで入るというゴルソンの大胆な設計も大したものです。そして、おなじみのメロディのスタート。リー・モーガンがミュートを使って親しげな雰囲気を出し、ソロにつなぎます。モーガンのソロは「すばしこい」という言葉がいちばん合うでしょうか。小気味よく・切れ目なく次々にフレーズを繰り出してきます。続いてピアノ・ソロ。ここは少し優雅に音数少なく展開。たぶんメロディに触発されて抑制的にしたのでしょう。これに対し、ゴルソンのソロは少々爆発気味。かなり熱く、攻撃的に「うねり」フレーズを多用します。最後はピシッとメロディに戻り、このグループのまとまりのよさを示しています。
この記事を書いていたら、ネット上に「今月19日のJOC理事会で竹田会長が辞意を表明する可能性がある」という報道が出てきました。疑惑に関して「起訴の可能性が高い」という見方もあるそうです。竹田会長は何を思っているのでしょうか・・・。
JOC会長辞任となれば東京オリンピックのイメージダウンは避けられません。それにしても、こんな危ういゲームに突き進んでしまった政治家や官僚たちは全くお咎めなしなのでしょうか。
さまざまな経緯が「ブルー」な気分をもたらすオリンピックになってしまったことは間違いありません。
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